孤立5

「シネッ!」


 魔人化したベギーオが狙ったのはレストだった。

 この期に及んでベギーオは卑劣な考えを持ち、ラストがダメでもラストに少しでも傷を負わせることを目的とした。


「レスト、下がっていろ!」


 バロワはレストを押し退けて前に出る。

 ベギーオとバロワの剣がぶつかる。


「くっ!」


「邪魔だ!」


 バロワの大きな剣が飛んでいく。


 ベギーオにバロワが完全に力負けした。

 魔人化した全力のベギーオにバロワは敵わなかった。


「させません!」


 後ろからコルトンが切りかかる。


「貴様もよくも邪魔をしてくれたな!」


「なんですと……」


 コルトンの目が驚きに見開かられる。

 振り返り様に剣を振ったベギーオはコルトンの剣をへし折った。


 命すら燃やすほどの勢いで魔力を剣に込めていた。

 剣の技量など関係なくなるぐらいの魔力がベギーオから溢れ出していた。


 ベギーオの蹴りが腹に入り、骨が鈍い音を立てるコルトンは後ろに真っ直ぐ飛んでいく。


 2人がかりでも相手にならない。

 鼻血を流し始めたベギーオは再びレストに視線を向けた。


「それだけはさせない!」


 バロワにもコルトンにもとどめを刺すつもりがなく、レストだけを執拗に狙っている。

 迫るベギーオから守ろうとバロワがレストに覆いかぶさる。


「しねぇ!」


「やめろぉ!」


 ベギーオの剣がバロワの肩に触れるのとリュードの剣がベギーオの腹に刺さるのは同時だった。

 リュードは力を込めてベギーオをそのまま押し出す。


 バロワとコルトンがやられたのを見てリュードは先にベギーオを倒せなばならないと思った。

 状況もわからないので参戦していなかったモノランにリュードの抜けた穴を埋めてもらい、リュードは加勢に駆けつけた。


 よく動いたものだと思うがリュードの追撃を一度受けたベギーオは受けきれずに体が大きく流れる。


「終わりだ!」


 ここで押し切らねばと振り下ろした剣を返してそのまま振り上げに移る。


「はぁ……腕が…………」


 ひどく興奮状態にあったベギーオは痛みを感じていなかった。

 自分の剣を持った腕が飛んでいく様がスローモーションのように見えていた。


 そのままリュードが剣を振って、肩口から腰まで斜めに自分の体が切り裂かれる様子すらもはっきりと見えていた。


「ガハッ……!」


 喉から血が上がってきてドバッと吐き出してしまう。

 時間の流れが元に戻り、腹に穴が空き、腕が無くなり、体が袈裟斬りにされた痛みが一斉に感じられてどこが痛いのかすら分からなくなる。


「リュード!」


 ラストたちが駆け寄ってくる。

 モノランが参戦して、容赦のない攻撃にラストたちの方も片付いていた。


「バロワ!」


 レストの代わりにベギーオの剣を受けることになったバロワの顔色は悪い。

 リュードがバロワを押し返したので大事には至らなかったが肩口の切り傷は思ったよりも深くて出血がひどい。


「ルフォン、ポーションを!」


「分かった!」


 レストに抱きかかえられるバロワはぐったりとして動かない。


「レスト、これを飲ませろ」


 取り出したポーションの1本をレストに渡して口から飲ませる。

 リュードはもう1本のポーションをバロワの肩に直接振りかける。


「ぐっ……」


 傷口にポーションをかけられて痛みに顔を歪めるバロワ。

 ポーションも使ったし傷を放っておかなきゃ死ぬまではいかない。


「おい、なんでこんなことをした」


 地面に倒れたまま浅い呼吸を繰り返すベギーオ。


「俺は……王になるはずだった。


 そう言われた……そうなるはずだったのに……


 どうしてですか、どうして助けに……」


 目は虚ろで満点の星空をぼんやりと眺めている。

 リュードの言葉にも反応を示さずぶつぶつと独り言を呟き、少しずつベギーオの目から光が消えていく。


「何故ですか……俺は…………王に…………」


「ええと?」


 とりあえず派手に登場して、とりあえず言われたままに戦った。

 状況がいまだに分かっていないモノランは首を傾げている。


「大丈夫だ、モノラン。


 俺たちもよく分かってないから」


 従う部下はいたようだけど信頼していた右腕は実はコルトンで、味方だと思っていたバロワは裏切った。

 王に最も近かった男は瞬く間に転がり落ちた。


 どうにも釈然としない、そんな印象をリュードに抱かせてベギーオの目からは完全に光が失われた。

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