手負いの牛肉2
秘密兵器のようなものがあるわけではないのでそういうことではない。
1番負担なのはマジックボックスの袋が使えないことである。
実は先祖返りは特に秘密でもなかったので先祖返りのことをバラすのはラストとリュードたちにとってフェアじゃないと思ってマジックボックスの袋のことをバラした。
というかマジックボックスの袋を使いたかった。
やっぱマジックボックスの袋が使えると便利なのである。
だからラストもヴィッツも知っているのである程度の荷物はそちらに移しているのだけど、いきなり知らない荷物を出すわけにはいかない。
ルフォンご自慢の香辛料やコンロといった大きな物はもちろん出来ない。
その他の持っているように見えないアイテムも出すことが出来ない。
目に見える物は持って歩かなきゃいけない。
女性用にテントを張っているけれどそれでも人の目があることは気になってしまう。
簡単な水浴びすらも出来ない。
ラストとは違う理由でルフォンも苛立っていた。
プジャンの領地も離れたしどこかで監視役を消してしまってもいいかもしれないとも思い始めた。
ただ監視から隠れる場所が少なくてバレないように接近するのも難しい。
監視側も隠れられるように距離を空けているので遠いのもまた状況が良くない。
確実に倒せる時でなければ逃げられてプジャンに報告されてしまう。
まあ監視がバレましたと報告する以外に何を報告することもないのでバレてしまっても構わない気もする。
クゼナを早く助けたいラストと監視にイラつくルフォン。
状況は着実に前に進んでいるはずなのに雰囲気は少々よろしくなかった。
そして面倒なことにラストは大領主なので大人の試練の前に大領主としてのマナーとしてバロワのところにご挨拶に伺う。
特に他に興味もなさそうなので挨拶に行かなくてもいいじゃんと文句を垂れながらもラストはすっぽかすこともしない。
「久しぶりだな、ラスト。
元気そうで何よりだ」
「バロワ兄さんもお元気そうで」
レストは当然としてプジャンも細目ではあったけれどラストとはどことなく似た感じを受けた。
けれどバロワは少しラストとは違った感じの印象がある。
兄妹だからと似るものでもないので似ていないからなんだという話ではある。
キリッとした顔立ちの偉丈夫。
細身な印象のある血人族の中でもがっしりと体型の男性だった。
ちょうどどこからか帰ってきたのか大きな剣を背負ったままラストを迎え入れたバロワは確かにラストとそこまでバチバチする雰囲気がない。
「大領主になったがどうだ、楽な仕事ではないだろう?」
「ええ、姉の助けもあってどうにかやれています」
「……姉の、サキュルレストはどうだ?
元気にしているか?」
「はい、おかげさまで」
「そうか、よろしく伝えておいてくれ」
「分かりました」
プジャンの時とは違って少し言葉を交わす。
全く交流を持たない訳でもなさそうであった。
「くれぐれも気をつけろよ」
「……ありがとうございます」
思っていたよりも悪い人じゃなさそうだ。
リュードはバロワのことをそう思った。
ーーーーー
次の大人の試練は魔物の討伐であった。
ダンジョンの攻略と並んでこちらも大人の試練としてはよくあるやり方である。
大体が都市部周辺ではなく、遠く離れた田舎の魔物の討伐が多い。
弱い魔物が出やすいということだけではない。
大人の試練であることを口実にして冒険者が少なかったり人手が回らない田舎の魔物を討伐させるのである。
都市部周辺では冒険者に狩られてしまうということもあるし、色々と都合よく大人の試練だからと使われることもままある話。
今回ラストが赴く場所も遠く、ど田舎であった。
人がよく通るところにいる魔物というのは人が厄介な敵であることを知っているので道を通っているとあまり襲われることはない。
けれど田舎の魔物というのはそういうことが分からない魔物も多いのか結構襲いかかってきたりもする。
人という脅威が少ないために学ばないのである。
こうした魔物が強いことなんてないのだけれどこんな魔物が大人の試練の対象だったら楽なのにと思ってしまう。
途中でモノランに会うなどの問題が発生したこともあったけれどリュードもルフォンもそれなりに旅慣れていて、ヴィッツも何でもできる。
最初こそ文句を言っていたラストも手慣れてきたし、移動に関しては黙々と歩く子であった。
クゼナのことで少しスピードアップしたこともあってギリギリだったスケジュールも少しだけ余裕が出来てきていた。
「お待ちしておりました」
予定よりも巻いて大人の試練に指定された地点の近くの村までやってこれた。
村の外ではすでにコルトンが野営をしており、村に近づくラストたちに気づくと頭を下げた。
先回りして待っているなんて面倒なことをしないで一緒に行けばいいのにと思うのだけどそう出来ない事情でもあるのだろう。
村についたラストが村長に挨拶をしに行く。
すると以前に出て行った人の家がまだ空いているのでそこに泊まってはどうかと提案してくれた。
宿代としていくらか村長に渡して安く家に泊まることが出来ることになった。
行ってみると人がいないと聞いていたけど家は綺麗で泊まらせてもらうのがありがたいぐらいであった。
「それではサキュルラスト様の3つ目の大人の試練の内容についてご説明させていただきます」
借りた家のリビングにみんなとコルトンが集まっていた。
魔物の討伐は流動的である。
いくら気をつけていたって冒険者が倒してしまうこともあるし、魔物同士のナワバリ争いなどが起きてしまうこともある。
下手すると魔物がいないなんてこともあるので魔物の討伐の試練は直前まで大人の試練の内容は明かされない。
「3つ目の大人の試練はミノタウロスの討伐です」
「はあっ!?」
コルトンの口から飛び出してきた魔物の名前にラストが驚く。
いや全員が驚いていた。
「ミノタウロスなんて魔物がどうしてこんなところにいるのよ!」
半人半牛、牛頭人身とも言われる魔物。
頭が牛で体が人のような姿をしていて、非常に凶暴で力が強く強靭な肉体を持っている。
見た目の特徴から分かりやすい魔物ではあるのだけれど能力は高く、頑丈でありながら多少の知恵も持っている。
ダンジョンにいるならボスクラスの魔物であって簡単な相手ではない。
むしろ難しい部類に入る魔物である。
発見されたらギルドの方からすぐにでも討伐の依頼が高ランクの冒険者に出される。
それほどの危険性があって大人の試練として2人で戦う魔物ではないはずだ。
「あんた何言ってるか分かってんの?」
我慢しきれずラストがコルトンに詰め寄る。
リスクが大きすぎる。
異常な試練であることはコルトンにも分かるはずだ。
やるならヴィッツやルフォンも入れてほしいぐらい。
それぐらいが最低ラインな難易度。
「……そう言われましても私も仕事でやっているだけですので」
ムスッとした不機嫌そうな表情を崩さないコルトン。
元々怒っているかのような表情なのでラストの行動をどう感じているのかは顔から読み取ることができない。
「……はぁ」
コルトンに詰め寄っても勝手に大人の試練を変更する権限なんてものもないし、一介の役人にしかすぎない。
ラストはため息をついて項垂れた。
「まあやるだけやってみよう。
ダンジョンと違って逃げることもできるし、正面からわざわざ挑むこともない。
ダメそうなら策を考えればいいし、何回だって挑めばいいんだ」
やってみるだけやればいい。
ダンジョンだったらボス部屋は閉じてしまうので生きるか死ぬかしかないけれどダンジョン以外なら逃げることだってできる。
準備をし直すことも、罠や策を用意することだってできるのだ。
代わりに地形の問題や他の魔物の乱入などダンジョンでは考えられない問題もあるので一長一短なところはある。
とりあえず偵察だけでも行って考えてみればいいのである。
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