分かってるよ2

 リュードはレヴィアンがルフォンのことを諦めていないのではないかと警戒していた。

 たとえ他国の王子であろうとルフォンに手を出そうとするなら殴り倒すつもりもあった。


 そうレヴィアンに話すと困った顔をしてリュードに謝罪した。

 ルフォンは非常に魅力的な女性である。


 でもだからといっていきなり決闘を申し込んで奪おうとするなんて自分でも気が短すぎる話であるとレヴィアンは反省していた。

 

 さらに決闘はならずともほとんど負けのようなものだった。

 男らしくスッパリと諦める。

 ちゃんと自分を省みて行動を改める。


 それができるのもレヴィアンという男であった。

 今は自分よりも年下なのに実力が上のリュードに興味があった。


 バラーもやたらとリュードには下手に出ているし何なら可愛い子を落とす秘訣も知りたかった。


 ちなみにレヴィアンがルフォンに差し出していた女心を全く理解していないたくさんの串焼きは護衛が美味しくいただきました。


「しかし、やはりヴェルデガーさんのご子息でいらっしゃるシューナリュードさんは違いますな!」


 お前は一体誰の護衛なのだとレヴィアンですら聞きたくなるほどリュードを持ち上げる。

 分かりやすい褒めてくれるのだけど言い方が巧みで持ち上げ方が上手いので段々と気分が良くなってくる。


「そういえば、君たちはどこに向かっているんだ?」


 とりあえず次の町まで一緒であることは確認済みだ。

 まだ心の距離まで近づいていないことを感じたレヴィアンはもうちょっと同行出来たらいいのにと思った。


「俺たちはこれから大領主であるサキュロベギーオ様にご挨拶して、それからチッパという町を目指していこうと思っているんだ。


 そこには獣人族も多く住んでいるらしいんだ」


「あー……そう」


 勝手に話し始めてたら聞いちゃったけど聞かなきゃよかった。


「なんだ?


 まさか同じ行き先かな?」


「いやー、どうだろうな?」


「ウソが下手だな。


 そんなリアクションじゃ丸わかりじゃないか!」


 大笑いするレヴィアン。

 そんなに隠すつもりもないので白々しい返事になってしまった。


 同じ道を歩むかは分からないが同じような道程を辿ることは分かった。

 リュードたちもベギーオに挨拶をして、チッパに向かうつもりであった。


 次の大人の試練となっているダンジョンの最寄り町がチッパなのである。


「そうか!


 なら一緒にいかないか?」


「馴れ馴れしすぎない?」


「まあ昨日の敵は今日の友だ!


 そして今日の友は明日の親友だ!」


 レヴィアンはリュードの肩に手を回す。


「勝者が敗者にかける言葉はなくても敗者が勝者に敬意を払って友達になるのは構わないだろう?」


「どっちもいい言葉だけど俺の意思ってもんもあるだろ」


「そうだな。


 じゃあ友になろうじゃないか!」


「嫌だ」


「なんでだ!」


 再び大笑いするレヴィアン。

 悪い奴ではない。


 獣人族がそういう性格なのか、それとも赤獅子人族の性格か、レヴィアン個人の性格か。

 自己肯定力が高く距離の詰め方がエグい。


「もう俺たちは友達だ!


 だから明日には親友だ!」


 1人だけ少年マンガみたいなノリのレヴィアンにリュードも多少は悪くないかと思ってしまう部分もあるのであった。


 ーーーーー


 やや面倒な奴だと思っていたレヴィアンも役に立つことがあった。


「ようこそいらっしゃいました」


 薄い笑みを貼り付けてレヴィアンとラストを出迎えるのはベギーオ。

 本来だったなら形式上の挨拶すらもなく冷たくあしらわれるのがいつものことなのであるが今日はそんなわけにいかない。


 なぜならレヴィアンがいるからである。

 ニコニコと人の良い笑顔を浮かべたレヴィアンはベギーオと握手を交わして挨拶する。


 ちゃんとした礼儀を弁えるならレヴィアンとラストの挨拶のタイミングは分けるべきなのだけれど一緒の方が早く済んで楽だろうとお誘いいただいたのでさらっと乗っかった。


 いつも不快な思いをして帰るだけのベギーオへの挨拶もレヴィアンの前ではそんな態度を取ることができない。

 腹の内がどうであっても言葉の上ではラストを歓迎し、大人の試練を応援する。


 レヴィアンを不愉快にさせないためにニコニコと笑ってみせて仲の良い兄妹であるかのように見せかける。

 ラストはラストでレヴィアンの半歩後ろに下がってさらっと挨拶する。


 立場のある相手を役に立つなんて思ったのはこれが初めてであった。

 泊まるようにも提案されたけどラストが受け入れるはずもない。


 レヴィアンは泊まってもよかったのにラストが断るとレヴィアンも断った。

 1夜止まってもてなしを受けるのも礼儀として考えられるのだがベギーオよりもリュードたちの方がよかった。


 泊まってみればよかったのにというとレヴィアンは少し困った顔をして首を振った。


「サキュルラスト様のお兄様にこのようなことを言っていいのか分からないけど何というか……あのサキュロベギーオ様からは少し、嫌な感じがした。


 俺に向けられたものじゃなさそうだけど不快なことに変わりはない」


 どうしても滲み出る負の感情。

 殺意を持つほど強い感情は抑えても抑えきれずにラストに向かっていた。


 それをレヴィアンは敏感に感じっていた。


 空気は読めなくてもレヴィアンは人をよく見ている。

 むしろレヴィアンは人に対してめざとい方であった。


 リュードに対する馴れ馴れしい態度も大丈夫だと思った上でやっていた。

 本気で嫌がっているならやめている。


 決闘の時もリュードが本気で怒っていることが分かっていた。

 だから決闘を止めようとした。


 一見するとにこやかなベギーオの殺気をレヴィアンは感じていたので宿泊を断ったのであった。

 たった一度でもそのように感じ取れてしまったら関わらない方が良い。


 ラストが先にキッパリと断ったのでレヴィアンもそれに乗る形で断ったのであった。


 ーーーーー


 レヴィアンはリュードたちと同じ宿を取り、次の日にリュードたちに合わせて出発した。

 リュードたちと一緒にいるのは国の貴賓。


 バレると国際問題になる可能性もあるからかベギーオが人をつけることはなかった。

 相手が一枚上手でリュードにも全く気配を掴ませないほどのやり手なこともあり得ないことではない。


 念のためルフォンやヴィッツにも尋ねてみたけれど監視の気配を2人とも感じていないのでひとまずはいないものだと考えた。

 リュードたちとレヴィアンたちを合わせるとそれなりの人数になる。


 人が多くなるとそれだけ魔物の方からも手を出しては来なくなる。

 襲ってくるアホな魔物もいたけれど護衛たちやレヴィアン自身も素早く動いて魔物は一瞬で片付いてしまった。


 大剣を振り回すレヴィアンはいかにもパワータイプに見える。

 戦っている時も易々と魔物を両断していたので力が強いことは確かである。


 なのでパワーにばかり注目が行きがちであるが戦い方も悪くない。

 速さもあるし周りもよく見えている。


 それでも負けないけどとリュードは思うけど。


 警戒心が薄れるほどなにもなくチッパにたどり着くことができた。

 ここからはリュードたちは大人の試練に向かい、レヴィアンたちは獣人族たちに広報活動をする。


 すぐにでもダンジョンに向かいところではある。

 まず大事なのはそのための下準備をしっかりとすることである。


 ダンジョンについての情報を集める。

 チッパは中程度の町でそれなりの規模がある。


 町が大きくなれば必要な施設もあるわけで、冒険者ギルドもその中の1つ。

 チッパにも当然冒険者ギルドがあるのでそこに行く。


 ミノタウロスの時のように一人一人に話を聞いている時間も労力もない。

 情報が集まる冒険者ギルドで聞くのが早い。

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