王様の前に1人の父親1
美しく着飾った2人にようやく目が向けられるようになってきたと思ったらリュードは店の前に停められていた馬車に乗せられた。
向かう先は王城。
なんとビックリ、ドレスを買うだけでなくそのまま王城に向かうことになってしまったのである。
ちゃんとメイクまでして、リュードまで着替えさせられておかしいと思ったのだけどこんなつもりだったとはリュードは思いもしなかった。
ラストが伝えていたので店の人が王城に伝えて王城から派遣された馬車である。
店を出て馬車が停まっていて、誰か来たのかと思っていたらエスコートしろとラストに言われてこれが自分達の乗る馬車だととても驚いた。
ラストとルフォンはリュードに対面するように座った。
密室で3人きり。
照れるリュードに気を良くしていた2人はちゃんとした感想が欲しいとリュードに求め始めた。
ちょっとだけだけど照れにも慣れてきたリュードは改めて2人のことをよく見る。
こんな機会がこの先あるのかも分からないので目にも焼き付けておこうと思った。
こんな時に写真が無いことがすごく悔やまれる。
まずはラスト。
白いドレスを身にまとっている。
ややクリーム色にも近い白でよりラストの真っ白な髪の色が際立つ。
そしてさらに2種類の白に挟まれた真っ赤な瞳が目立って美しく見えた。
落ち着いたデザインのドレスと相まってラストは色白清楚なお嬢様になっていた。
意識しているのかいつものようにニカっと笑うのをやめて上品に笑ってみせるラストにはリュードもドキドキとする。
幼さを残しながらもより可愛さを引き立てていて周りの目を引く美少女がラストであった。
続いてルフォン。
ラストと対照的にルフォンは黒いドレスを着ている。
瞳や髪色と同じ黒いドレスはルフォンの雰囲気を1つにまとめ上げていた。
その中で黒いドレスには金の糸で刺繍がしてあって動くたびに黒の中でもきらりと光るものがある。
普段は動きやすい服装のルフォンが体のラインが分かるようなドレスを着ている。
ルフォンは体の均整も取れていてドレスを着ていても全く着られている感じがない。
可愛いタイプの顔をしているルフォンだけれど、プロによる化粧を施した結果今のルフォンは大人びていて綺麗さが際立っている。
吸い込まれるような闇を切り取ったような艶やかな魅力がリュードの目を惹きつけた。
見た人が目を離せなくなるような妖艶さがルフォンに備わっていた。
思ったままを口にして2人を褒めた。
もうどうとでもなれとリュードは持てる限りの言葉を使って2人のことを褒めちぎった。
最後にもう1度綺麗だと告げようとするけどこれを2人を見て言えていれば完璧だったのに。
どうしても照れ臭くて、窓の外に視線を向ける。
最初は服が違うだけなんて思っていた自分を殴りたいほど2人は変わっていた。
「……ラストはすごく可愛らしくて、ルフォンはなんだかとても大人っぽくて綺麗だ」
「う、うん、ありがとう……」
「こう真正面に言われると照れるなぁ……」
リュードの思い切った褒めに2人も照れる。
褒めろというけれどいざ褒められると照れくさいのはしょうがない。
3人が3人顔を赤くして、無言になってしまう。
それぞれ視線をよそに向けて馬車に揺られる。
「失礼いたします。
王城に着きました」
馬車が停まって御者に声をかけられる。
ハッとして正気に戻る。
なんでいきなり王城に向かうことになったのかラストに聞くつもりだったのに聞くのも忘れてしまった。
ラストに言われ、リュードが先に降りて手を差し出す。
ラストがリュードの手に自分の手を添えて優雅に馬車を降りてくる。
忘れがちだけどラストも王族の一員でこうしたマナーも学んできた御令嬢なのだ。
ルフォンもラストに習ってリュードの手をとって降りようとするけどラストのような優雅さは流石に演出できない。
動作がぎこちなくラストには敵わない。
ドレスでの動きにもなれていなくてちょっと動きがカクカクしていた。
「お待ちしておりました、サキュルラスト様」
「お久しぶりです、ウグドーさん」
ラストがドレスをつまみ上げて軽く頭を下げる。
「お名前を覚えていただいておりまして光栄でございます」
「お父様の右腕であるウグドーさんを忘れることなんてありませんよ」
ヴィッツよりもさらに年上そうな老年の血人族が城の前で待っていた。
相当なお年に見えるのに杖すらもなくピンと背筋伸ばして立っている。
後ろには物々しい護衛たちが立ち、部下らしき人も側にいる。
ウグドーはラストの父親である王様の秘書官長を長年勤めている人物であった。
昔からラストを可愛がってくれた人の1人でラストが勉強でわからないことがあるとウグドーに聞きに行った。
どんなことでも丁寧に教えてくれて知識もある人であった。
「お初にお目にかかります、ウグドーと申します」
「これはどうも丁寧に。
私はシューナリュードです」
「ルフォンと申します」
ルフォンはラストがやったようにドレスの裾を摘んで礼をする。
ぎこちなさもまた可愛らしい。
「それでは王がお待ちですので、参りましょうか」
ウグドーにラストが付いていき、その後ろをリュードとルフォンが歩く。
さらにその後ろに護衛や部下たちがゾロゾロと続く。
「こちらでございます」
てっきり玉座でもある謁見の間みたいな大きな部屋に連れていかれるのかと思っていた。
「お父様、私です、ラストです」
「入りなさい」
通されたのは王様の執務室であった。
「失礼します」
正面に大きなデスクがあり、メガネをかけた白髪の中年男性が書類にハンを押していた。
この渋さを感じさせるイケメンおじさんがラストの父親である王様であった。
入ってきたラストをメガネを外して優しい目で見る。
立ち上がるとラストをギュッと抱きしめる。
「ただいま」
「お帰り、ラスト」
「お父様、苦しいよ!」
「久々なんだ、少しぐらいいいじゃないか」
若いラストを大領主にして経験を積ませるような人、どんな厳しい王様だろうかと色々想像を膨らませていた。
兄弟姉妹での争いを放置しているのだし子に厳しく冷たい感じの人なのではないかと思っていた。
実際に会って見てみると思っていたよりも柔らかい印象の人であった。
ただのおじさんというには顔は整っていて威厳も感じさせているけれど想像よりも遥かに角がない。
そして体格も良い。
魔人族の王なので強さも兼ね備えなければいけない王様は鍛錬も怠らない。
直接戦うわけでもない王様の座についてからも体を鍛えていることがわかる。
「こんな綺麗になって……レストは元気にしているか?」
「お姉ちゃんも元気だよ」
「そうか。
そちらが娘を手伝ってくれているシューナリュード君とルフォンさんだね。
話は聞いているよ。
私はサキュロヴァンダル。
ヴァンとでも呼んでくれて構わない」
大人の試練の途中報告はコルトンから上がってきている。
仕事の間を縫ってヴァンはラストがどうしているのか報告書をちゃんと読んでいた。
リュードとルフォンが一緒に旅をしていて、リュードが大人の試練の同行者として大人の試練に挑んでいることも調べていて知っていた。
「娘を手助けしてくれてどうもありがとう」
「どういたしまして……」
手を差し出してきたヴァンにリュードが応えて手を握る。
単なる握手ではなかった。
ニコニコと笑顔を浮かべて握手を交わすヴァンはその裏でリュードの手を潰さんばかりの力を込めていた。
リュードも魔人族。
ここで引いてはいけないとリュードも笑顔で力を込め返した。
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