孤立3

 ユゼナを蹴落とさせ大領主の座につけた。

 プジャンの地位を脅かすのはラストだと吹き込んで恨みを抱かせた。


 王の器でないとわかっていたのでラストに対して大きな敵対心はなかったが煽れば簡単に自分の地位を守るためにラストを敵視することになった。


 ベギーオは大領地を2つ手に入れたも同然だった。

 ここまでお膳立てしてやった。


 なのにプジャンは失敗した。

 ペラフィランはいる。


 そしてペラフィランには子供がいてそれを守ろうとしていることや手を出せば誰だろうと地の果てまで追いかけて殺すこともベギーオは知っている。

 そう、聞いたからだ。


 ペラフィランを先導させてラストを亡き者にする計画は完璧で失敗するはずなどないものだった。

 けれど失敗した。


 プジャンにさせたことは様々あったが最初で最後となる失敗。

 どこで失敗したのかは知らないがとにかく最大のチャンスを逃した。


 実際のところはベギーオの作戦は成功していた。

 ペラフィラン、もといモノランを扇動してラストにぶつける作戦はほとんど成功していたのだ。


 ただ思うような結果にならなかった。

 リュードという変数のおかげでモノランはラストを殺すことを止まった。


 ベギーオもプジャンも知らない計画の破綻内容。


 完璧だと思った計画の上にあぐらをかいて確認を取る方法も取っていなかったので何が起きたか分からず、ただ失敗したとしか2人は思っていなかった。


 その失敗から全てが狂い出した。

 プジャンもそこでラストが亡き者にできると思っていたので使えるダンジョンの名簿を上げるのにそのまんま名簿を提出した。


 なのでラストに充てがわれたダンジョンは難易度も高くなく、またプジャンも1人ではなんの計画も立てられなかった。


 あっさりとラストはダンジョンをクリアしてプジャンの領地を離れてしまった。


「お前が成功していたらダンジョンブレイクが起きることもなかった!


 ダンジョンの難易度を上げようとしたせいであんなことになった……それはお前にも責任があるんだからな!」


 どうせプジャンは自分で手を汚すことなく金で雇った奴にやらせようとしたに違いない。

 そいつらが失敗してしまったのだと怒り心頭だった。


 プジャンのところをうまく抜けてしまったのだがバロワはベギーオにもコントロールできなかった。

 ラストに対して敵対心がなく、ベギーオたちに協力的でない。


 なぜなのか時々協力する姿勢はみせるのだけど気まぐれなのか積極的でもなかった。

 なのでラストへの敵対心を植え付けることもできなくて操ることもできなかった。


 まるで他に目的でもあるようだった。


 だからベギーオは焦った。

 自分でなんとかせねばならない。


 ラストが大人の試練を乗り越えることなどあってはならないこと。


 プジャンのように失敗した時の保険もかけていたベギーオはダンジョンも上手く高難度ダンジョンをぶつけることに成功した。

 ただこれまでの実力を見るとダンジョンを攻略してしまう可能性がある。


 ベギーオはダンジョンの難易度を上げようと画策した。


 ダンジョンは放置すると難易度が上がるものがほとんどである。

 中にいる魔物が増えたり、強力になったりと長い時間魔物が倒されないままでいるとダンジョンの難易度は上がっていき、最終的にダンジョンブレイクを起こす。


 そしてもう1つダンジョンが難しくなる要因があることをベギーオは知っていた。

 前々からベギーオはスケルトンのダンジョンを死体の処理に利用していた。


 邪魔な者を消し、ダンジョンに放り込む。

 すると死体はいつの間にか消えていたからである。


 しかしある時多くのものを処理したタイミングと少しダンジョンが攻略されなかった時期が重なった。

 いつものようにと挑んだパーティーがデュラハンを倒しきれずに撤退してきた。


 デュラハンがいつも以上に強く、スケルトンも多かったのである。

 何回か攻略にも成功しているベテランパーティーの失敗の報告を受けたベギーオは冒険者ギルドと原因を調査した。


 原因は分からず、より上のパーティーがなんとかデュラハンを倒すことで次からは普通の難易度に戻ったので調査は打ち切られた。

 けれどベギーオだけはその原因に心当たりがあったのだ。


 死体を放り込むとダンジョンの魔物が強化されるのではないか。

 ボーンフィールドダンジョンに限ったことなのか、他のダンジョンでもそうなのかは不明だけど少なくともボーンフィールドダンジョンではそうだと気づいた。


 大人の試練で使うので封鎖する必要もある。

 何か手を加えるにもちょうどよかった。


 ラストが大人の試練を乗り越えている。

 過去最大となる5カ所もの試練に挑み、3つを終えた。


 ラストにその意図がなくても周りはベギーオの対抗馬としてラストの存在を意識していた。

 例え協力者がいても乗り越えた大人の試練は当人の実力の証明になってしまう。


 何もできないと思われていたラストが大人の試練を乗り越えて周りも実力があるのではないかと思いはじめた。

 ラストに傾きはじめた目障りな中立派に、ベギーオは手をかけた。


 誰もいきなり暗殺されるだなんて思ってもいないので簡単だった。

 あとはダンジョンに放り込んでしまえば死体の処理とダンジョン強化が同時にできる。


 これを好機とばかりにベギーオは周辺を自分の都合の良い人で固めるために整理していった

 不可解な失踪を遂げた人が何人も出たが愚かなことにその捜索をベギーオに依頼する。


 上手くいった。

 上手くいく、はずだった。


 ベギーオはやりすぎたのだ。

 ダンジョンは与えられる死体を受けて強化され、魔物の数を増やし、そして爆発してしまった。


 ダンジョンブレイクが起きることはベギーオにとって青天の霹靂であった。


「あとちょっとだったのに……何もかも上手くいかない……


 全部。全部ラスト、お前のせいだ!」


「いたっ……」


 怒りで手に力が入り、レストの首に剣が触れる。

 浅く首が切れて血が流れる。


「やめて!」


「ラスト……私はいいから」


「よくないよ!」


「美しい姉妹愛だな!」


 ベギーオが手を上げると隠れていた男たちが一斉にリュードたちを取り囲む。

 ナイフを取り出すとラストの前に投げ落とす。


「自分で、自分を刺すんだ」


「なっ、そんなこと!」


「うるさい!」


「キャア!」


 歪んだ笑みを浮かべたベギーオにレストが抗議して頬を叩かれる。

 女性に対しても容赦のない一撃。


 それを見てバロワの体が揺れ、顔をしかめた。


「待って!


 分かった……分かったからお姉ちゃんに手を出さないで!」


 ベギーオの狙いはラスト。

 レストが殴られたりする必要はない。


「リューちゃん、どうするの」


 ルフォンが小声でリュードに尋ねる。

 どうすべきなのかリュードも迷っていた。


 なんとかしたいのだけれどレストが人質に取られてしまっているし、ベギーオの手のものに囲まれているので動けない。

 これまでの態度を見ればベギーオはレストに手を下すことにもためらいはない。


 なんのきっかけもなく行動を起こすことができない。


「おにいちゃん!」


「えっ?」


「こっちこっち」


 この場にふさわしくない幼い声が聞こえた。

 しかもどこかで聞いたことがあるしリュードをおにいちゃんと呼んだ。


 ベギーオたちにはバレないように周りを見渡して、それに気づいた。


 リュードたちの近くにある岩の影。

 黒い影の中に二つの金色の瞳が浮いていた。


「僕だよ、ルオランだよ」


 モノランの姉の子供であるルオランであった。

 山に登りはじめた時は朝だったけれど、休みなく登り続けてここに来るまでにおよそ1日半かかった。


 もう辺りも薄暗くなってきてしまっているので黒いルオランは影と同化していて誰も気づいていなかった。

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