決戦! 亡者の騎士デュラハン1
数で圧倒されているので崩れ始めてしまうと止められなかった。
スケルトンたちはドンドンと町の中に雪崩れ込んでいき、無理して戦っても勝機はないと撤退を余儀なくされてしまった。
全員が全員逃げ切れたかは分からない。
何人かいないような気がするけれど誰もいないような気がする人のことには触れなかった。
今はみな冒険者ギルドの建物の中にいる。
聖職者たちによる防御魔法によってなんとかスケルトンの侵入を防いでいた。
冒険者ギルド内の空気は重い。
2階部分には町に残って動けた人が避難していて、ここは最後の砦となっている。
スケルトンに囲まれて、風前の灯となった頼りない砦ではあるが。
「ね、ねえ、リュードいないよ!」
ラストの顔が青ざめる。
ルフォンやラストはしんがりでスケルトンと戦いつつ撤退していたので最後に冒険者ギルドに逃げ込んだ。
冒険者ギルドの中を探してみたけれどリュードの姿はそこになかった。
どこかへ行くと言って戦場を離れてから戻ってきていなかった。
「……リューちゃんなら大丈夫だよ」
そんな顔で言われても説得力がない。
ラストのほど動揺はしていなくてもルフォンはすごく心配そうな顔をしている。
大丈夫と言いつつも胸中でリュードの安否を案じている。
周りに人のいないところにいたなら撤退して冒険者ギルドに退いていることを知らないのかもしれない。
まさかリュードがスケルトンに囲まれてやられしまったなんて考えられないけれど不安は尽きない。
探しに行きたくても神聖力の防御魔法から1歩でも外に出るとスケルトンに埋め尽くされている。
援軍が来るまで持つのか。
聖職者たちの神聖力が尽きてしまえばスケルトンたちはギルドに押し寄せてくる。
重たい空気の中、全員が少しずつ死の覚悟をし始めていた。
「リューちゃん……」
「リュード……」
こんな時ならリュードはどうするか。
粘り強く最後まで諦めないリュードなら何をする。
ルフォンは考えた。
きっと最後の最後まで抵抗してみせるはずだ。
情けなく死んだなんてリュードはしないだろうし、ルフォンもそんな終わりにはしない。
すっかり明るくなった窓から空を眺めているとルフォンは見た。
「ルフォン?」
ペタリとミミを畳んで尻尾を激しく振り始めるルフォン。
ルフォンは冒険者ギルドの入り口に向かう。
なんだろうと窓の外をラストが覗き込んだ。
「目があぁぁあ!」
閃光。
強い光が轟音と共にラストの目を襲撃した。
固く閉ざされた冒険者ギルドのドアを開けるとルフォンの尻尾はちぎれそうなほど振られていた。
「ごめん、待たせたな!」
「リューちゃん!」
「な、なんだあれ……」
「今のは一体なんだ!」
「みんなよく聞け!
こちらは雷の神様オーディアウスの使いである神獣だ!」
ギルドの前に降り立ったのはモノランに騎乗したリュードであった。
閃光と轟音はモノランが放った雷の魔法。
リュードがモノランから飛び降りてギルドから出てくる人に少し演技がかったようにモノランのことを紹介する。
人の視線なんて浴びたくはないのだけど今は仕方ない。
恥ずかしいけど大袈裟に、印象付けるように説明する。
「雷の神様オーディアウスがこの危機的状況を見かねて助けをつかわせてくれた!
みんな、まだ希望を捨てるには早いぞ!」
ーーーーー
「あれぇ……どこにしまったけ?」
マジックボックスの袋はいくつもある。
普段の状況ならどこに何をしまっているのかちゃんとすぐに分かるのだけれどこうして焦っているとなぜなのか分からなくなってしまう。
「あったあった、これだ!」
リュードは今泊まっていた宿に来ていた。
そして袋から探して取り出したのはモノランからもらった毛であった。
これはモノランから渡された呼び出す時に使えと言われた毛。
リュードが魔法でモノランの毛を燃やすとポワッとモノランの毛が一瞬発光してみせた。
「……これでいいのか?」
どうなれば正解なのか知らない。
とりあえずリュードは待ってみることにした。
早くみんなのところに行きたいけど多分毛を燃やしたところ目がけてくるはずだから移動できない。
状況でも分からないかと窓から覗いていると町の中をスケルトンが歩いていることが見え始めた。
すり抜けたスケルトンかと思ったけど1体や2体じゃなく続々とスケルトンがやってくる。
なんとなく状況を察するリュード。
防衛線が崩壊した。
冒険者たちがやられてしまったとは考えにくいので撤退したのだろうことは予想できた。
ルフォンたちが無事なのか焦燥に駆られる。
落ち着かなくて、リュードは宿の屋上に上がった。
周りの様子もよく見えるし、モノランが来たらすぐに分かる。
「おっ、来た」
「なんだなんだ?
これは一体どういう状況だ?」
建物の屋根の上を跳ねてモノランがリュードのところまで来た。
「意外と遠いからと全速力で来てみれば約束を果たしたわけじゃなさそうだな」
「そうなんだ。
ちょっと困ったことになって助けてほしいんだ」
「……リュードの頼みなら断れないけど私にとって頼みを聞く利益はなんだ?」
善意だけで人を助けることはない。
冷たいようだけどモノランは人ではないのであって、人を助ける義務なんてないのだ。
なんならリュードだけここから連れ出してもいい。
「…………今ここで困っている人も多くいる」
「だからなんだ?」
「そんな人たちの目の前で雷属性の魔法を使って敵を倒して、みんなを助け出すんだ。
するとどうなると思う?」
「どうなる?」
「みんな雷の力に感謝するだろう。
上手くやれば中には雷の力だったり雷の神様を崇める人が出るかもしれない。
つまり信奉者を増やすいい機会にもなるわけだ!」
「なるほど!」
「雷の神様の神殿を建てるのにも理由は必要だ。
今危機に陥っている町を一つ救ったのが神獣で、それが雷の神様の神獣なら神殿を建てる理由にもなるだろう」
「なんとなんと、リュードは頭がいいですね!」
咄嗟に考えたモノランの利益だけど悪くはない。
「私の利益もありますしこれは喜んでリュードの頼みを聞きましょう」
すっかり乗り気になったモノランの鼻息は荒い。
信仰を高められるとあってはモノランとしては断るわけにいかない。
モノラン1体で戦況をひっくり返せるかは分からないけれど神獣でなくなってしまった今でも強大な力を持つモノランがいればだいぶ希望も見えてくる。
最悪モノランと協力して退路だけでも切り開くことはできるだろう。
「まずはみんなと合流しよう」
「それは……あちらですね。
神聖力が感じられます」
神獣であったモノランは離れた神聖力をも感じられた。
「乗ってください。
その方が早く移動できます」
「分かった、ありがとう」
「背中に乗せるのはリュードだけですからね。
痛くはないのでしっかりと毛を掴んでください。
落としちゃうかもしれないので」
実は乗ってみたかったんだ。
リュードはモノランの背中にまたがるとモノランの毛を掴む。
魔力を込めていないモノランの毛は柔らかく意外と手触りが良かった。
跳び上がるモノラン。
これならあっという間に着きそうだ。
「モノラン、登場は派手に行こう!
強めの1発を頼むよ」
「任せなさい!」
元とはいえ神聖力の力は凄かった。
冒険者ギルドを囲むスケルトンたちに何本もの太い落雷が落ちる。
高い威力にスケルトンたちが消滅し、上から見るとスケルトンの空白地帯がいくつも出来上がっていた。
火や神聖力だけでなく威力があればあのようにスケルトンを倒すことも出来るのだ。
スケルトンの集団を乗り越えてモノランは冒険者ギルドの前に着地した。
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