決戦! 亡者の騎士デュラハン6
疲れを知らないスケルトンともここまで戦い通してきたリュード。
このまま防戦を続けてしまうと結果は目に見えている。
けれどリュードの顔にはまだ余裕が見えていた。
なぜならリュードは1人で戦っているのではないから。
デュラハンの斜め後ろに回り込んだラストが矢を放つ。
頭は手に持っているし目が見えているのかもアンデッドにしか分からない。
ただデュラハンはラストの矢に反応してみせた。
やはりこのデュラハンは剣士としても卓越している。
振り向きざまにデュラハンはラストの矢を縦に切り捨てようとした。
デュラハンの剣の刃が矢の先端に当たった瞬間、込められた魔力が爆発した。
「忘れてもらっちゃ困るよ!」
この戦いはラストとリュードの戦いだ。
1人じゃない。
「いいぞ!」
リュードもすぐさまラストに続く。
狙いたいのは弱点だけどデュラハンの弱点はわからない。
首を切り落としたいところだけどデュラハンの首はすでに落ちている。
怪しいのは頭だけど手に抱えた頭を狙うことは難しい。
とりあえずラストの方に振り向いて背中をさらすデュラハンを切りつける。
最上級の聖水は効果も高い。
アンデッドの中でも強敵であるデュラハン相手にもしっかりと効果を発揮して、デュラハンの背中が大きく切り裂かれた。
切れた鎧の中は闇が広がっていてどうなっているのか分からない。
爆発で怯んだのも一瞬でデュラハンはすぐさまリュードに反撃を繰り出す。
「うっ……なんだこれ」
耳が痛くなるようなキーンとした音がした。
何かの鳴き声のようにも聞こえたそれと同時にデュラハンが黒い魔力に包まれる。
「うわっ、ヤバっ」
「リュード!」
黒い魔力に包まれた剣がリュードに迫った。
衝撃で土煙が上がり、風が巻き起こる。
リュードは無事なのか土埃のせいで見えない。
デュラハンが出てくるかもしれないと身構えるラストの耳に金属音が聞こえてきた。
この土埃の中で戦っている。
呼吸もできないような土埃の中で黒い影が動き剣が目の前に現れる。
デュラハンにはリュードの場所が見えているらしく正確にリュードのことを追撃してきていた。
反撃は諦めて完全に防御に徹することにした。
受け流しを主体に回避しながら視界が晴れるまで必死に耐える。
むしろデュラハンの姿がぼんやりとしか見えないために直前に来た剣に対応するしかなくて、リュードの集中力は最大限に高まって攻撃を防ぎ続けていた。
受け流しも完璧に近く出来ていると思っていたのは慢心だった。
デュラハンの魔力をまとった一撃はとんでもなく重たく、受け流した剣を持つ手が痺れていた。
圧倒的なパワーを完全に受け流すにはまだ技量が足りていない。
反省や焦りが剣の腕を鈍らせかける。
デュラハンの剣をかわし切れなくて頬の鱗が弾け飛んで血が滲んでくる。
痛みに怯んでいる暇もない。
事前に聞いていたデュラハンよりもずっと強く、ダンジョンブレイクのためにこうなった異常な個体である可能性が頭をよぎった。
「う……」
受け流し切れなくて剣先が腕を掠めた。
効くかわからないけど雷属性の魔法を試してみようかとも考えた。
「やっと見えた!」
けれどもリュードが魔法を試す前にラストが土埃の向こうにうっすらと姿の見えたデュラハンに向かって矢を放った。
リュードに集中し、視界の悪い土埃の中でデュラハンは飛んでくる矢に気づくことが遅れた。
間に合わないので回避ではなく防御。
剣の腹でラストの矢を叩き落とそうとした。
爆発。
何か触れた瞬間に爆発してしまうので切ろうが叩き落とそうが関係ない。
「離れろ!」
またデュラハンにほんのわずかな隙ができる。
剣よりも早く、なおかつ距離を作る方法として、リュードは素早くデュラハンの懐に入り、デュラハンの脇腹を力いっぱい殴り飛ばした。
デュラハンが吹っ飛び、土埃の中から飛び出してきて地面を転がる。
ちょうど舞った土埃も落ち着いてリュードの姿も見える。
体の何箇所かに傷を作ったリュード。
これぐらいで済んだのなら運良くて軽い方なのだけど竜人化した姿でケガをしたことなんてルフォンでも見たことがなかった。
「リュード、大丈夫?」
「もちろんだ。
むしろ……」
むしろ楽しいとすら思ってしまっている。
こんな風に実力の拮抗した相手と戦うことは滅多にない。
自分の未熟さに気づき、全力で防御させてもらえることでより改善点も見えてくる。
不謹慎だという輩もいるかもしれないけれど戦い1つ1つが自分を伸ばす糧となるのだ。
戦いの中に喜びを見出す。
以前までの自分ならあり得ないことだけど今の竜人族の自分はもう骨の髄まで魔人族である。
体を魔力が巡り、疲労感を感じなくなった。
反撃まで及ばなくてもデュラハンの攻撃を受ける気はしない。
リュードは戦闘中にも関わらずまた1つ成長をしていっているのである。
ベッコリと脇腹の鎧を凹ませたデュラハンが立ち上がる。
黒い魔力は相変わらずデュラハンを覆っていて見ているだけで威圧感がある。
リュードとデュラハンが同時に駆け出して剣が交わる。
正直まだ反撃まで手は回らないけれど防御に徹すれば負ける気はしない。
手にかかっていた衝撃がだいぶ小さくなった。
デュラハンが弱くなったのではない。
リュードがより効率的にデュラハンの攻撃を受け流して防いでいるのである。
「チャージショット!」
射線がリュードに被らないように回り込んだラストが弓を射る。
「おっと……」
なんだ。
これまでリュードを殺す気でしっかりと狙ってきたのに今の一撃はなんというか、狙いがちょっと外れていた。
迷いなく回避することを選ぶような位置を切ったデュラハン。
まさか疲れてきたなんてことあり得るはずがない。
意図がある。
気づくのが遅かった。
「なっ!」
ラストが矢を放っていたことはわかっていたデュラハンも3度目の射撃となると馬鹿でもないので対策を練ってきた。
リュードは力ではデュラハンに敵わないので受け流すか回避を防御行動として取っている。
かわせそうならかわした方がいいのは当然のこと。
デュラハンはリュードがかわすだろうことを予想して少しズレた軌道で剣を振り下ろした。
これまであまり体をうごしてこなかったデュラハンがサッと横に動いた。
デュラハンの後ろからはラストの矢。
リュードはラストの射線に入ってきてしまっていた。
矢に触れて防御してはいけない。
咄嗟の判断でリュードは体を捻って矢を回避した。
けれども矢をかわしたリュードに間髪入れずにデュラハンが切りかかる。
下から切り上げるデュラハンの剣をリュードはまともに受けてしまった。
受け流すことができない。
リュードはデュラハンと力勝負をすることになってしまった。
しかし保たれた均衡は一瞬。
魔物の力は人の力よりも強い。
ミノタウロスの時もケガをしていて奇襲でなければ力で勝つことなんてできやしなかった。
疲れもケガも関係のないデュラハンは普通にフルパワーでリュードとの勝負に挑んできた。
後ろに大きく吹き飛ばされるリュード。
あえてその勢いを受け入れて着地でもう一度後ろに飛び上がって距離を空けてデュラハンを警戒する。
「ラスト!」
追撃を警戒していたリュードの方にデュラハンは来なかった。
「あっ、こっち?」
すぐさま踵を返してデュラハンはラストの方に走り出した。
先ほどから周りを回って弓を射てくるラストのことを厄介だとデュラハンは判断した。
先に倒すべき相手はリュードの支援をしているラスト。
デュラハンは恐ろしい速さでラストとの距離を詰めてきた。
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