決戦! 亡者の騎士デュラハン8
「うん、気持ち悪いな」
デュラハンはまだ生きている。
上半身は真っ二つ。足もどうにか破壊したし左腕もラストによって切り離されている。
なのにデュラハンはまだ動いている。
腕のついた上半身は這いずって動いているし、足や腕のない上半身部分も動こうとしているのかカタカタと震えている。
気味が悪い光景でどれだけ細かくしてもデュラハンが倒せそうな気がしない。
「うーん……」
「何か気づいたか?」
ただ倒せない不死の魔物であると聞いたこともない。
方法がきっとあるはずだ。
「んと、多分だけどデュラハン、あれに向かってない?」
「あれ?
あれは……頭か」
デュラハンはリュードたちが近くにいても目もくれていない。
目的に向かって移動しているようにラストには見えていた。
デュラハンが向かっている先には転がっている黒いデュラハンの頭があった。
近くにいる敵よりも頭の方に向かうことを優先している。
ラストの言葉でようやくリュードもデュラハンが頭に向かっていることに気づいた。
そう言われてみると戦闘中もリュードの攻撃に対してやや頭を庇うようにしていた気がしないでもないけど分からない。
頭を狙ってみようと考えもしなかったが大して必要もないものなら側に置かずに両手で剣を振った方が強そうなもの。
常に頭を持っているには理由がある。
「つまりあれがデュラハンの弱点なのか?」
リュードが頭の方に近づいていくとデュラハンの動きがわずかに早くなる。
デュラハンにとってこの頭が大切なものであることは間違いない。
大丈夫か不安だけど頭を手に取ってみる。
見た目はフルフェイスの兜だけど首のところから中を見ようとしても真っ暗で見えない。
触って確かめる勇気も出ないので秘密は秘密のままにしておこうと思う。
「リュード来てるよ!」
「あぶね!」
まじまじと頭を見ているといつの間にかデュラハンがリュードの後ろまで来ていた。
剣を出して腕だけでブンブンと振って襲いかかるけどちょっと距離を取れば簡単に危険では無くなる。
慌ててまたリュードに接近しようと腕で這うがリュードもデュラハンの上半身から距離を取る。
腕力は強かったので這いずる速度も意外とバカにできなかった。
「で、これをどうしたらいいんだ?」
単純に破壊すればそれで終わるものなのか。
必死になっているデュラハンを見れば頭をどうにかすればいいことは分かるのだけど破壊も簡単ではなさそうだ。
ダンジョンが閉鎖されていたのでデュラハンまで討伐するような高ランクパーティーもいなかった。
いたらデュラハンの弱点ぐらい聞けることができたのだろうが今回はさらっとしたデュラハンの情報しか聞けなかったのである。
とりあえず聖水をかけた剣でぶった切ってみよう。
「んじゃこうしてみれば?」
もっと手っ取り早い方法。
ラストは聖水の瓶の蓋を開けるとデュラハンの頭にふりかけた。
アンデット系の魔物には聖水を直接振りかけても効果がある。
最上級の聖水なので振りかけるだけでもデュラハンにダメージを与えられる。
「アッツ!」
「えっ、ごめん!」
デュラハンの頭がカタカタと震え出した。
反応があるので効果があるとラストは惜しげもなくデュラハンの頭に聖水をかけた。
聖水をかけていると突然デュラハンの頭が熱くなった。
持っていられないほどの熱を発し、リュードはデュラハンの頭を放り投げた。
「だ、大丈夫?」
「なんなんだ……
危ない!」
大きく振動するデュラハンの頭。
その異常な様子を見てリュードは危険を察知した。
距離を取ろうかと思った時、振動していたデュラハンの頭がピタリと止まった。
咄嗟にラストに覆いかぶさり、地面に伏せた。
『デュラハンの頭にはな、聖水をかけちゃいけないんだぜ。
なぜなのか誰も知らんが聖水をかけるとな、デュラハンの頭は大爆発を起こすんだ。
リスク覚悟で手早く倒したいなら試してもいいかもしれんがな!』
後にそんな話を聞いた。
現段階ではそんなことを知る由もないラストは安易にデュラハンの頭に聖水をかけてしまった。
リュードも知らなかったのでナイスアイデアと思っていた。
聖水をかけたから爆発したのではなく、最後の抵抗で爆発したのだとすら思っていた。
デュラハンの頭が爆発した。
黒い魔力を撒き散らしてもうもうと同じ色の煙を上げて頭周りは小さいクレーターが出来ていた。
「いてて……」
「リュード!
大丈夫!?」
「背中が……ちょっと痛いかな。
せっかく服も破けないようにしてたのにな……」
竜人化の解けたリュードは苦々しく笑う。
爆発の衝撃と痛みで魔人化を維持できなくなってしまった。
ただ竜人化していてよかった。
爆発はリュードの背中に痛々しい火傷を負わせたがそれだけで済んだ。
リュードが竜人化していなかったらそのまま爆発で死んでいたかもしれない。
丈夫な竜人の体に感謝である。
竜人化しても破れないようにと大きめサイズの服を着ていたのだけど結局服はダメになってしまった。
ラストもリュードが守ってくれたのでケガはなかった。
押し倒された時リュードの顔が近くにあってドキドキしていたぐらいだった。
「う……よいしょ。
押し倒して済まなかったな。
ケガはないか?」
痛む背中をおしてリュードが立ち上がって再びラストに手を差し出す。
リュードが無事ではなさそうなので今度はあまり手に力をかけることなく立ち上がる。
「ううん、特にケガはないかな。
ちょっと背中が……」
「背中?
背中がどうかしたか?」
「……うぇっ、うん、何でもない!
大丈夫、ケガもないし背中も何でもないよ!」
「そうか?
それならいいんだけど。
……スケルトンが消えていくな」
スケルトンたちが魔力の粒子となって消えていく。
ダンジョンのボスデュラハンを倒したのでダンジョンブレイクが終了したのだ。
ダンジョンブレイクで出てきた魔物は普通の魔物と変わりがなく、魔力の粒子となって消えるものではない。
けれどダンジョンから出てきたばかりの魔物はまだダンジョンと繋がりが残っていて完全に野生の魔物とはなっていないのである。
ダンジョン周りにいたスケルトンたちはダンジョンからまだ出てきて時間が浅かったのでダンジョンに還っていったのだ。
「リューちゃーん!
終わった?」
「ああ、こっちは終わった!」
それでもまだ残っているスケルトンはいる。
ルフォンはスケルトンの異常を見てリュードたちが勝ったことを察してヴィッツに任せて状況確認に来た。
デュラハンはいない。
2人は無事に立っている。
実はリュードの背中はぼろぼろだけどルフォンから見えていなかった。
「ルフォン、ラスト、残りのスケルトンを片付けるぞ!」
「分かった!」
「でも私武器持ってないよ?」
「ほれ、俺の予備の剣だ」
リュードはマジックボックスの袋の中から予備の普通の鉄で作られた剣を取り出してラストに渡す。
「もう邪魔する奴もいないし剣ぐらい使ってもいいんじゃないかな?」
「……そうだね!」
リュードはポーションも取り出して1本をラストに渡して、もう1本を自分で飲む。
「あれ、これ苦くない……」
覚悟を決めた表情でポーションを飲んだラストは驚いた。
ポーションといえばマズイものなのだけどリュードに渡されたポーションは苦くなく飲みやすかった。
リュードお手製の味改良ポーションはほとんどジュースみたいなレベルまで改良されていたのであった。
デュラハンもいなくなり、スケルトンがダンジョンに還ってだいぶ数が目減した。
あと少し、これで最後だと自分を奮い立たせてリュードたちはスケルトンと戦い始めた。
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