決戦! 亡者の騎士デュラハン5
血人族は竜人族や人狼族のように完全に見た目が変わってしまう魔人化ではない。
なので竜人族や人狼族のように真人族の姿と魔人化した姿の両方でそれぞれ好みがしっかりあるとは言い難い。
真人族よりは理解があって見た目に多少の好みはあるけれど基本は真人族の姿が見た目の好みを語る上で基準とされるものである。
けれども血人族の魔人化には翼がある。
そのために血人族には翼の美しさという好みの価値観が存在している。
個人の好みなのでどのような翼が好きなのかは個人の感覚でしかない。
ラストの好みは美しくて力強い翼。
リュードは竜人族であり、竜ではない。
なので背中に翼は生えていないのだけれど、ラストは確かに見たのだ。
リュードの背中に翼が生えていたらこのようなのではないかという翼が。
ドラゴンのような分厚く力強い大きな翼が背中に生えていたのだ。
もしもリュードに翼があったなら。
完全にラストの妄想なのだけれど、本当に翼があったら戦闘中にも関わらず見惚れてしまっていたかもしれない。
「ラスト、行くぞ!」
「あっ、うん!」
いや、かもしれないじゃなく、妄想ですら見惚れていた。
リュードが本気を出したからとラストも本気を出す。
魔人化をする。
背中がムズムズとする感覚があって翼が大きくなる。
コウモリのような黒っぽい大きな翼がラストの背中から伸びて、ラストの瞳がより赤く鮮やかになる。
牙が伸びてチラリと唇の隙間から見える。
見た目の変化としては竜人族のリュードに比べると遥かに小さいがこれも立派な魔人化である。
ヴィッツが魔人化しても背中の翼と牙が伸びるぐらいでラストのように瞳までより鮮紅に染まるのは先祖返りであるからである。
対峙するデュラハンは剣を持っていた。
投げて門を破壊したはずの剣である。
デュラハンに関しては野生であっても生まれ持った時から武器を所持している。
物であったりダンジョンから与えられた物ではない。
デュラハンから生み出された剣であってデュラハンの体の一部と変わりがない。
生み出したのはデュラハンであり何度でも剣を蘇らせることができる。
投げ捨てた剣は消滅して新たな剣を作り出していたのである。
リュードは持ってきた最上級の聖水を惜しげもなく剣に振りかける。
黒い刃が白い光を放ち出す。
ラストはムチを巻いて腰につけ、使い慣れた弓を手に取る。
矢と弓に聖水をふりかけてラストも準備する。
敵がデュラハンだけとなったのでムチよりも弓矢の方がいいと判断したのだ。
「こいよ、この戦い終わらせようぜ!」
リュードの声に反応してなのかデュラハンが乗っている鎧の馬の腹を蹴って走らせる。
馬の勢いを乗せた切り上げ。
ほんの一瞬試してみようかと思ったけれど危険だと瞬時に判断してリュードはデュラハンの切り上げを受け流す。
受け流したはずなのに手が痺れるほどの衝撃にデュラハンの強さを思い知る。
「クッ、ラスト、まずは馬からやるぞ!」
リュードに一撃加えたデュラハンはあっという間にリュードから距離を空けている。
馬に騎乗しての攻撃なので攻撃と移動が一体で反撃に出る隙もない。
一撃離脱が強すぎる。
馬の勢いも剣に乗ってくるし反撃ができない。
将を射んと欲すればまず馬を射よなんて言葉もある。
本当にその通りにする言葉でなく例え話なのだけど実際の場面でもそうするのが良さそうである。
デュラハンの戦力を削ぐ。
「ラスト避けろ!」
しかしデュラハンもバカではない。
再び駆け出したデュラハンが狙ったのはリュードではなくラスト。
まずは厄介な弓の使い手から倒してしまおうとデュラハンも戦略を考えていた。
「やぁっ!」
デュラハンの攻撃をラストが横に転がって回避する。
剣は空を切るがデュラハンは馬の足を止めない。
グルリと回ってきて再びラストを狙う。
「させるか!」
馬は急に反転して走るわけにもいかない。
弧を描くように走っているデュラハンの馬の軌道をリュードは読んでデュラハンに切り掛かる。
デュラハンもリュードを忘れていたわけがない。
けれどリュードははじめての状況なのに適切に対応をしていて馬の前に出るようにしながら先回りするように剣を振り下ろしていた。
馬の足が止まり、立ち上がった馬の前足がリュードの頬を掠める。
多少無理矢理だったけれど上手くいった。
リュードとデュラハンの切り合いになる。
とりあえず馬の足は止められたけれど馬上から振り下ろされるデュラハンの剣は重たくて受け流すのも精一杯だった。
反撃もしっかりと防いでみせて中々攻めきれない。
むしろリュードが押されている。
アンデッドであるデュラハンには腕の痛みという概念もない。
無理なストップアンドゴー、常に全力で剣を振り、想定していない角度からも剣が飛んでくる。
リュードも負けじと反撃をするけど様々な条件がデュラハンに有利であって攻めきれない。
最上級の聖水を使った神聖力を付与しているので当たりさえすればデュラハンにもダメージがあるはずなのにそれをわかっているのか巧みに防御してくる。
巧みというか防御も多少無茶な腕の角度でも容易くそれで防いでくる。
騎乗しているので高いということもあるけど、デュラハンには頭がない。
デュラハンは左手に剣を持ち、右手に頭を持っていた。
フルフェイスの兜を身につけていて中身がわからないがもう取れてしまっている頭を狙うことはできない。
これもまた厄介ポイントの1つだ。
足を止めた激しい切り合い、
リュードがデュラハンを攻め立ててデュラハンの意識は完全にリュードに向いていた。
しかし目がどこにあるかも分からない馬は見ていた。
ラストが馬に向かって矢を放った。
前に出てかわしてしまうとデュラハンが背中をリュードに晒すことになる。
馬は後ろにステップするようにラストの矢をかわした。
けれどデュラハンの馬は続けざまに放たれた2本目の矢までは気づくことができなかった。
いきなり動いたのでデュラハンは僅かにバランスを崩しており、これ以上動くとデュラハンを振り落とすことになってしまう。
見た目は不思議でも中身は馬。
判断し切ることができないでいたデュラハンの馬に矢が刺さり爆発する。
馬が倒れて、デュラハンが投げ出される。
鎧っぽい馬には爆発はあまりダメージがなかった。
ほとんど驚いて倒れただけのようなデュラハンの馬にリュードは剣を振り下ろした。
神聖力の助けもあったリュードは馬の首を切り落とし、デュラハンが立ち上がった時にはしっかりと馬はトドメを刺されて動かなくなっていた。
「リュード後ろ!」
「おっと!」
痛みを感じないデュラハンは馬から落ちて地面に叩きつけられたとしても怯むこともない。
すぐさま切りかかってきたのをリュードはサッと回避した。
もしかしたら馬を倒された怒りなんてものもあるのかもしれない。
そのままデュラハンは攻勢を強めてリュードに切りかかり続ける。
デュラハンの持つ剣は大きい。
質量だけならリュードの剣よりもさらに重そうに見えるその剣をデュラハンはコンパクトに振り回す。
同じような速度で剣を振ろうと思ったら絶対に腕のどこかを痛めてしまうだろうがデュラハンにはそれが出来る。
剣の技量も高く素早く攻撃。
油断すると一気にやられてしまうほど破壊力がある。
一度立て直したくてもデュラハンがしつこくリュードに切りかかり、リュードはデュラハンの剣を防ぐのでいっぱいいっぱいになっていた。
反撃する隙もなく、重たいデュラハンの剣をなんとか受け流していた。
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