決戦! 亡者の騎士デュラハン2

 多少演技くさいかもしれないけどここで1つ大きく言っておくことでモノランが味方であり、神獣であることが印象付けられる。

 チラリと視線を向けるとリュードの考えを察したモノランがスケルトンに雷を落とす。


 感嘆の声が漏れ聞こえる。

 圧倒的な強さの魔物に見えるモノラン。


 誰もそれが巷ではペラフィランと呼ばれる凶獣だとは気づかない。

 神様が送ってくれた支援の神獣であるとみな信じていた。


「まだ諦めるには早いぞ!


 武器を手に取り、今一度戦うんだ!」


「……俺はやるぞ!」


 1番に声を上げたのはレヴィアンであった。

 レヴィアンも護衛も無事に撤退していた。


 スケルトンナイトも倒したレヴィアンだがまだまだ体力には余裕があったし、全く希望は捨てていなかった。

 なんとしても生きて国に帰ってみせる。

 自分よりも強いリュードが神獣を連れてきてくれたので戦える、勝てると剣を振り上げた。


 レヴィアンを皮切りにして暗かった冒険者ギルドの中が盛り上がってくる。


「俺たちはまだ負けていない!」


「そ、そうだ……まだ諦められない」


「やるぞ、俺はまだやるぞ!」


 希望を取り戻した冒険者たちが武器を手に取る。


「ルフォン、ラスト……え、えっ?」


 再びやる気を取り戻した冒険者たちにジグーズが指示を出している。

 聖職者たちに負担はかけられないので聖水を出してみんなに配っていく。


 その間にリュードは心配をかけたことを謝ろうとルフォンたちに駆け寄った。

 やっぱり心配なものは心配だった。


 ルフォンはリュードの首に手を回して抱きつき、右手の袖をラストが掴んで、左手をヴィッツが取った。

 おい、1人おかしいのがいるぞ。


「心配、したよ」


 口ではああ言っていたけどいざ無事なリュードを見て安心した。

 胸に顔を押し当てるルフォンの尻尾は振られていて、怒ってはいないと分かる。


「私もいなくて心配していたんだぞ!」


 これぐらいならいいだろうと最大級の勇気を出してラストはリュードの袖を掴んでいた。

 腕に抱きつくことも、手を握ることもできず、出来た最大の行為が袖に手を伸ばすことだった。


「私も心配しておりましたぞ!」


 ヴィッツのはただの悪ふざけである。

 リュードの左手を両手で包み込むように取ってニッコリ笑う。


 心配していないわけじゃないけど思わず手を取るほどに心配してはいないだろう。


「心配かけてごめん。


 みんなありがとう」


 ヴィッツの手を振り払えない。

 1名悪ふざけがいるけれどルフォンとラストは本気で心配してくれていた。


 まずはこの2人を優先することにして、ヴィッツの方は気にしない。


「でもまだ終わりじゃない。


 みんなで無事にこれを乗り切るんだ。


 ダンジョンブレイクを終わらせて、平和を取り戻して、それでようやく終わりだ」


「そうだね。


 でももう1人で無茶しちゃダメだよ?」


「ごめんごめん。


 だって俺がいなくなってからこんなことになるなんて思わなかったんだよ」


 まさかリュードが少し離れている間に撤退しているだなんて思いもしない。

 確かに戦場を離れたリュードも悪いけど戦況が大きく変わってしまったのでリュードが全て悪いとは言い切れない。


「ラストの言葉でモノランのことを思い出してな。


 助けを借りるためにモノランを呼んだんだ」


「さっすがリューちゃん!」


「私の言葉のおかげってこと?」


「ま、そうだな」


「さっすが私!」


 ラストのふとした嘆きがリュードに閃きをもたらした。


 およそ賭けに近いものであったけれどモノランを呼ぶことができたし、協力を取り付けることもできた。

 ラストのボヤきがなかったらモノランのことを思い出すことはなかっただろう。


「そうだな、ラストのおかげだな」


「ふへへっ」


 褒められてラストも嬉しそうに笑う。


「んで、いつまで手を握ってるんですか?」


「放せと言われておりませんので」


「放してください」


「かしこまりました」


 ヴィッツの茶目っ気はなかなかリュードには理解し難い。

 どのような意図があるのか不明だけど時折ぶっ飛んだ冗談を言う。


「シューナリュードさんですね?」


「あっ、はい。


 何でしょうか?」


 声をかけられてルフォンとラストも離れる。

 振り返るとリュードに声をかけたのはジグーズだった。


 一瞬こんな時にイチャイチャしていたことを怒られるのかと思った。


「私たちがどうすればいいのか指示をくださいませんか?」


「俺が……ですか?」


 なぜいきなりそんな話をしてくるのか、理解ができない。


「はい。


 あの神獣様をお連れになられたのはシューナリュードさんですから。

 私たちが神獣様にご命令をしてよいものかも分かりません。


 ですのでシューナリュードさんが神獣様と私たちがうまく立ち回れるように指示くださればと思いました」


 外の様子を確認していたジグーズはリュードがモノランの背中に乗ってきたのをしっかりと見ていた。

 神獣に助けられてきたような様子もなく、神獣とアイコンタクトも取っている。


 何かしらの関係があるとジグーズは見た。

 雷を操る神獣の周りでうろちょろと戦えば神獣も冒険者も互いに力を出し切ることができない可能性がある。


 どちらの側にも理解がありそうなリュードが指示を出すことが1番良いと判断を下した。

 少なくとも神獣の邪魔にならないようにどうしたらいいのか相談ぐらいはしたかった。


 それに北門での出来事について報告も受けていた。

 1人正しい判断をして、咄嗟にデュラハンの剣も防いだ。


 こんな緊急事態だからこそ正しく動けて実力もある人物を年齢や立場でなく考えてことに当たるべきなのだ。

 ジグーズは自分の判断のために主要な者をさっと説得していた。


「……そうですね、この状況を終わらせるためには結局ダンジョンブレイクを終わらせる必要があると思います。


 そしてそのためにデュラハンを倒すことが必要です」


 偉そうに指示なんて出すことはできない。

 あくまでも対等な立場での意見だと思ってリュードは口を開いた。


 ダンジョンブレイクは自然に終わるものじゃない。

 放っておいたとしても延々と魔物が中から出てくるだけである。


 ダンジョンブレイクを終わらせるにはダンジョンのボスを倒すことが必要である。

 今回ならデュラハンで、もうダンジョンの外に出てきていることも確認済みだ。


「まずはみんなで協力して周りにいる魔物から減らしましょう。


 そしたら俺たちがモノランとデュラハンのところまで行って倒してきます」


 最終的には打って出るしかない。


「しかし、それでは……」


「やるしか生き延びる道はないんです。


 モノランは多分他の人じゃ言うこと聞いてくれないと思うので俺が行かなきゃいけないんです」


「うぅむ……」


 モノランのことを考えると他の人を連れて行くことはできてもリュードが同行することは必須になる。

 乗せて運んでいってと言ってもモノランは拒否する気がするからだ。


 ジグーズもリュードの提案に難色を示す。

 リュードの実力は分からないし任せるには不安が大きい。

 けれどだからといって今ここでデュラハンを相手できる冒険者もいない。


 神獣と繋がりがあるということは、神様とも何かしらの繋がりがあるのかもしれない。

 グルグルと頭の中で迷ったジグーズは最後は自分の勘を信じることにした。


「……分かった、君たちに任せよう」


 どの道他に方法はない。

 最後の希望をリュードに任せてみようと思った。


「ではまず魔物の数を減らしましょう。


 モノラン……神獣と俺たちはギルド裏側をやりますので冒険者たちで表側の方を頼みます」


「承知した。


 みんな、スケルトンを片付けるぞ!」


「モノラン、この建物の裏側の魔物を頼む」


「わかりました」


 冒険者たちがギルドから飛び出してスケルトンと戦い始めて、モノランはギルド裏に回る。

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