不死の軍隊3

「門を開けろ!」


 ゆっくりと門が開いてスケルトンがなだれ込んでくる。

 

「神よ、魔を払う力を与え給え!」


 神官がみんなに神聖力を付与する。

 各々の武器が淡く光り、神聖力が宿る。


「閉じろ!」


 ある程度のスケルトンを招き入れると門を閉じる。

 あえて門を開けてスケルトンを中に入れた。


 門を閉じて籠城に徹したところで波のように打ち寄せるスケルトンたちを防ぎ切ることはできない。

 少しでもスケルトンを減らしていかなきゃいけない。


 本当なら完全に籠城をして援軍を待つことが良いのだけれど仲間を踏みつけることも厭わないスケルトンは押し寄せれば押し寄せるほど城壁に圧力を与え、縦に積み重なって最後には乗り越えてしまう。

 門を開けることでスケルトンの動きの流れを変えて、引き込んだスケルトンを倒すことで数を減らし、少しでも時間を長く稼ごうとした。


 焼け石に水のような作戦だけど、スケルトンが他に散ることも防げるしまさしく己の身をかけた作戦である。


「俺に任せとけ!」


 ボーンフィールドダンジョンの方向にある門をリュードたちも担当した。

 神聖力をまとった剣は容易くスケルトンを切り裂き、あっという間に倒していく。


 そうして戦う冒険者の中で一際目立つ赤い男がいた。

 大剣を振り回し先頭に立ってスケルトンと戦っていたのはレヴィアンであった。


 チッパで広報活動していたレヴィアンはなんと避難しなかった。

 他国の町のことで関係がないはずなのに、この町には獣人族が多く住んでおり、獣人族の故郷であるならばと自ら町に残って共に戦うことを選んだのであった。


 意外な男気にリュードもレヴィアンを見直した。


 声を出してスケルトンの注目を集めながら戦うレヴィアン。

 レヴィアンの持つ大剣なら神聖力の効果がなくても容易くスケルトンを砕き倒してくれることだろう。


「はっ!」


 ムチだからと侮るなかれ。

 実際ムチで攻撃されるとバカにならない威力がある。


 魔力を込めて威力と操作性を高めたムチは神聖力も相まって軽々とスケルトンを破壊していく。

 ムチで十分な戦力的役割をラストは果たしている。


 ラストに負けてはいられないなとリュードもスケルトンを倒す。

 最初なので少なめに入れられたスケルトンはあっという間に動かぬ骨にされてしまった。


 のんびりとしている時間はない。

 すぐさま次のスケルトンが入れられる。


 そんなことを何回か繰り返してスケルトンを倒していくけれど門の向こうに見えるスケルトンは隙間がなく、減っているように感じない。

 スケルトンそのものは弱くても終わりが見えない戦いというのは精神を消耗させていた。


「一度休憩だ!」


 何度目かのスケルトンを倒し終えて休憩となった。

 倒したスケルトンの骨が地面に散乱している。


 骨のせいで足場も悪くなってきているので若手や戦えない支援の人たちがザッと骨をほうきで片付けていく。

 ダンジョンブレイクで出てきた魔物はダンジョン産でありながら消えてダンジョンに帰ることはなく、実態を持つ。


 他の魔物なら片付けるのも大変だし、血のりなどで剣などの切れ味管理も大変だったのでスケルトンでよかったっちゃよかった。


 集められた骨が山になる。

 大量殺人者も真っ青な骨の量だけどダンジョン産のスケルトンだから骨のように見える何か、あるいはダンジョンに作り出された元は人じゃない人骨である。


 仮にこの世界にDNA鑑定とかがあってあの骨を調べたらどうなるのかちょっと気になる。

 人の骨なのだろうか、それとも違うのか。


 人の骨と同じものでできてるけどDNAとかはないものなのだろうか。


 現実的なのか、あるいは幻想的なのか分からない考えが頭に浮かぶ。


「みんなは大丈夫か?」


「まだまだ大丈夫だよ」


「骨ばっか相手にしてると飽きて疲れてきちゃうかな」


「老体には堪えますな」


 リュードが声をかけると三者三様の答え。

 みんな若干の疲れはありそうだけれどもまだ戦えそうだ。


 気が滅入る骨がぶつかる音を城壁の外に聞きながらリュードは渡された水を飲む。


「やばいぞ、西門が破られそうだ!」


 時間はこのまま稼げそう。

 スケルトンも敵ではないのでこのまま頑張って数を減らしていけば希望も見える。


 そんな雰囲気をぶち壊す緊迫した報告が飛び込んできた。


「誰か西門の援護に回ってくれないか?」


 息を切らせる冒険者。

 慌ててこちらに来たのだろう、渡された水を一気に飲み干してその場にいる冒険者たちを見回す。


「何があってやられそうなんだ?」


 1人2人の支援でいいのか、それとももっと人数が必要か。

 話を聞かないことには状況がわからない。


 どこもギリギリでやっているのでおいそれと人を回すこともできないのである。


「スケルトンナイトとスケルトンメイジが西門の方に回ってきやがった。


 スケルトンそのものは多くないんだが上級種がいきなり混じってきて油断してしまったんだ」


「西門は無事なのか?」


「とりあえず引き入れた分は倒したがケガ人もいる。


 それにまだ西門の方にはスケルトンナイトが何体か外にいるようなんだ」


「ならば俺が行こう!」


 話を聞いていたレヴィアンが立ち上がる。

 レヴィアンの実力ならスケルトンナイトに遅れをとることもない。


 護衛たちもごっそり抜けてしまうのは痛手だけどこちらも無理をしなきゃ今の所問題はなさそうだし、早めの対処が後々の安全につながる。


「助かる!」


「この町には詳しくないから案内してくれ」


「分かった。こっちだ!」


 レヴィアンと護衛たちはすぐさま西門の方に向かっていった。

 ああして真面目にしていると強いし気も使える良い男である。


 普段の軽い態度とは違うレヴィアンの無事を願っておく。


「よし、こっちも再開するぞ」


 いつの間にか地面に転がった骨も全て退けられていた。

 西門の負担軽減のためにも長く休んではいられない。


「門を開けろ!」


「……あ、あれは!」


「デュラハンだ、デュラハンがいるぞ!」


 門を開けるとスケルトンの大群の奥にスケルトンではなくデュラハンが見えた。

 白い中に黒いデュラハンはとても目立って見えていた。


「何かしようとしているぞ!


 門を閉じるんだ!」


 戦場を見守るようにも見えるデュラハン。


 持っていた剣を逆手に持って腕を振り上げた。

 その様子に全員が嫌な予感がした。


「違う……ダメだ、門を閉じるな!」


 何かをしようとしているデュラハンに門を閉じて防ごうとした。

 しかしリュードはそれではダメだと1人直感が叫んでいた。


 門を閉じてはいけないと叫ぶリュードに従うものは誰もいなかった。


 門の向こうでデュラハンは目一杯腕を引き、門に向かって一直線に剣を投擲した。

 デュラハンの黒い魔力をまとった剣が真っ直ぐに門に向かって飛んでいく。


 門が閉じてしまった。


「リューちゃん!」


 リュードは危険を察知して、スケルトンをかき分けて前に出る。

 重たい衝撃音がして、厚い木の大きな門が真ん中からへしゃげて折れていく。


 デュラハンの一撃に門は耐えられなかった。

 完全に門が叩き折られてデュラハンの剣が飛び込んでくる。


 剣を振り上げるリュード。

 デュラハンの黒い剣とリュードの黒い剣とがぶつかり、黒い魔力と神聖力もぶつかり合い、重たい反発力がリュードの手にかかる。


「ナメるな……よ!」


 門を破壊して威力を減じ、主人のいない剣に負けるわけにいかない。

 リュードはデュラハンの剣に打ち勝ち、上空へと弾き上げることに成功した。


 デュラハンの剣は落ちてくることはなく、空中でボロボロと崩れるように消えていく。

 門を破壊してなお凄い力であった。


 冒険者や聖職者の方に飛んでいってしまったら死者が出ていたかもしれない。

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