決戦! 亡者の騎士デュラハン7
ラストも後ろに下がりながら腰につけていたムチを取ってデュラハンに攻撃する。
デュラハンは止まらない。
ムチを切り裂きながらさらにラストと距離を詰めて目の前まで近づいた。
黒い魔力をまとう剣がラストに振り下ろされる。
ラストは実戦経験に乏しい。
剣などの主だった武器はあえて距離を取ってきたし戦う必要もほとんどなかった。
こうして大人の試練ではリュードが前に立ってラストは弓で戦っていたし接近戦闘おける経験はあまりなかった。
それでも持ち前の身体能力でラストはデュラハンの剣を回避した。
ただラストの回避はリュードと違って動きが大きく何回も回避を続けられるものじゃなかった。
段々と回避がギリギリになっていくのはラストが慣れてきたからではなくデュラハンがラストを捉えつつあったから。
「こっち……がっ!」
もうラストの回避も限界。
そのタイミングでリュードがデュラハンの後ろに迫った。
完全にリュードのことを見ていない。
リュードは剣を振り下ろす。
頭がないデュラハンが見ていないと判断したのは体の向きからだった。
ラストの方に体が向いていてデュラハンの真後ろにいるリュードは見えていないと思っていた。
実際デュラハンにはリュードが見えていない。
だってデュラハンには目がないからである。
ではスケルトンなどの目がない魔物はどうやって周りを知覚しているのか。
それは魔力を感じ取っているのである。
生きているものが必ず発している魔力。
スケルトンは大雑把にしか感じられず視界と同じように見えているような範囲にないと感じられないがデュラハンにまでなると違う。
例え真後ろであっても隠れていてもデュラハンには見えているのである。
剣を上げてリュードの攻撃を防御したデュラハンはそのまま後ろにリュードの腹を蹴り上げた。
「リュード!」
ぶっ飛んでいくリュード。
しかし心配する暇もなく、デュラハンはラストの方を攻撃した。
「甘いよ!」
ラストもやられっぱなしではいかない。
回避は難しいと判断して大きく飛び上がったラストは翼をはためかせた。
背中の翼は飾りではない。
魔力を込めてはためかせると空を飛ぶことができる正真正銘の翼なのである。
長時間飛んでいるとすごく疲れるし魔力も結構使う。
有翼種の人たちのように自在に飛んでいられるってことではない。
ラストはというか血人族はあんまり空を飛ぶ人たちでもないので飛行はできるけど、飛ぶのもあまり上手くない。
ただ今は不慣れな飛行でも十分。
デュラハンの攻撃圏から離れられた。
追撃の手はないと思っていたらデュラハンはまだ諦めていなかった。
デュラハンは剣を逆手に持って腕を上に引く。
上半身も逸らして力を溜めて、魔力が剣を持つ左腕を中心に渦巻く。
ラストの背中にぞくりとした感覚が走り嫌な予感がする。
門を破壊した時と同じ、剣を投擲するつもりだ。
飛ぶことに慣れていないラストはようやく飛行体勢が安定したところでどこかに飛んで回避するまで動くことができない。
やるならこのまま飛ぶのをやめて落ちるぐらいだけどそうなると今度はデュラハンも飛ぶことを想定しながら戦ってくる。
もう一度飛び上がることは出来なくなる。
どうする。
「私も、出来る。
私なら倒せるとでも思った?」
守られているだけが自分じゃない。
こんな時にもちょっとリュードが何とかしてくれるんじゃないかと考えている自分がいることに気づいた。
ほとんどリュードに頼りっぱなしのような気がしてきて、ラストは反省して、自分に苛立った。
もう子供じゃない。
大人の試練を乗り越えて大人になる。
ただ誰かの後ろで守ってもらってばかりの自分から脱するんだ。
門が壊された時リュードは多くの冒険者がいる中で1人前に出てデュラハンの剣を防ぎ切った。
何かに立ち向かう勇気。
リュードの背中からラストはそれを感じていた。
「負けない!」
デュラハンが腕を振り、剣を投げた。
黒い軌跡を残して真っ直ぐラストに向かって剣が飛んでいく。
どうしてそんなことをしてしまったのかラストには分からない。
多分リュードみたいにって考えたからリュードみたいにしようとしたんだと思う。
ラストは持てる魔力を可能な限り弓に込めた。
両腕を振り上げて、力一杯振り下ろす。
何とラストはデュラハンの剣に対して弓をぶつけにいったのである。
かなり丈夫に作られた弓ではあるがそんな用途想定もしていない。
先祖返りの膨大な魔力を込めてデュラハンの剣と衝突した弓は悲鳴を上げた。
剣との衝突、そして膨大な魔力によってラストの弓は粉々に砕け散った。
代わりにその効果はあった。
ラストはデュラハンの剣を弾き返すことに成功した。
それもデュラハンの方に向かって。
「リュード……あとは任せたよ」
魔力が無くなって背中の翼がシュルシュルと小さくなる。
砕けた弓で両手も傷ついているしゆっくりとラストは空中から落ちていった。
「よくもやってくれたな」
激しく魔力同士がぶつかった結果に弾き返した。
デュラハンの剣は相応の勢いで持ってデュラハンに飛んでいき、デュラハンの左腕を切り落とした。
避けようとはしていたけれど間に合わなかった。
さらにそこにリュードが迫る。
左腕を切り落とされたデュラハンは完全に隙だらけで防御方法も持っていない。
ラストが命懸けで作ってくれた大きなチャンス。
もう神聖力は失われているけれどリュードの力まで失われたわけじゃない。
切られることに抵抗する魔力の反発を押し切ってデュラハンの体を袈裟斬りに真っ二つにする。
神聖力がないと非常に手応えが重たかった。
胴体が真っ二つにされてデュラハンの重たい鎧の体がガシャリと音を立てて地面に倒れた。
「まだ死なないのか」
アンデットに対して死なないのかという言葉は不適切かもしれないがデュラハンは真っ二つにされてもまだ動いていた。
デュラハンの体がくっついても嫌なので足を切り、2つになった胴体を離しておく。
思い切り剣を振り下ろさなければ足も切れず、聖水をかけてからやればよかったと後悔した。
「どうやったら倒せるんだ、これ?
まあいい、ラスト、大丈夫か?」
とりあえずデュラハンは無害化された。
動いていると言っても腕でゆっくりと地面を這いずっているだけで脅威ではない。
倒すのは後回しにして、ラストに駆け寄る。
飛べたことも驚きだったけどその後にやってみせたことも驚きだった。
ラストは地面に落ちたけど大きなケガはなく、お尻をさすっていた。
ラストの翼による飛行は翼による補助をしながら魔法で飛ぶ行為なのである。
元がどうなっているのか分からないけれどリュードの体が魔人化した時に大きく変わるように元々は魔法だったものが魔法の力を持つ体質となったもので魔法じゃないけど魔法であるという不思議な能力になっている。
魔力が無くなってもすぐに魔法は解けはしなかった。
ふわりと落ちていって最後あと少しのところでドスンと落ちたのでお尻は痛んでもケガはなかった。
「立てるか?」
「うぅ〜気持ち悪い〜」
「魔力不足だな」
デュラハンの剣を弾き返すのに魔力をほとんど使ってしまった。
ラストは魔力が多いので経験したことがなかったが魔力が無くなると人の体には異常が出る。
全くのゼロになると気も失ってしまうこともあるし、ラストのようにかなり少なくなると気分が悪くなってしまうこともある。
気分が悪いだけならまだ軽い方なので問題はない。
リュードが手を差し出すとラストは遠慮なく手に体重をかけて立ち上がる。
まだデュラハンは倒していないのでトドメを刺しにいく。
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