束の間でも休みなし
次の日、みんなは疲労困憊な状態であったが少しずつ動き出した。
大きな作業としては町中の掃除である。
スケルトンは互いにぶつかり、押し潰してでも進むので町中の至る所に骨が落ちていた。
人骨を使って何かを作ることはできないので素材にはなり得ないものであってただ片付けるしかない。
だからスケルトンって奴は不人気な魔物であるのだけどボーンフィールドダンジョンは一定の人気がある。
理由はダンジョンのスケルトンは確率で魔石を落とすのである。
スケルトンが落とす魔石なのでそんなに良いものでもないけれどそれなりに落ちるので集めると数があって収入になるのだ。
元ダンジョン産スケルトンも不思議なことに魔石をドロップする。
魔物の原理はいまだに解明されない謎なので理由は誰にも説明できない。
でも落ちるもんはありがたく頂戴する。
掃除しているとそこらかしこに魔石も落ちていてそれも拾う作業があった。
町の修繕費用にも充てられるので適当に骨を片付けて、ついでに魔石を拾いを繰り返す。
門の修繕や命をかけて戦ってくれた冒険者への手当て、聖職者に対する補填などこれからチッパが必要とするお金は莫大なものになるのでみんな疲れた体を押して掃除と魔石拾いを手伝っていた。
町の外には白い骨の山が積み重なり、改めてスケルトンの多さを思い知った。
チッパの街を救おうと来た援軍は20日が経ってようやく到着した。
もはやダンジョンブレイクは終わったと隣の町まで報告を飛ばしたし掃除もおおよそ終わっていた。
復興も始まっているし今更こられても迷惑なだけである。
とりあえず援軍たちには周囲に散らばってしまったスケルトンの掃討や町の修繕を手伝ってもらうことになった。
完全に遅れてしまったことは分かりきっているので援軍も何も文句は言わずに従った。
この援軍にベギーオ、つまりは来るべき大領主は参加していない。
それどころか援軍は近くの領主が危機を聞きつけて独自に組織して送ってくれたものであったのだ。
ベギーオはどうしたのか。
誰もその疑問を口にすることが出来ずにみなが自分のすべきをことをただ全うしていた。
どの道援軍を20日も待っていたなら絶対に持たなかった。
軍とは言わなくてもそれなりに冒険者なりをまとめて送り出すぐらいならもっと早くもできただろうに大領主は何をしていたのか。
「遅くなってしまって申し訳ございません」
ダンジョンブレイクから数日が経ってリュードたちのところをコルトンが訪ねてきた。
相変わらずの仏頂面であるが口元が青くなっていたり目元に傷があったりと無事な様子ではなかった。
コルトンにも何かがあった。
そう思うに十分なケガをしていた。
「今回につきまして、調査も行いましたがサキュルラスト様とシューナリュード様によるデュラハンの討伐が認められました」
4人と1体ではデュラハンのところに向かったのだけど実際にデュラハンと戦ったのはリュードとラストであり、2人で倒した。
異常事態の中でデュラハンを倒したのだし大人の試練がなんちゃと難癖をつけられても押し切るつもりではいたのだけど問題がないのが1番である。
リュードは事前にジグーズにデュラハンはラストと2人で討伐したものであることを言い含めておいた。
ジグーズも何かを察したように任せておいてくださいと返事をしていた。
周りの人もリュードたちが最大の功労者であって、わざわざそう言うからには必要なことだと分かっていた。
コルトンが話を聞いてみるとその場にいなかったのにみんなが口を揃えてリュードとラストが2人でデュラハンを倒したのだと言うのだ。
国の執政官の取り調べにウソをつけば重罪になるのにみんなそれでも構わないと言ってくれたのである。
そもそもウソでないので捕まりもしない。
そしてコルトンも捕まえる気などなかった。
お堅くはあるのだけどそんな融通も効かないものでもない。
今回の事態は明らかに常軌を逸した事態であって通常通りと固執して処理することには限界がある。
「本来でありましたら私が同行して見届ける必要がありましたが私自身の都合と、今回起きたこと、そして周りの証言を勘案しまして、ラスト様がダンジョンを攻略なさったのと少なくとも同程度のことはしたと判断できます。
なので大人の試練は乗り越えたとみなします。
つきまして大人の試練の期限にしましても事態の重大さを考えまして、延長することとします」
任された権限を最大限に使ってコルトンはラストに便宜を図った。
上に報告を上げてもこれぐらいのことが起きているなら文句を言うことはできないはずである。
何しろラストは今や一都市の救世主、下手をすればダンジョンブレイクから国を救った英雄であるのだから。
「最後の大人の試練はこちらになります。
事情により私は最後まで同行することは出来ませんので次は別の者が同行いたします」
5と書かれた黒い封筒。
次が正真正銘最後の大人の試練である。
「それでは失礼します。
大人の試練乗り越えられること祈っております」
コルトンは深く頭を下げると立ち去った。
最後まで分からない人だったけれど悪い人じゃなかったな。
「リュード、ちょっといいか?」
コルトンに入れ替わるようにモノランが窓から顔を覗かせた。
リュードたちが泊まっている宿の2階の部屋にはモノランが立ち上がると顔が届くのだ。
「どうした、モノラン?」
「私もそろそろ帰ろうと思う。
みんな色々食べ物くれて美味いけど、残してきたあの子たちも心配なんだ」
「そうか……それもそうだよな」
「またこれを渡しておくから何かあったら呼んでくれ。
リュードのためならどこへでも飛んでくるから」
「ああ、ありがとう。
今回は本当に助かったよ」
「リュードの言う通り神様への信仰が集まり高まった。
だからリュードが気にすることなんて何もないぞ」
「それでも命は救われたからな、感謝はするさ。
そのうちに何かお礼しなきゃいけないな」
「礼なら雷の信仰者を増やしてくれ。
そして私を本当の神獣にしてくれ。
あとは今一個頼みがある」
「おう、なんだ?」
「表にある食べ物を持って帰りたい。
何かに包んでくれないか?」
チッパの町にも人が戻りつつあった。
モノランは共に戦った冒険者や聖職者などから話が広まり神獣であり町を救ったことが周知されていた。
金銭や物、名声にはあまり興味を示さなかったのだが食べ物には反応した。
美味い美味いと嬉しそうに食べるのでみんな感謝の意も込めてモノランに食べ物をお供えしていた。
モノランはリュードたちが泊まる宿の前にいたので宿の前には食べ物が積まれていた。
そんな食べ物をリュードは大きな布にいくつか包んで紐で縛って一つにする。
かなり大きな荷物になるけどモノランなら問題はない。
「次はプジャンとか言う奴と会えると嬉しいな。
じゃあな、リュード!」
食べ物の袋を咥えてモノランは去っていった。
リュードたちものんびりとはしていられない。
クゼナのことも忘れたわけでなく、だいぶ時間が経ってしまったことに焦りも感じていた。
大人の試練も期間が延長になったとはいえ遊んでいられるのでもない。
片付けなどは町にも住む人に任せることにしてリュードたちも次の日にチッパの町を出発したのであった。
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