決戦! 亡者の騎士デュラハン9

 モノランが頑張ってくれて、ルフォンとヴィッツも加勢していたので残っているスケルトンはそんなに多くもなかった。

 そんなにめざとく全部を倒す必要もない。多少離れていたて向かってこないスケルトンは後で落ち着いてから探して処理しても問題はない。


「ラスト、本当に大丈夫か?」


 どうにもラストの動きがおかしい。

 何がおかしいのか聞かれても困るのだけど動きに違和感があるのだ。


 剣は特に特別な作りでもなく普通のものでリュードに合わせて多少大きめに作られていても取り回しに苦労はないはず。


 見ていて変、というかあまり見れないのである。

 やたらと消極的でリュードの前に出てこない。


 やっぱりケガでもしてるんじゃないかと思ったが後ろを振り返ってみるとラストは普通に戦っている。

 ただ周りを、リュードの方を気にしながら戦っているように見えた。


 ケガをして、それがバレないように無理をしているのではないかと心配になった。


「やっぱり背中を……背中…………ラスト?」


 さっき背中が何かと言いかけたので背中を痛めたのだと確認しようとするリュード。

 しかしラストはリュードに背中を見せない。


 まるで鏡に映っているかのようにリュードの正面をキープする。

 2人して円を描くように移動する。


 なぜかラストの表情は必死だ。


 理由がわからなくて困惑するリュード。

 ケガをしているにしてもあまりにも態度がおかしすぎる。


「ラスト……?」


「な、なんでもないの!


 別に背中も痛くないしなんでもないの!」


「わぁ、可愛い翼!」


「ほら、申しましたでしょう?


 昔はよくパタパタと動かして見せてくれたものです」


 周りのスケルトンはおおよそ片付いた。

 ルフォンとヴィッツもリュードたちに合流しに来た。


「み、見ないでぇ!」


 リュードに背中を見せないラストの後ろから2人は来た。

 そんなルフォンが見たのはラストの背中だった。


 白い陶磁器のような背中に小さくて可愛らしい翼が一対。

 ラストは途端に顔を真っ赤にして飛び退いた。


 誰にも背中が見られないようにみんなから距離を取った。


 ラストの態度がおかしかったのはこの背中の翼を見られたくなかったからである。

 リュードやルフォンのように先祖返りのラストは通常状態でも翼が残ってしまっていた。


 ただミニチュアで非常に可愛らしい翼なのでラストはいつからか見られるのが恥ずかしくなってしまったのである。

 だからリュードに対して正面を向き続けたり戦いの最中は前に出なかったりした。

 

 魔人化して戦うなんて戦闘経験の少ないラストは想像していなかった。

 そのために魔人化して翼が大きくなった時に服の背中側が破けてしまっていたのである。


 デュラハンの頭が爆発してリュードに押し倒された時に地面の感触が背中に直に当たるのを感じてラストは背中がガラ空きなことに気付いたのであった。


「ふむ」


「ダ!」


「ふふーん」


「ダメェ!」


 ルフォンと視線を合わせてちょっとしたイタズラ心で2人して後ろに回ってみようとする。

 ものすごい勢いで後ろに下がるラスト。


 このままではどこかに行ってしまいかねないのでほどほどところでやめておく。


「ラスト、ほら」


 リュードは最初に投げ捨てたクロークの土を払ってラストに投げ渡す。


「着とけ」


 かく言うリュードも爆発のために背中丸出しなのだけどラストの背中の方が大事である。


「あ、あんがと……」


 リュードサイズのクロークはラストにはちょっと大きい。

 フードまで被ってラストはようやく恥ずかしそうにみんなの側にきた。


「モノラン、そっちはどうだ?」


「だいぶ消耗しました。


 ですがまだ動けますよ」


「もうちょいで終わりだ。


 背中に乗せてくれないか?」


 デュラハンは倒されてダンジョンブレイクは終わった。

 スケルトンの援軍はもう来ないし、あとは町のスケルトンを倒すだけである。


 デュラハンにある程度統率されていたからチッパに向かっていたのかデュラハンなき後のスケルトンは方々に散ってしまっていた。

 道中チッパに向かってるっぽくて近くにいるスケルトンはモノランが轢き倒してチッパに向かう。


 冒険者ギルドの防御魔法はすでに無くなっていた。

 聖職者たちの神聖力が尽きて冒険者ギルドは冒険者と聖職者たちの必死の防衛で守られていた。


 疲労が限界近くなっていたけれど倒せば倒すだけスケルトンが減っていく。

 新しく追加で来るスケルトンが無くなり、疲労を上回る希望が今の彼らを突き動かしていた。


 聖水も武器に振りかけるのではなく、もう直接スケルトンにかけて倒したりしていたので残りも少ない。


「デュラハンを倒したぞー!」


 冒険者が倒れるのが先か、スケルトンが倒れるのが先か。

 ギリギリのところで最後の希望がやってきた。


 残りの魔力を振り絞ったモノランが演出も兼ねて雷を落とす。

 最初来た時とは比べ物にならない細い雷だけど冒険者たちに何が来たのか知らしめるには十分であった。


 モノランがギルド横に着地する。

 このまま倒れて眠ってしまいたい衝動に駆られながらもモノランは雷の神様のために、信仰の復活のためには必要だとピシッとかっこよく体を伸ばした。


「デュラハンは倒した!


 ダンジョンブレイクは終わってもうスケルトンはこれ以上増えないぞ!


 みんな、あとはこのギルドの周りのスケルトンだけだ!」


 黒い神獣にまたがり、黒い剣を持った黒い姿の冒険者。

 全てが黒いその姿はお話にあるような英雄とは違っているのだけど、その場にいる人々にとってはリュードは英雄だった。


 黒き英雄。

 冒険者の間で囁かれる新たなる時代の若い冒険者の2つ名が生まれた瞬間だった。


 残った聖水をみんなで分けて武器にかけ、聖職者も武器を持って戦う。

 生きている者の生への執着。


 誰ももうスマートさなんてない野蛮な戦いが全ての最後を飾り、地面がスケルトンの骨で白く染まっていく。


「これで……最後だ!」


 全身がドロの中にでもいるようで、持っている剣が途方もなく重たく感じられる。

 真っ直ぐに振り下ろした剣はスケルトンを真っ二つに両断し、勢いを止めきれずに地面を叩きつけてしまった。


 赤い。

 人の血ではない。


 空が赤くなっていたのだ。


 朝から始まり、夕方までかかった戦い。


 時間にすればたった1日にも満たない長い戦いが終わった。


「う、うぉぉぉお!」


 レヴィアンが雄叫びを上げた。


 それがきっかけだったようにみんなが武器を投げ出し、声を上げ、隣の人と抱き合った。

 チッパの町が守られたとは言いがたいけれど避難してきた人や冒険者たちは守られた。


 勝ったのだ。


 涙を流しダンジョンブレイクが終わったことを実感し、命あることに感謝した。


「リューちゃん!」


「リュード!」


「おわっ!」


 ルフォンとラストがリュードに抱きつく。


 受け止めようとしたけどリュードも限界で、3人して地面に倒れ込んだ。


「今回ばかりは死ぬかと思ったな」


「私はリューちゃんと一緒なら大丈夫って思ったよ!」


「私もみんなと一緒ならなんでもできる気がするよ!」


 ずっと一歩間違えると終わりを迎えてしまうような危機的状況にあり続けた。

 モノランがいなかったらリュードたちはスケルトンに囲まれて悲惨な最後を迎えていたはずである。


「雷は最高だ! 雷の神様ありがとうございます!


 雷の神獣に感謝を!」


 別にお礼することももちろん考えているけれどリュードが説得した通りに雷の神様に対する信仰は高まったようだ。

 リュードがモノランに嘘つき呼ばわりされることもない。


 体力の尽きた冒険者や聖職者たちは次々と地面に倒れ込むように寝始めた。

 もう後処理も、帰って寝ることも出来なかった。


「モノラン……最後に頼みがあるんだ」


 最後の力を振り絞ってリュードは立ち上がった。

 ギルドの横で丸くなるように休んでいるモノランのところまで行った。


「何ですか?


 もう私も動けませんよ」


「分かってる……俺もだ。


 もう宿に戻る元気もない。


 ただこの地面で寝るのはちょっと嫌でな。

 モノランを枕にしてもいいか?」


「……ふふっ、よろしいですよ。


 魔力も通ってないのできっとフカフカですよ」


 とんでもないお願い。

 モノランは快くリュードのお願いを受け入れてくれて、丸まった体勢から少し体を伸ばしてくれる。


「ありがとう……」


「わーい」


「モノランありがとう!」


「あっ、ちょっとあなたたちは許可して……まあいいです」


 リュードが倒れ込むようにモノランの上に寝る。


 それを見てリュードの後ろにいたルフォンとラストもモノランのお腹にダイブしたのだ。


 許可したのはリュードだけだったのがもう2人も寝てしまった。

 神獣であったころはみんな近寄り難くしてきて人と仲良くすることもなかったと話を聞いた。


 こんな風に人と仲の良い神獣がいても良いではないかとモノランは思った。

 3人を囲むようにモノランは再び丸くなって寝始めた。

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