最後の挑戦3
「ふぎゃっ、ぎゃあああああ!」
ラストにカエルは任せて出来るだけ周りを見ないようにしよう。
そんな怠慢な態度を取ったツィツィナに天罰が下った。
カエルの舌に足を絡め取られて沼に引きずり込まれかけるツィツィナ。
リュードたちが見逃したのではなく、そのタイミングでカエルがそこに生み出されたのだ。
ただ警戒していれば避けられたはずの舌。
ラストが素早くカエルを仕留めたから大事には至らなかったがカエルが間近に迫ってきて、というか引き寄せられてツィツィナが迫っていって、大変な恐怖であった。
ツィツィナは半べそをかいていた。
ラストはかなり優秀で弓矢の狙いも一瞬で正確に決めてくる。
自分が護衛なんてする必要なかったのではないかとすら思えてしまう。
ツィツィナのために早めに階段を見つけてあげたかったのだけど思いの外時間がかかってしまった。
低い草が生い茂り、階段を隠すように生えていたためである。
「ご迷惑をおかけします……」
大失態だ。
警戒を怠り助けられてしまうばかりが情けない姿までさらした。
「ウォーターレイン」
こんなことになるとは思っていなくてツィツィナは着替えなんて持ってきていない。
カエルに引きずり回されて泥だらけになっているツィツィナに魔法でザバっと水をかけてやる。
「ドライウォーター」
いわゆる生活魔法というもので魔法が復活しつつある今では使える人も増えてきた。
ただラストもツィツィナも使えないのでリュードが仕方なくツィツィナを綺麗にしてあげる。
泥まみれでも、びしょ濡れでもそのままにしておくのはかわいそうだからしょうがない。
強制的に乾かすと服が若干傷むけど今はそんなことも言ってられない。
地下6階に下りると今度は沼地とは真逆のフィールドが広がっていた。
名付けるなら乾燥地帯フィールドとでも言ったらいいだろうか。
地面は乾きひび割れて、空気も乾燥している。
木々が細っこいのは大きな差はないけど環境的には沼地とは大きく異なっていた。
割と見晴らしがいいので敵もすぐに見つかった。
地下6階のお相手はトカゲであった。
地面と似たような赤黄色っぽい色をしたトカゲでやや好戦的でこちらを見つけると声を上げて襲いかかってきた。
カエルは舌での攻撃がメインで、ほとんど接近して戦うことがなかったけれどプレス攻撃のような行動をとったカエルもいた。
トカゲは積極的。
噛み付いたり爪で切り裂いてきたり、尻尾で叩きつけてきたりと接近戦を挑んでくる。
カエルよりも素早く、表面は固い。
倒すのに苦労しないけれど着実に敵がレベルアップしている感はある。
ただの平坦な乾燥地帯ではなくて丘のような高くなっている場所もあった。
ダンジョン構造的にも起伏が出てきて少しレベルアップした。
この階はたまたま丘から階段を見つけることができた。
乾燥地帯で草木も少なく階段は目立っているので簡単に見つけられたのだ。
地下7階。
これまでの傾向からいくと予想もできる。
「ほわぁ……」
ただちょっと予想外だったはフィールドの環境だった。
決して交わることのない沼地と乾燥地帯。
地下7階のフィールドはその2つが入り混じっていた。
乾燥地帯の真ん中に沼地があったり、逆に沼地の中に乾燥している地面があったりとあべこべで奇妙な作りになっている。
無理矢理2つを合わせてきた。合わせようとして合っていない。
これはダンジョンという感じがする。
出てくる魔物は全くの予想通り。
カエルとトカゲである。
乾燥地帯に隠れられてもいないカエルがいたり、沼地に隠れるトカゲがいたりと生態を取り替えたみたいな魔物もいたけれどリュードとラストには通じない。
カエルが出るのでリュードとラストでツィツィナを挟み込むようにして移動した。
カエルとトカゲをリュードが前に出て倒す。
ここまで来ると初心者はちょっと大変かもしれない。
ただ初心者が中級者にステップアップするための練習場とするにはいいのではないか。
誰かが意図を持って作ったような、そんなダンジョンだ。
「あそことあそこ……あれとあそこかな」
丘と呼ぶべきか小山とでも呼ぶべきか。
地面の起伏も激しくなり、地面の盛り上がったところも結構高くまできていた。
ここまで来ると丘というよりかは小さくても山と呼ぶべきな気がしている。
とりあえず階段を探すためには上から見る方がいい。
山の上からグルリと周りを見渡して階段が見えなきゃ草が生い茂って地面を隠しているところに目星をつけておく。
直接見えないのならまた草の中に隠すように階段がある可能性があるからだ。
先ほどの舌で引きずられたことがトラウマなのかカエルを見るたびビクつくツィツィナ。
草の中に階段を見つけた時はツィツィナもほっと胸を撫で下ろしていた。
そして地下8階。
またも石の扉があって、2回目の中ボス戦となった。
デカいトカゲとデカいカエル。
ツィツィナがいたら卒倒していたかもしれないほどの大きさのカエル。
たがしかし、リュードたちの相手ではない。
今回も中ボスをさっさと倒してリュードはさらに階段を下りる。
「一度休憩しようか」
地下8階から地下9階までの階段を半分まで下りたところで立ち止まる。
階段を降りてフィールドに出てしまうと敵は弱くても数はそれなりにいるので気は休まらない。
その点階段には魔物はでない。
休憩スペースにするには狭いけど背に腹は変えられない。
中ボス部屋で休んでもいいけど中ボスがどれぐらいの頻度でリスポーンするのかは分からないので微妙なリスクがある。
目の前にデカいカエルがリスポーンしたらツィツィナの悲鳴で鼓膜が破れかねない。
ダンジョンの中はどのフィールドも基本的に明るかった。
どの階層も大体昼間の時間帯ぐらいに設定されているのか日は見えなくても昼間の明るさがあった。
つまり外の時間と中の時間はリンクしていない。
常に明るく、階段で休むことも思いつかなきゃフィールドに居続けることになるので余計に時間の感覚もなくなるだろう。
ダンジョンに入ったのは朝早く。
今の時間はおそらく昼をかなり過ぎてしまっているのではないかとリュードは思っていた。
もっと前に休むべきだったが初めてのダンジョンにリュードも知らず知らずのうちに感覚を狂わされていた。
昼を過ぎていると気づいたのはお腹が空いたからだ。
もっとヘタをすると夕方ぐらいにもなっている可能性すらもあった。
リュードは腰に付けたカバンの中から昼食を取り出してラストに渡す。
「ツィツィナは?」
「あっ、えっと……」
「……ほら」
「すいません……」
またも大失態。
ダンジョンのことは事前に調べて聞いていたはずなのに、すっかりこうしたことが頭から抜け落ちていた。
見届け人の仕事を任されるなんて初めてのことで禁止事項などを頭に入れるのにいっぱいいっぱいになっていた。
真面目なツィツィナなら大丈夫だろうと他の人も確認することを怠ってツィツィナは昼食を持ってくることも忘れてしまっていた。
リュードが多めに持ってきた昼食をツィツィナに渡す。
賄賂に当たってしまうので断るべきだけどもうすでに足を引っ張っているのに空腹でさらに足手まといになっては笑い話にもできない。
多めに作って持たせてくれるルフォンに感謝である。
旅の中でコンロも使えないので彩鮮やかとはいかないけれど焚き火料理もルフォンは相当な腕前である。
簡易的な料理ではあるものの、パンと干し肉をかじっているよりは遥かに美味いものである。
周りの目がなきゃもっとちゃんとお弁当を作ってくれていたんだろうけど今ある最大限で作ってくれたものでもご馳走であった。
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