手負いの牛肉3
「うぅ〜、よくそんな余裕でいられるね?」
「余裕なわけじゃないさ。
やるだけやってみるってだけ」
「それがよゆーなのー」
「どうせやることになるんだから覚悟を決めてんだよ」
「こっちは覚悟なんてまだ決まってませーん!」
正直な話、リュードもミノタウロスを余裕な相手だなんて言えはしない。
戦ったこともないので正確な評価も下せないが少なくとも大変な相手であることは間違いない。
「この村の北にいるそうなので後はご自分でお確かめください。
ちなみにミノタウロスは下級らしいです」
さらっと大事なことを言ってのける。
ミノタウロス討伐と聞くと単に倒せばいいとだけ思いがちである。
倒すことの前にまずはミノタウロスを探すことから始めなければいけないのである。
ここがまたダンジョンとは違う厄介なところである。
大まかな場所は教えてくれるけれど魔物もジッと一箇所にとどまっているものではなく、動くので情報集めや痕跡集めをして魔物を探さなきゃいけない。
とりあえずコルトンは村の北側にいるらしいと言うことを教えてくれたけれど北側だけでは探すことも難しい。
そして下級という情報もあった。
こちらは捜索には直接関係がなくミノタウロス本体に関わる情報だ。
同名の魔物であっても大きく個体差がある魔物もいる。
ハイトロールのように再生力特化かパワー特化なんて違いがあることもあるし、ミノタウロスの場合は大きさにバラツキがある。
ギルドが主観で分けるもので若干の曖昧さはあるけれど上中下と3つに分けられている。
下級とはミノタウロスの中でも小さめの個体ということで、体の大きさが強さに直結してくるミノタウロスでは弱い個体であると同義でもある。
中級や上級に比べれば楽な相手。
あくまでミノタウロスの中で比較した場合ではあるが。
まだ楽観視することのできないのには変わりないが少しは勝てる希望も見えてくる。
そしてミノタウロスに関してリュードには別の思惑も持っていた。
「それでは一度失礼します。
大人の試練に挑まれる時はお呼びください」
深く礼をしてコルトンは家を出ていく。
「あーぁ……また面倒な相手だなぁ」
ラストがボヤく。
リュードも同じ感想だから何も言わない。
大人の試練も折り返しなのに一切手を抜いてこない。
ミノタウロスなんて大変な相手だけどギルドが依頼を出せばやりたがる冒険者は少なくない。
むしろ喜んでやる人もいるはずなのに、それを大人の試練としてやらせるとはなかなか性格の悪いことをする。
「まずは情報収集だな。
旅の疲れもあるからちょっとのんびりと人に話でも聞いて情報を集めるとしようか」
ど田舎であるので道のりは遠く魔物の襲撃もあった。
そんなに疲れるものでもないけれど野外に泊まることでは癒されないので疲れは溜まっていく。
ちゃんと体調を整える必要性もある。
それに北側にいるなんてコルトンの情報だけ信じて探し回っては時間や体力の無駄になる可能性もある。
村の人に聞いて場所を絞り込めるなら手間が省ける。
ある程度ミノタウロスのいる場所のあたりをつけられれば楽になるし、バッタリと遭遇してしまう危険も減らせる。
「ということで、俺とラストが話聞いてくるからルフォンはヴィッツと美味いものでも作ってくれよ」
外では焚き火しかなかった。
手間をかけた料理なんてものは作れない。
できて軽く炙って温めるぐらいなのでリュードは温かいちゃんとした料理に飢えていた。
「期待してるぞ、ルフォン」
「そー言われちゃ断れないね。
期待してて!」
ちょっとだけリュードとラストを2人きりで行かせることに抵抗を覚える。
けれど料理を期待していると言われては断れない。
『あれよ、胃袋掴んどきゃ大体の男は捕まえておけるわよ』
なんて自分の母親が言っていたことを思い出すルフォン。
実はルーミオラは料理が得意でなく、料理を何パターンかしか作らなくてそれをぐるぐるとループさせていた。
ウォーケックはそれで満足だったけれどルフォンはそうもいかない。
飽きがくるしたまには別の料理も食べたくなる。
そんなわけで自分で作り始めたのが料理を始めた1つのきっかけでもある。
始めたきっかけはそんなではあるが続けている理由はリュードが美味しいと言ってくれるからである。
ついでにヴィッツにまだ聞けていない香辛料のことでも聞いてみようと前向きに考えた。
リュードとラストは家を出てまず村長のところに向かった。
話を聞くなら村の偉い人がいいだろうと思ったからだ。
そうしてとりあえず目につく人に声をかけてミノタウロスについての情報を集めていく。
村の人はみんな協力的で出来る限りのことを教えてくれる。
村、であるので規模は大きくなく、人は多くない。
情報収集もそれほど時間のかかることではなかった。
集まった情報は多少のズレはあってもまとめると1つの場所を指し示していた。
この村の北にある大きな湖付近にミノタウロスが出るというのであった。
魚が取れる大きな湖で村の人も漁をするので困っている。
小型の小動物系の魔物しかほとんど出てこない平和な村であったのに少し前からどこからか迷い込んできた。
まだ村まで来たことはないのだけどやはり不安でたまらないと話す村人もいた。
ミノタウロスは牛型の魔物が突然変異的な進化を遂げてなることも稀にある。
かなり希少な例ではあるがいきなり現れたならそんなことが起きた可能性も否定できない。
後はどこかのナワバリ争いに負けて逃げてきたことも考えられる。
むしろこっちの方が現実的。
料理ができるまではまだ時間があるだろうとゆっくりと村を歩く。
「ねえ、旅って楽しい?」
「なんだいきなり。
旅か、楽しいよ。
ラストは楽しくないのか?」
「あ、そっか、これも旅っちゃ旅か……
そうだね……楽しい、かな」
一瞬楽しいと口に出すことに迷いがあった。
楽しくないことは決してない。
楽しいのだけどクゼナのとことか大人の試練のこととか大事なことを抱えているのに、それでも楽しいと思ってしまっていて、それを口に出していいのか迷った。
それでも楽しい。
そう思える、そう言える。
自分が旅を楽しいと思っていることに気づいた。
思えばこんな風に旅に出て外を自由に歩くなんてことあまり経験がない。
まだ比較的平和だった子供の頃も王族なので護衛はついていた。
他の領地にラストが赴くことも少なく、大領主になってからは王の直轄地以外に行った記憶なんてほとんどない。
直轄地に行くのも馬車に乗って護衛に囲まれていた。
自分で歩いて宿も探して、さらにその上自分で準備して野営するなんてことあり得ないことである。
「あるいは……」
ラストは隣を歩くリュードの横顔を見た。
ご飯は何かなと上機嫌なリュード。
他の人との旅だったらこんなに楽しかっただろうか。
楽しいと思えるには楽しいなりの理由がある。
「ううん、これは違うの……」
ラストは頭を振って自分の中に浮かんだ考えを振り払う。
リュードとラストは今はこうして並んで歩いているけれど本来立場も違う同士である。
大人の試練が終わってしまえばお別れで、関わりなんてなくなってしまう。
「友達……そう、友達だから……」
それでも友達ではある。
きっと友達だから旅していても楽しいのだ。
なんだか妙に頬が熱い。
なぜなのか、ミノタウロスもリュードと共にならば倒せる気がしてくるラストなのであった。
ーーーーー
翌日の昼までのんびりと休んだ。
リュードとラスト、それにルフォンとコルトンは村の北にある湖を目指して出発した。
ミノタウロスと戦う時にはルフォンは手を出しちゃいけないけれど道中の魔物と戦う時にルフォンが戦ってはいないルールはない。
そこに問題がないこともコルトンには確認済みである。
なので魔物に遭遇したらルフォンをメインにして戦っていくつもりであった。
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