最後の挑戦2

「あっ、あったよ!」


 ただゴブリンが出るだけのダンジョンならそれこそ駆け出し冒険者がやるようなダンジョンになってしまう。

 フィールド型でゴブリンが出るだけのダンジョンではなく、このダンジョンは下へ下へと階層が続いていく階層型という作りのダンジョンでもあった。


 さらに厄介なことにこのダンジョンの階段は固定ではない。


 場所も見た目も時折変化をしているので毎回階段を探さねばならないのである。

 その手間や厄介さが中級ぐらいと評される理由の1つである。


 ラストが見つけた階段を降りていくと地下2階も1階と同じような作りであった。

 ただちょっとだけ草の背が高くなり、平原が草原になったとほとんどわずかな差があるぐらいのものであった。


 1階も2階も視界は悪くない。

 見回していると地下2階の魔物の姿もすぐに確認できた。


 コボルトである。

 犬頭二足歩行の魔物で戦闘能力としてはゴブリンと大差はない。


 鋭い牙がある分強いと言ってもいいのだけどゴブリンにしろコボルトにしろ噛みつかれるまでボーッと突っ立っていることの方が難しい。

 視界が開けているのでコボルトの接近にもすぐに気づくことができる。


 戦わなきゃいけないけど不意打ちを警戒して進むよりは精神的には楽だからいい。


 草が伸びた分厄介だったのはコボルトの方ではなくて階段捜索だった。

 草が高くなったので地面の視認性は下がってしまった。


 コボルトは見えても階段は簡単には見つけられない。

 草をかき分けて進んでようやく階段を見つけることができた。


 地下3階は打って変わって森になっていた。

 木が生えて地面に根付いている。


 これが本当の木なのかどうかはリュードにも分からない。

 もしかしたら何もなくて木があるように見えているのか、ダンジョンが木を生み出してここに根付かせているのか。


 木があるとしてもこれは地上に生えているものと同じであるのかどうかもわからない。

 調べた人がいるのかもしれないけれどリュードはどうであるのかその答えを持っていない。


 森にはなったのだけど出てくる魔物はゴブリンとコボルトであった。

 変わり映えもせず数だけは多い魔物に若干の嫌気がさす。


 森になると流石に見通しは悪くなる。

 ゴブリンもコボルトも小型の魔物で木の影ぐらいになら隠れられてしまうので敵じゃない魔物であっても警戒は必要であった。


 そして見通しが悪いということは大変なのはまた階段探しである。

 人数も2人だけであることもネックになっている。


 探す目が少ないのでしっかりと周りを見ていかなきゃいけない。

 なんだかツィツィナも探してくれているような気はするけど見届け人が階段の場所を教えてくれるかは分からないので期待はしないでおく。


「結構めんどくさいね……」

 

 戦いの方はいい。

 ゴブリンでもコボルトでも何匹こようとリュードとラストにとって敵ではない。


 やはり問題は階段を探すことである。

 目を皿のようにして地面を探し回る行為は肉体的な疲労よりも精神的な疲労としてやってくる。


 せめて戦いがもうちょい骨があるなら気も乗るのだけどゴブリンもコボルトも可愛くないし強くないし、やりがいがない。

 犬頭なのだけどコボルトは可愛くない顔をしているのだ。


 可愛かったら可愛かったでやりにくいけど可愛くないのもなんだか気が乗らなくなってしまう。


「そうだな。


 思ってたよりもこのダンジョン厄介だ」


 見通しのいい場所でゴブリンとコボルトを相手し、ちょっと見通しの悪い場所でさらにまたそのどちらも相手する。

 基本を見直すには悪くはないけど、今はおさらいしたくて来ているのでもない。


 地下3階の階段も時間をかけて見つけて降りていくと今度は小部屋になっていて、正面に石の扉が開いていた。

 ボス部屋はボス部屋なのだがこれは中ボス部屋なのである。


 これもまたこのダンジョンの特殊さを表している。

 基本的にダンジョンにはボス部屋は1つので終わりであるはずなのだけれどここには中ボス部屋がある。


 話だけを聞いたときには面白い作りだと思ったのに、いざ挑んでみると長くて面倒な作りであった。


 例によってツィツィナは扉の中には入らず外で待機。

 リュードとラストが中に入ると石の扉が1人でにしまって閉ざされる。


 そして目の前には中ボスが待ち受けていた。


「ホブゴブリンとハイコボルトか」


 ゴブリン、コボルト、ゴブリンとコボルトときて、ゴブリンとコボルトの進化種であるホブゴブリンとハイコボルトと来る。

 やはり作りとしてだけみると非常にユニーク。


 ホブゴブリンとハイコボルトが1体ずつ。

 石の扉が閉まる音で2体もリュードたちに気づいた。


 進化種ではあっても見た目がデカくなったぐらいで劇的に強くなったわけじゃない。

 デカいゴブリンとデカいコボルトぐらいのものなのだ。


 剣を構えて警戒するリュードの後ろで素早く矢を番えたラストの先制攻撃。

 矢がホブゴブリンの頭に突き刺さり、ホブゴブリンが倒れる。


 続いてラストが次の矢を引き絞り、連続攻撃。

 駆け出したハイコボルトの頭に矢が突き刺さり、ハイコボルトも倒れる。


「…………」


「…………やったぁ?」


「やったな」


 ホブゴブリンとハイコボルトの体が魔力の粒子となって消えていき、矢がカランと音を立てて地面に落ちる。

 リュードたちは中ボスに勝利した。


 勝利したのはいいけれど何の実感も湧かないあっけない勝利であった。


「お早いですね!


 ……何かありました?」


 石の扉が開いてツィツィナがリュードたちの勝利に嬉しそうに駆け寄ってくる。

 しかしリュードたちの顔は勝利に喜んでいるようには見えなかった。


 何かがあったのではなくて、何もなかった。


 リュードは入って剣を抜いたところから動きすらしていなかったのだ。

 このダンジョンも中級者向けとは言わずにちゃんと管理して初心者育成に使えばいいのにとリュードは思った。


 入って来たのとは反対側にある石の扉も開き、その奥に下へと続く階段があった。

 強者が故の悩みみたいなものをこんなところで感じるなんて誰が予想しただろう。


 味気なさすぎる。

 階段探しに終始するだけのダンジョン攻略など楽しくないぞ。


 こうして地下4階の中ボスをクリアして、地下5階へと降りた。

 また様子は一変した。


 地下5階は沼地であった。

 細い木々とぬかるんだ大地、湿度が高くて不快感のある空気まで再現されている。


 空は薄曇りでどよんとしていてそんなところまで雰囲気を出さなくてもいいのにとため息が出そう。

 ダンジョンの中にいるとは思えない再現度だけど嬉しくもない環境なのでさっさとクリアしてしまいたい。


 一体どうやってこの状況を再現して、なぜこんな環境を再現するのか。

 考えるだけ考えて何の答えも出ないまま一生を費やした学者もいる。


 リュードもダンジョンに一生を捧げるつもりはないので疑問は思ってもあまり深く考えないことにした。

 神様あたりに聞いたら分かるかなとも考えるけど、それはチートである。


 地下5階に出てくる魔物はデカいカエルだった。

 トード種の魔物であるけど正確な魔物の名前は不明である。


 沼の中から飛び出してきて長く伸びる舌で攻撃してくるのが主だった。

 ここに来て1番泣きそうになっていたのはツィツィナだった。


 どうやらトード種の魔物の見た目がダメらしく、出てくるたびに悲鳴を上げて、さらに魔物を呼び寄せていた。


 沼の中から飛び出してくるから奇襲といえば奇襲なのだがよくよく見ると沼は浅くて、地面が盛り上がって見えていたり気泡が出ていたりと事前に察知することも簡単にできる相手であった。

 カエルの方も惹きつけて攻撃するつもりなのである程度まで接近しないと動かない。


 先に気づければこっちのものだ。

 ラストはカエルの攻撃範囲外から矢を放って先に仕留めてしまっていた。


 最初は胴体狙いで広く狙いを定めていたが、慣れてくると目の目の間に狙いを絞って放っていた。


「ヒイィ……ありがとうございますぅ……」


 別にツィツィナのために出てくる前にカエルを倒してるんじゃないけどツィツィナは姿を見る前にラストが倒してくれるものだから勝手に感謝をしていた。

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