最後の挑戦5
「快適〜!」
「こうなるとちょうどいい感じだな」
沼地と乾燥地帯よりももっと両極端な環境。
どうなるんだと思っていたら想像を遥かに超える大胆さで攻めてきた。
雪原と溶岩地帯が入り混じる、現実には決してあり得ない光景が眼前に広がっていた。
大きな視点で見ると二つに分かれていて、沼地と乾燥地帯のようにところどころに雪原の中に溶岩地帯、溶岩地帯の中に雪原といったマダラになっているところもある。
力技も良いところだけど光景としては面白い。
それに熱い空気と冷たい空気が混ざり、ちょうど良いぐらいの気温になっている。
雪原の方を通るとちょっと寒く、溶岩地帯を通るとちょっと暑い。
歩く場所がどこよりかに寄って多少の気温の変動はあったけどおおむね極端な気温差があることもなくて快適だった。
さらに面白いのが出てくる魔物も通常のものとは異なっている点である。
スノーゴーレムは熱に極端に弱い。
なので雪原のど真ん中であっても焚き火でもあると近寄ってこないほどの魔物であるのだがダンジョンのスノーゴーレムは少し勝手が違う。
というのも遊び半分でスノーゴーレムを引きつけつつ溶岩地帯にスノーゴーレムを誘導してみるとためらうことなくリュードたちを追いかけてきたのである。
しかも雪原よりも暑い溶岩地帯にあってもスノーゴーレムは溶けない。
熱に強いスノーゴーレムとなってるのかダンジョン内の環境の影響はダンジョンの魔物に影響を与えないのか、不思議なものである。
寒くなれば溶岩地帯に、暑くなれば雪原にと移動を繰り返して階段を探した。
最終的には階段は雪原の奥にあって結構な寒さのところだった。
若干ダンジョンに対して殺意が湧いた。
「寒いのダメなんだ〜」
雪原の方ではリュードの動きが明らかに鈍っている。
ラストは移動するだけの短い時間なら特に問題もなかったのにリュードはすぐに寒さにやられてしまっていた。
完璧超人に見えるリュードにも弱点があった。
それも寒さに弱いなんて意外で面白いじゃないとラストはニヤつく。
ようやく見つけた弱点もそんなことだと可愛らしさも感じる。
「すごく苦手なんだが、見ていて分かるか?」
「うん、動きが全然違うもん」
いや分かりませんよ。
そうツィツィナは思った。
リュードが寒さが苦手なことは見ていて丸わかりなのだけど動きに精彩を欠いているかどうかはツィツィナには判別不能であった。
それだけラストがリュードをよく見ているということである。
「そーか……どうしても寒さだけはな……」
出来る対策も服を重ね着するぐらいしかない。
後は太って脂肪でもつければ寒さには強くなれるかもしれないが寒さ対策に太るなんてナンセンスだろう。
寒い地域に行くには良い防寒具を身につけることを忘れないようにしなきゃならないと改めて自覚した。
とりあえず階段を降りて寒いところは抜けたので一安心。
体温が上がってくるまで少し階段で待機してから地下12階に挑む。
ゴーレムに関しては進化という概念もないので中ボスはデカくてちょっと強化されたゴーレムだった。
2つの環境があって、2種類の魔物が出る。
そして2つの環境が合わさったような環境が出てきて2種類の魔物が同時に出てくる。
最後には中ボスとして2種類の魔物の進化種や強化版と戦う。
完全に出来上がった流れ。
分かりやすく環境や魔物もレベルアップしていき、まるで誰かのために作り上げられたかのようで本当に天然のダンジョンなのか疑いたくなるほど。
強化版と言っても高が知れている。
なんなくゴーレムを倒したリュードとラストは地下13階に向かった。
「大集合ってか?」
本当に面白いダンジョンだ。
地下13階、これがこのダンジョンの最終階で本当のボス部屋である。
何が待ち受けているのか期待してみるとこれも予想を外してはこなかった。
これまで戦った中ボスがボス部屋の中には勢揃いしていた。
つまり6種類の魔物がボス部屋にいたのである。
それぞれ生息している場所も違い、協力したり共生したりしている魔物ではない。
仮に野生で同時に同じ場所にこの6種類の魔物がいたとしたらリュードたちが来る前に争いあっていたことだろう。
けれどもここはダンジョンで、魔物はダンジョンから生まれたもの。
6体の魔物は争い合うこともなく、リュードとラストだけを敵として襲いかかってきた。
争い合わないだけで協力したり連携を取っている様子はない。
知恵を働かせている魔物もいないので前に出るの全ての魔物の意識がリュードの方に向いた。
ただ6体の魔物がガン首揃えているだけの話だった。
冷静になれば難しいこともない。
リュードは6体を相手取り、防御に専念した。
攻撃を防ぎ、かわし、間を抜けて翻弄する。
体の大きく動きのノロいゴーレムなんかを上手く使うと簡単に6体の魔物を右往左往させることができた。
反撃まで考えるとリスクがだいぶ出てくるけれど身を守ることだけを考えると無理をしなくても持たせることはできる。
その間に気配を消していたラストがゆっくりと弓を引いた。
元々ラストが使っていた弓はデュラハンとの戦いで無茶をした時に壊れてしまった。
あの弓は特注品で魔力を込めると引きやすくなる技術が使われていて、かつかなり強めに弦も張ってあった。
そんなものそこらへんに売ってはいないので今は市販品のものを使っていた。
勝手の違いに最初は狙いがうまく定まらなかったけれど道中割と頻繁に使ったのでしっかりと狙えるようになっていた。
威力も、矢の軌道もだいぶ落ちるので案外慣れるまでに時間がかかってしまった。
矢に魔力を込めて爆発させるやり方は強いのだけど矢がすぐにダメになってしまう。
ここまでで矢も消費してしまったので魔力を爆発させるチャージショットと呼ばれる魔法は使わない。
大きく棍棒を振り下ろして隙だらけになったホブゴブリンの頭を狙う。
「いいぞ、ラスト」
深々と突き刺さる矢。
一瞬の間を置いてがくりと膝が折れてホブゴブリンが倒れて、魔力の粒子となる。
魔物もラストには気づいているのだが身近にいるリュードの方を優先してラストの方にはいかない。
遠距離攻撃を先に相手するとか、戦力を分ける知恵を魔物は持っていなかった。
攻撃終わりがやはり隙となる。
リュードに向かって大きく口を開けて噛みつこうとしたハイコボルトはかわされて体が前に流れる。
踏みとどまろうとして完全に体が止まった隙にラストが矢を放った。
新しい弓の軌道も自分のものにしているラストはハイコボルトの後頭部に矢を突き刺した。
意図したものでもないけど狙いやすい順に狙っていくと弱い順に狙うことになり、自然と戦った順に倒していくことになった。
ホブゴブリン、ハイコボルトときて、次はカエル、そしてトカゲとラストの弓矢が射抜いた。
1射1殺。
もしかしたらボスだったしこれまでの中ボスよりは強かったのかもしれないがラストの正確な射撃の前にあっという間に魔力の粒子にされてしまった。
残るはゴーレム2体。
こうなるとひとつ前の階と変わらなくなってしまった。
ゴーレムを倒すにはコアと呼ばれる魔力の集まったところを破壊する必要がある。
ラストの矢でも正確に打ち抜けば倒せないこともないが体のどこにあるのか分からないコアを打ち抜くのは至難の業である。
残るはゴーレムだけ。
ここでリュードたちは役割を入れ替えることにした。
リュードが退いてラストが前に出る。
ムチを取り出してゴーレムの体を叩きつけて注意を引きつける。
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