時には着飾って3
待っているとリュードも声をかけられて採寸なんかを行なって1着礼服を決めたのだけど頑張って時間を引き伸ばしても伸ばせる時間なんて高が知れている。
再び店の隅に戻って紅茶をすすることになる。
こんなに時の進みが遅く感じられるのはこの人生で初めてだった。
連絡を取れる手段もないので近くのお店なりで時間を潰すこともできない。
どこかに行くわけにもいかないのでただひたすらにルフォンたちが試着を終えるのを待った。
手持ち無沙汰ですることがなくてとりあえず紅茶に口をつける。
せっかく出してもらった物を冷ましても悪いと思って飲んでいたけれど、向こうも向こうで気を遣ってくれているのか紅茶がなくなるたびに熱々のものを淹れてくれる。
何か手元には置いておきたいので入りませんとは言わなかったので腹の中が紅茶で一杯になってしまっていた。
かつて真魔大戦の時代には戦争のために遠距離で連絡を取る魔法も開発されたことがあると聞く。
ルフォンとは身近にいるのでそうしたものは必要でないと考えていたけれどそんなものも必要かもしれない。
いつかまた村に帰ることでもあったら資料をあさって作ることを考えてみようと思った。
「お待たせしていますね。
2人とも、もうすぐ出来上がりますから」
紅茶も何杯目だろうか。
もうただ紅茶を口につけているだけのポーズを繰り返すリュードのところにラストの友人でもあるビューラが来た。
「分かりました。
期待しています」
出来上がるとはなんのことだろうと思うけどようやく待つのも終わりだという喜びの方が大きくて疑問が追いやられてしまった。
「ちゃんと褒めてあげてくださいね。
これは絶対です」
「は、はい……」
「それでは最後の仕上げがありますので」
ビューラのウインクにリュードは苦笑いで答える。
「あっ、シューナリュードさんも準備しましょうか〜」
「え、俺ですか?」
「はい〜、こちらに〜」
やたらと間伸びした話し方の店員に連れられてリュードも化粧室に入る。
なぜ着替える必要があるのかは分からないけれどリュードもされるがままに選んだ礼服に着替える。
基本的には化粧品はリュードに使わないけど化粧水のようなものを顔に塗られた。
服装としては燕尾服のような形の礼服。
これは血人族の翼を表しているようだけど別にこのデザインで他の場所でも普通に使えるものであった。
多少ぼさっとした髪を整えてそれで完成となる。
「うん、素材からいいから変に手を加えるよりはこのままの方がいいわね」
ほとんど手を加えていないリュードのお着替えはすぐに終わった。
「どうですかー?」
「あっ、できてまーす!」
「はーい。
じゃあ〜行きましょうか?」
行くってどこに。
こんなところで変なことはされないだろうから聞きたい気持ちを抑えてリュードは店員についていく。
「あっ、来たね」
別の化粧室の前にビューラが待っていた。
「いいですか、ドレスを着るのって意外と大変で、化粧したりするのも楽じゃないです」
「んん? まあ男よりは大変なことは分かっているよ」
「何が言いたいかっていうとですね、ちゃんとラストのこと、褒めてあげてくださいってことです。
これは絶対で、もし褒めなかったら私はあなたのこと許しませんから」
「…………わかりました」
なぜ脅しかけれているのだ。
ビューラの圧にリュードはただうなずくしか出来ず、ビューラはリュードの返事に満足そうに笑う。
「それじゃ、中にどうぞ」
ガチャリとビューラがドアを開けてリュードを中に入れる。
「あっ、リューちゃん!」
「リュード!」
リュードは息を飲んだ。
対照的な2人。
ルフォンは黒いドレスを、ラストは白いドレスを着ていた。
直前でキャッキャッと褒め合っていた2人は自然な笑顔をリュードに向けていた。
ビューラにも念を押されたしたスッと褒めるつもりだったのに2人に見惚れてしまった。
化粧室に一歩入ったところからリュードは動かなくなってしまう。
「どう、リューちゃん?」
「私たちどうかな?」
「いや、その…………綺麗だよ」
消えいるようなリュードの声。
一度意識し出すと今度は2人の方が見られなくなる。
顔が熱くてしょうがない。
リュードが珍しく顔を赤くするのを見て、ルフォンとラストが顔を見合わせる。
まともに2人の方を見て褒め言葉を口にすることができない。
心臓の音が聞こえるほどドキドキして、どうしたらいいのか分からなくなる。
「へへへっ、リューちゃん!」
「ちゃんと見てよ、リュード!」
「うっ……くっ!」
隙ありとリュードの腕に抱きつく2人。
元が美人の2人には過度な化粧は施していない。
けれど美の職人たちの技でより綺麗に見えながら自然であるように薄く顔も飾っていた。
「えっと、その、とにかく綺麗で……」
理想はちゃんと2人を見て褒めることなのにモゴモゴと褒めることしか出来ない。
それぐらい破壊力があった。
ただ直接の褒め言葉がなくてもリュードのいつもとは違う態度を見ればどう思ってくれているかなんてすぐに2人には分かった。
ある意味嬉しい反応。
いつも余裕があるようなリュードの余裕が一切なくなってしまったのだ。
予想していなかったリアクションにルフォンもラストも嬉しくなった。
大成功。
そう言っていいだろう。
「くそぅ……あっちもやはり強敵だったか……」
ドア前で1人悔しそうにしているのはビューラ。
思わずラストのことを抱きしめる。
それぐらいのことを目指していたのだけれどあのルフォンという女性も想像を超えてくる美しさをしていた。
ラストが負けているとは思わない。
けれどラストが圧倒しきれているかと聞かれると圧倒はしきれていなかった。
ビューラの中ではこの勝負引き分けであると、そういうことになっていた。
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