孤立4
「何してるの?」
ヒソヒソと話しかけてくるルオラン。
ルフォンにも聞こえているようで耳をピクピクと動かしているけどリュードに話しかけていることも聞こえているので周りの警戒を続けている。
「何って色々とピンチなんだ」
「モノお姉ちゃん呼んでこようか?」
「……そうだな、お願いするよ。
出来るだけ派手に登場するように言ってくれ」
「分かった!」
小柄なルオランは影から影へと素早く移動する。
視線は向けられないので視界の端で見ていたがあっという間に闇に紛れて消えていって分からなくなってしまった。
周りを囲むベギーオの手下たちもルオランに気づかなかった。
「……待ってくれ!」
震える手でナイフを取ったラストは今まさに胸に自らナイフを突き立てようとしていた。
「なんだ貴様、邪魔をするな!」
「ラストが死んだらお前はどうなる」
「なんだと?」
「ラストが死んだとしてもあんたは助からないだろう。
むしろラストを殺害して逃げたとなれば一生追いかけられるはずだ」
「それがどうした!
ダンジョンブレイクを起こしてしまった時点でもうこの国での俺は終わりだ。
全てを失ったのだ!
だから、だからラストだけは許さない……
俺にはあの方がいる……捕まりさえしなければまた返り咲くことだって…………」
怒りに満ちた瞳がほんの一瞬虚ろになる。
「……ダンジョンブレイクの件ならまだ理由だって付けられるだろう」
ベギーオの見せた変化を疑問に思うが今はそこに触れている暇はない。
「何が言いたい?」
「ダンジョンブレイクは放っておかれても起きるものだけど稀に突発的に発生することもあるんだ。
ダンジョンのことは誰にも分からない。
管理されていてもダンジョンブレイクが起こる可能性はあるんだから、なにもダンジョンブレイクをあんたが起こしてしまったと責任を取ることはないじゃないか!」
かつてダンジョンブレイクが突発的に起きてしまって街が滅んでしまった例がある。
今回については何が原因かは判明していないし、突発的なら判明もしないだろう。
一概にベギーオがダンジョンブレイクを起こしたとは言い切れない。
「はははっ、面白いことを言うな貴様。
お前のようなものが側にいたら違っていたかもしれないな。
だがもう遅いのだ!
たとえそのような理由づけができたとしても今となってはただの後付けになってしまう。
俺にはラストを殺すしか残された道はないのだ」
なんでそんな道しか残されていないのだ。
怒りはベギーオの目を曇らせ、破滅の道しか見えなくさせている。
「邪魔をするならこの女から先に殺す」
レストの髪を雑に掴んで顔を上げさせる。
「やめて!
う……リュード、ごめんね」
色々と助けてくれたのに。
ようやく大人と認められたのに。
こんなことになってしまった。
大人だった期間は短かったなぁとラストは思った。
色々やりたかったこととかたくさんあったのに何もできないまま終わってしまった。
せめて痛くないようにしたい。
ためらうとその分自分が苦しむことになる。
「ラスト……ダメ!」
「…………どうして」
「なんのつもりだ!」
もう時間稼ぎもできない。
だけどラストを殺させるわけにいかない。
リュードは咄嗟に胸に突き立てようとしたナイフを掴んだ。
「リュード、どうして……!」
「馬鹿野郎、こんな終わり方、ないだろ?」
ラストの目から涙が伝い、リュードの手から血が伝う。
そしてリュード以外の誰も気づいていない。
空が黒い雲に覆われたことに。
「遅いぞ」
閃光。轟音。
地面が揺れて誰もが天変地異が起きたと錯覚する。
「私の家で何をしている!」
派手な登場と注文をつけられた。
せっかく魔力も全快したのだし雷の力を見せつけることが雷の神様の再興の一助になると学んだモノランはどデカい雷を落とした。
「ベギーオ! その人を放せ!」
「なに!」
そんな状況でいち早く動いたのはバロワであった。
剣を抜き、落雷に怯んだベギーオに切りかかった。
予想もしていなかった裏切りにベギーオは地面を転がるようにして回避した。
バロワは追撃することもなく、レストの前に立ちはだかってベギーオを睨みつける。
「レストから離れるんだ!」
「なんだと……貴様、裏切るのか!」
「……俺はお前の仲間であったことなど一度もない!」
「くそっ!
プジャン、イセフ、こいつをなんとかするんだ!」
「なんとかって、ガッ……!?」
「イセフ!
何をしている!」
イセフがプジャンを殴りつけた。
ゴロゴロと転がっていくプジャンを見れば手加減なしの本気のパンチだったことが分かる。
「な、なんだ?」
いきなり相手が仲間割れを始めた。
バロワがベギーオを、イセフがプジャンを攻撃した。
なぜ仲間であるはずなのに裏切ったのか。
バロワはともかくイセフはベギーオの右腕のはずではないのか。
「イセフ、お前気でも狂ったのか!」
「いいえ、私は狂ってなんかいませんよ」
「ならどうして……」
「私は私のことをイセフだと名乗ったことは一度もありませんよ」
「何を……貴様、誰だ!」
イセフがゆっくりと指先を首元に持っていく。
指を曲げ首の皮を掴むと一気に手を持ち上げた。
べろりと顔の皮がむけて中から別人の顔が現れる。
「コルトン!?」
不機嫌に見える仏頂面には見覚えがある。
一瞬でイセフがコルトンになった。
「なんだと!?
いつから……いや、イセフはどうした!」
「あなたの副官はすでに捕らえてあります。
証拠を集めるためと潜入しておりましたが……まさかこのようなことをしでかしておりましたとは。
ダンジョンブレイクの件だけでなく、サキュルラスト様殺害容疑でも取り調べねばなりませんね」
「クソ……」
大丈夫、お前は未来の王で何をしても全て上手くいく。
その言葉が頭の中にこだましている。
王たる自分は何をしても上手くいく運命なのだ。
ラストを消して自分が王になるのだとベギーオは思っていたのに人質は失って、自分の秘密を握る副官も実は捕らえられていたと知る。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
もはや逃げ場はなかった。
どうしてペラフィランは現れただけで誰も攻撃しないのかわからない。
どうせなら全員死んでしまえばいいのにどうしてこうも上手くいかない。
ベギーオが魔人化する。
翼が服を突き破り、瞳が赤みを増す。
「お前は殺すんだ。
そしてお前も死ねぇ!」
「あなたたちも投降しなさい!
国の裏切り者についていってもいいことなど……くっ!」
リュードたちを取り囲んだベギーオの手下たちがリュードたちに一斉に切り掛かる。
ヴィッツが投降を促そうとするけれど手下たちは一切ヴィッツの言葉を聞き入れずに剣を振り下ろしてくる。
「なんと!」
「ヴィッツさん大丈夫!?」
「ええ、助かりました」
戦うしかない。
気合も発さず無言で切りかかる手下たちに手加減はいらないとヴィッツが火をまとった剣で1人の腕を切り落とした。
しかしそれで手下は止まらず、そのまま残った腕でヴィッツに殴りかかってきた。
尋常じゃない相手の行動にヴィッツの反応が少し遅れる。
ルフォンが素早くフォローに入って手下の首を後ろからスパッと切り裂かねばヴィッツはそのまま殴られていた。
「チッ、戦いにくいな」
ナイフを掴んだせいで手が痛み、血で剣が滑る。
「あっ、えっ……」
「ラスト、戦うんだ!」
気が動転しているラストに後ろから切りかかる手下をリュードが切り捨てる。
なんだか手下たちの様子もおかしい。
まるで自分の命が惜しくないように突撃してくる。
切られても怯まず、仲間の死にも動揺を見せない。
「モノラン、こっちを助けてくれ!」
ただこちらの雑魚ばかり相手にもしていられない。
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