時には着飾って2

「うーん、艶やかぁー!


 髪も瞳も黒だから纏まっていていい雰囲気!」


「そうですね、だいぶ大人っぽいですね」


 ルフォンもルフォンで力比べで優勝した時を思い出していた。

 ドレスを着ると始まる品評会。


 全部が全部褒め言葉でルフォンも恥ずかしいやら嬉しいやら。

 着るドレスどれも綺麗で褒め言葉も相まって段々とルフォンの気分も高まってくる。


 何をしても褒めてくれるものだから恥ずかしさも吹き飛んで楽しくなってくる。

 ニコニコとしてちょっと回ってみたりとポーズを取ったりしてみたりと乗せられていった。


「ダメだわ!」


「な、何がダメ……?」


 何がダメだったのか。

 あんなに楽しくやっていたのに突然の発言にルフォンが不安そうにする。


 ちょっと調子に乗り過ぎたかとショックを受ける。


「違う違う!


 あなたがダメじゃないのよ!


 何がダメかっていうとあなた顔もいいから何を着ても似合ってしまうのよ。

 故に一つに絞りきれない……そんな私がダメなのよ!」


 ルフォンのことを批判した言葉ではなかった。

 全部いい、だから一つに決めきれない。


 何か方向性を決めて絞っていかなきゃいけないのにそうできない。

 プロフェッショナルとして失敗。


 自分に向けられた葛藤の言葉であった。


「うーん……ルフォンさんはどのカラーとか形とかが良かったかしら?」


 あまり押し付け過ぎても良くはない。

 ルフォンの好みも反映する必要がある。


 決めきれないならルフォンの好みから選んでいこう。


「えっと……」


 そう聞かれても困る。

 鏡で映し出した自分の姿はどれも心が踊って、どの姿でもリュードが喜んで褒めてくれそうだと思った。


「そんな風に聞かれたって困るしかありませんって〜」


「それもそうね」


 どの色も、どのドレスも良かった。


 決めかねて困り果てるルフォンに別の店員が助け舟を出す。

 なんなら今まで着たやつ全部欲しいと言ってしまいそうになる。


「じゃあ、あなたの好きな色や誰にどう思って欲しいとかある?


 可愛いとか大人っぽいとかそんな感じに思って欲しいってことはあるかしら?」


 「私は……私はリューちゃんに……」


 可愛いよ、とか似合ってるよ、とか言ってもらえるとそれで幸せだ。

 どう思って欲しいか。


「私は大人っぽいとか綺麗って言われてみたいかな……」


 考えて一つ思った。

 いつもとはまた違った褒め言葉を言ってもらいたい。


 リュードはまだ少しルフォンのことを子供っぽくみている。

 そんなリュードに大人の女性として褒めてもらいたい。


 店員の話を聞いてふとそんなことを考えた。


「あとはコルセットは嫌かな?」


 ドレスの中にはコルセットを着用するものもあった。


 コルセットで締め付けるとウエストが信じられないくらいに細く見えて面白かったけれど苦しいしコルセットでの不自然な細さはルフォンが好きじゃなかった。


「オッケーよ。


 じゃあ……あれかしらね。


 コルセットは無しで細く見えるものと普通のものを試してみましょう」


「ええと、こんなんでいいんですか?」


 ささっと動き出す店員たち。

 大雑把で希望とも言えないような簡単な要望しか出していない。


 しかも選んでいるのは王様に会いに行くためのドレス。

 そんなんで本当にいいのか不安になる。


「女性が着たいと思えて、1番美しく見えるドレスを着ることに勝る礼儀なんてないわよ」


「そ、そうですか……」


 店員が自信を持って言い切った言葉にルフォンは大人しく引き下がるしかなかった。


「何だか楽しそうね」


 ビューラは色々なドレスを運んでいく店員を横目にラストにドレスを着せていた。

 ラストの好みは知っているのでそれに合わせた数着しかビューラはドレスを持ってきていない。


 それなのにビューラが見せてくれるドレスは本当にラストの好みはドンピシャであった。

 もう1人の店員に補助してもらいながらドレスを試着していく。


 なんだかラストの顔が明るい。

 そうビューラは思った。


 小さい頃は明るかったラストは段々と感情を表に出さなくなって最後にあった時には昔とは違う貼り付けたような笑顔をしていた。

 今は昔のような柔らかで自然な笑顔を浮かべている。


 また友人が出来ていたことにも驚いた。

 さらに何よりも男性を側に置いていることには衝撃を受けた。


「そ、そう?」


 自分でも顔がニヤけてしまっていることは分かっている。

 その上で小さい頃から店を手伝っていてよく人を見ているビューラまでそう言うならそうなのだろう。


「あのドレスを選んでるお友達もそうだけど、私の見立てではきっとあっちの男の子の方がラストを笑顔にしてるのかな?」


「な、なん、なんでさ!」


「ほぉ〜?」


 軽い冗談のつもりだった。

 リュードの顔なんてちょっと見ただけなのでラストがまた笑える理由がリュードにあるなんてビューラには分からない。


 ラストに限ってそんなことないと思っての発言だった。


 たまたま赤いドレスを着ていたラストはドレス同じぐらいに真っ赤になった。


「んー、もうちょっと背中が空いてるドレスとかにする?」


「しない!」


「この可愛い翼を見せつければ彼もイチコロじゃない?」


 ビューラも血人族なので翼に対してフェチ的なところがある。

 男ならラストの翼は非常にキュートで惹かれてしまうとビューラ自身も思っていた。


「うっさい!」


 ただしリュードは血人族ではない。

 翼を見せつけたところでそれを好きになってくれるかは血人族よりも確率が低いと言わざるを得ない。


 それにミニ状態の翼を見せるのは恥ずかしい。


 ラストの翼についてはビューラも知っていた。

 ドレスは自分1人だけで着ることが難しいものも中にはある。


 そういった時には周りの誰かに補助についてもらってドレスを着るのである。

 1着1着もバカにならない値段だし無理をして壊すのなんて最もやってはいけないことなのだ。


 ビューラの母親の店長やこの店のベテランはラストのことを昔から知っている。

 当然ドレスを着る補助についたこともある。


 なのでラストの翼についてはこの店の中では知っている人も多く、また絶対に漏らしてはならない顧客の個人的な秘密である。


「別にそんなんじゃないし……」


 拗ねたように口を尖らせる。

 確かにリュードは見た目は良かったけど地位があるように見えなかった。


 ラストは王族なので相手にも身分が求められる。

 今でも大領主であるラストは身分的には高くてとてもリュードとは釣り合わない身分差のある恋。


 だけど上等じゃないか。


「私があんたをお姫様にしたげる!」


「いきなりなに?」


 身分だけでみるとラストは一応正真正銘のお姫様と言っても良い。


「お姉さんに任せなさい!」


 身分差があっても乗り越えればいい。

 ラストが望むなら身分の差なんてあってないようなものである。


 そしてあちらにその気がないならその気にさせればいい。


 とりあえずライバルは隣の部屋で試着しているルフォンであるとビューラは勝手に気合を入れ始めた。

 ルフォンの容姿レベルも相当高かった。


 可愛らしく肌もとても綺麗。

 店員たちのテンションの上がり具合を見ると、体つきも良くドレスも見栄えが良くて何でも似合うことが見なくても分かる。


 原石を磨くことが大好きな他の店員たちの気合も入っている。

 きっと完成したらものすごいものが出てくるに違いない。


 ラストはそれに負けないように、いや、勝つようにしなきゃならない。

 ビューラが胸の内に秘めた戦いが勝手に始まったのであった。


「腹が水分でチャポチャポになるな」


 メインは女性もののドレスを置いているお店であるのだがちゃんと男性のものもお店には置いてあった。

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