最後の挑戦4

「それにしてもサキュルラスト様、お強いのですね!」


 兵士であるツィツィナは食べるも早い。

 ルフォンの料理の美味しさもあってあっという間に食べきり、少し手持ち無沙汰になる。


 か弱いラストをよくよく護衛するように!


 王様がわざわざ直で来て下していった命令。

 ガチガチになっていたツィツィナは王様の顔やなんかは覚えておらず、この命令だけをしっかり覚えていた。


 兵士たちの間ではラストの評価は割れていた。

 ツィツィナたちのような若い兵士たちにはラストは能力が低く、王様の寵愛で大領主になったなんて噂もあるぐらいだった。


 大きく嫌われているわけじゃないけど血筋だけでいい地位をもらえたことに対して嫌っている人はいた。

 ツィツィナは羨ましいとは思うけど嫉妬するまでは思わなかった。


 頭も良くて書類仕事を任されることもあるので大領主になんかなるとたくさんの書類仕事がありそうなことが予想できて、身震いする気分であったからだ。


 逆に年配の兵士たちの間ではラストの評価は様々であった。


 ラストに対して否定的な派閥に所属する兵士はラストのことをこき下ろす。

 とことんまで気に入らないようで咳をしただけでも文句を言うだろう。


 ラストに対して好意的な派閥は、少ないのであまり見かけないのだがそうした人はあまり何かを言わない。

 否定派に食ってかかることもなく、良い点を吹聴して回ることもない。


 ラストが目立つことを嫌っているのを知っているからそうした好意的な派閥の人は何も言わないでいたのである。


 そして中立的な人で昔のラストを知っている人はラストには才能があるという。

 実際昔ラストは才能の塊と評してもいいぐらいの子供であり、中立的な立場でちゃんとラストを評価すると闘えないと考える方がおかしいのである。


 同行者として選ばれたリュードは実力があるだろうことは分かっていた。

 ラストが相当頭のいかれた人で見た目が好みだからとリュードを選んだのでなければ実力があるからリュードが選ばれたのだと誰もが考える。


 ゴブリンやコボルトはともかくカエルやトカゲになると少しは苦戦でもするのではないかと心配していたけれど全くラストの相手になっていなかった。


 色々経験を積んできたのてカエルやトカゲ如きには遅れは取らないと自負するツィツィナでも兵士になりたてのような頃だったら中距離攻撃を仕掛けてくるカエルのような魔物は厳しかった。

 見た目も気持ちが悪いし。


「ふふん!


 実は私ってすごーく強いんだよ!」


 そりゃもうデュラハンを倒すほどにと鼻高々のラスト。

 ダンジョンブレイクでデュラハンを倒した1人であると言われていることはツィツィナの耳にも入ってきていた。


 兵士たちの間では真偽のほどが分からず非常にざわついて議論になった話であった。

 何が本当のラストの姿なんだろう。


 きっと護衛が終わったらみんなに聞かれると思うのに未だに目の前にいるラストの本当の姿を測りかねていた。


「シューナリュードさんもお強いですね!」


「実は俺ってすごく強いんだよ」


「もー!


 リュード!」


 リュードがラストの言葉まんまに答える。

 そのように茶化して言われると自信満々に言った自分が恥ずかしくなってリュードの肩を軽くこづいた。


「はははっ、ごめんごめん」


 少なくともだ。

 一部の噂にあるような、無能や戦えないといった評価は間違っていると現実に自分の目で見て判断できた。


 王様が言うようなか弱いなんてこともとてもじゃないけど言うことができないと評価を改めたのであった。


 外でみんなも待っている。

 必要以上の時間固い階段に座っていても逆に疲れてしまうので休憩も終わりにして攻略を再開する。


 次は地下9階。

 これまでの流れなら新しい環境になることが予想された。


「さ、寒い!」


 事前にこのようなダンジョンであることは分かっていた。

 難易度的には難しくないと分かっていたリュードとラストはあえてダンジョンの情報をあまり頭に入れないで入ってきていた。


 下調べすることも大事だけど、どんな状況でも対応できることも必要であるとそうも思っていたのでその場その場で対応することにしたのだ。

 それが完全に裏目に出た。


 地下9階は一面の雪景色であった。

 階段途中から空気がひんやりとしてきていたのでヤバいとリュードは内心思っていた。


 グッと気温が下がり息が白くなる。

 たった1つの階層のことだから大丈夫だろうと舐めてかかっていたがこのまま長時間ここにいると命の危険もありそうだ。


 リュードは寒さに弱い。

 竜人族が寒さに弱いのもあるのだけれど転生する前の普通の人の時も非常に寒さに弱い人だった。


 最初は雪に喜んではしゃいでいたラストだったけどすぐに寒さにやられ出した。

 雪を楽しめるのも防寒具あってのことである。


「さ、さむぅい……」


 こんなことになるとは思わず防寒具も持ってきていない。

 そんな中でツィツィナは1人厚手のマントを羽織っていた。


 こんなところばかり準備がよろしいのだ。


 寒さが1番の天敵。時間との勝負である。


 地下9階に出てきた魔物はスノーゴーレム。

 なんてことはない、手足のついた雪だるまである。


 大した戦闘能力もない魔物ではあるが倒すと雪がバラバラになってしまうので冷たくて面倒くさい。

 ラストの矢も効きが悪いので主にリュードが前に出て戦う。


 戦って体が温まるよりもかぶる雪のせいで凍える方が早い。


「あっつ!」


 唇の色が悪くなりかけてきてやっと階段を見つけた。

 冷気が降りてきて寒いのでさっさと降りていくと何だか気温が上がってきた。


 これまで寒いところにいたせいかと思ったけれどそうではなかった。


 地下10階は雪原地帯の9階と180度変わって高音の溶岩地帯であった。

 と言っても赤々と燃える溶岩が流れている場所ではない。


 噴火が終わった後のような、溶岩が固まった後の大地で黒い岩肌のような地面には草の一本も生えていない。

 だから溶岩地帯と断言してもいいのか若干怪しさもあるけれど気温の高さもあってとりあえず溶岩地帯とした。


 冷えた体に暑さが余計に堪える。

 寒いよりは暑い方がいいとリュードは思うけど女性陣は暑さも嫌なようだった。


 寒ければ上に着込むなりすればいいけど暑いとどうしようもない。

 ツィツィナはすぐにマントをしまって暑さに対して渋い顔をしていた。


「ちょっと極端すぎない!?」


 自然環境の博覧会みたいなダンジョンだ。

 一気に汗が噴き出してきて、この階の魔物であるメルトロックゴーレムと戦うのも億劫になる。


 9階にしても10階にしても魔物の数はそれほど多くなくて助かった。

 どっちの環境でもいるだけで体力が奪われるので急いで階段を探した。


 メルトロックゴーレムは見た目ロックゴーレムの中に溶岩があるように見えるゴーレムで熱量が高くて攻撃は熱分痛いが、その代わり胴体の岩はロックゴーレムよりも柔らかかった。

 しっかりと剣を振り抜いてメルトロックゴーレムを切り裂けば剣にダメージもそれほど残らない。


 刺して付けておけば熱が入って剣がダメになってしまうようなことも可能性としてはあるのだ。

 一撃で倒す練習だとしたらこのダンジョンの冒険者育成力はオカンレベルである。


 早く階段をみつけたかったけど思っていたよりも時間がかかって汗だくになってしまった。

 なぜなら階段そのものも地面の溶岩が固まった黒っぽい色と同じような色をしていてなかなか発見できなかったのである。


 とりあえずここも辛いので熱気を感じなくなるところまで降りていく。

 環境もある程度極端になると厳しいものであると良く分かった。


 そしてちょっと環境ぐらいは頭に入れてくればよかったとリュードは反省した。

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