不死の軍隊4

「も、門が!」


 人の命は守れたが門は守れなかった。

 やはり門を閉じてはダメだった。


 デュラハンの一撃によって門は破壊され、スケルトンがドンドンと流れ込んでくる。

 もうすでにデュラハンの姿は見えず、これが目的であった可能性がリュードの頭をよぎった。


「くそっ、時間を稼ぐんだ!


 土魔法で門を塞いでしまえ!」


 デュラハンの黒い魔力と相打ちになって神聖力が消えてしまった。

 リュードは聖水を取り出すと剣に振りかける。


 神官にかけてもらったよりは弱い光を放つ神聖力をまとう。

 まずは前に出たためにスケルトンに囲まれてしまっているので下がらなきゃいけない。


 周り全部ではなく下がるのに邪魔になるスケルトンだけを相手取って倒していく。

 切り倒して道を開きたいけれどスケルトンはドンドンと増えていく。


「リュード、大丈夫?」


「ああ、助かったよ!」


 押し寄せるスケルトンに焦りを感じていたら急に前が開けた。

 ルフォンやラストがリュードのために道を切り開いていてくれていたのである。


「みんな、下がるんだ!」


「ファイアストーム!」


 冒険者の何人かが協力して魔法を使う。

 渦を巻く炎がスケルトンを巻き込んで門までの間を一掃する。


 門が燃えてしまうがもう門としての役割を果たしていないので気にすることもない。


「アースウォール!」


 続いて別の冒険者たちが土属性の魔法を使う。

 地面がせり上がり、門の内側が土でピタリと覆われてしまう。


 魔法から外れたり、魔法を発動させるまでに入ってきたスケルトンを片付ける。

 完全に塞いでしまったのでもうスケルトンを引き込んで数を減らす作戦は使えない。


「助かったぜ、兄ちゃん」


 イカツイ顔をした冒険者が汗を拭いながらリュードに近づく。


「すまなかったな、言うこと聞かんで」


「いえ、しょうがないですよ」


 リュードがいなかったらデュラハンの剣で死傷者が出ていた。

 それにリュードの声に従っていれば門は壊れずに済んでいたかもしれない。


 ただしその時はデュラハンの剣を防げたかは分からないが。


 誰もリュードの声に耳を傾けず結果的には門を破壊されてしまうという誤った判断になってしまった。

 それを誤った判断だったと言い切ることはリュードにもできない。


 あの状況、あの場面では門を閉じてしまうことはリュードの頭にも浮かんだ考えだった。

 デュラハンの動きを見て嫌な予感がして、直感的に叫んだにすぎない。


 結果的に悪手になっただけで誰もが下す当然の判断だった。

 

 リュードたちがいるのは北側にある北門。

 門を塞いでしまったので他の門を助けに行くことになった。


「レヴィアン、何があった!」


「済まない、スケルトンメイジにやられた!」


 リュードたちはレヴィアンが向かった西門に支援に行くことにしたのだが状況は最悪であった。

 門は破壊され、冒険者たちが必死にスケルトンを食い止めていた。


 スケルトンメイジも1体だけならさして脅威でもない。

 けれど何体も集まれば、そして集まったスケルトンメイジが協力して魔法を使えば門も耐えられなかった。


 明らかにスケルトンだけではない知恵が加わっている。


 デュラハンの攻撃のように派手に壊れたわけではないが門の下側に大きな穴が開き、そこからわらわらとスケルトンたちが入ってきている。

 それだけではなくスケルトンの上位種であるスケルトンナイトも何体がいる。


 そしてスケルトンたちの後ろからはスケルトンメイジが魔法で攻撃までしてきていて、徐々に押されてしまっていた。

 先ほどのように門を土魔法で塞ごうにもスケルトンに押されてしまって距離ができてしまい、もう魔法が届かない。


 敵が多すぎて近づくこともできない。


「東側の一部で城壁が崩壊した!」


 刻一刻と状況が悪くなる。

 このままでは援軍が来る前にチッパは廃墟と化してしまう。


「もう!


 モノランみたいな化け物に襲われたり、スケルトンに囲まれたり、どうして私ばっかりこんな目にあわなきゃいけないのよ!」


 八つ当たりするようにラストがムチでスケルトンを破壊する。

 ずっと我慢してきた不満がとうとう爆発したのだ。


 大人の試練という文化がある血人族には乗り越えられない試練はないという言葉がある。

 その意味内容は前後の文脈によって異なってくるのであるが大体の場合なんとかなるさぐらいの意味合いが大きい。


 けれどもなんともならない場面、少なくともラストではどうしようないことが多すぎる。


「……それだ!」


 追い詰められつつあるこの状況を乗り切るには何か手を打つ必要がある。

 それも状況を一変させるような起死回生の一手がいる。


 戦いながら頭をフル回転させて方法を考えていたリュードは閃いた。


「どうしたの、リューちゃん?」


「ルフォン、ラスト、俺は少し物を取ってくるからここは頼むぞ」


「分かった!」


「えっ、どこ行くの……はやぁ〜」


 リュードは走った。

 逃げたのではない。


 まだ希望を捨てるには早すぎる。

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