クゼナ1
「よく来たね、可愛い妹よ」
リュードが抱いた第一印象は胡散臭そうな奴。
会う前から良くない印象を持っていたから実際に会ったとても良い印象を抱くことがない。
血人族に特有の真っ白な髪に開いているのかもわからないほど細い目をしていて、ウソっぽい薄い笑顔を浮かべている。
体を使うというよりは権謀術数に長けて頭を使う方が得意そうに見える。
とりあえずこの信用ならなそうな男がサキュロプジャンであった。
モノランを利用した暗殺計画は失敗に終わった。
おそらく首謀者であるはずなのに、プジャンは動揺した様子もなく挨拶に来たラスト一行を受け入れた。
ラストたちはプジャンに会いに来ていた。
特に会いたいというわけではなく、ラストもプジャンも大領主という立場であるがために形式上挨拶をしに来たのである。
顔を見なくて済むならその方が良いのであるがどんな些細なことでも無理を言って批判してくる可能性もあるので無難に挨拶だけでも交わしておく必要があった。
なんてことはない。
軽く挨拶を交わして、大人の試練のために領内に立ち寄ったことをラストが報告して、プジャンがそれを許可するぐらいのもの。
全くもって無駄な表面上だけの会話。
「どうだい、泊まるところが決まっていないなら僕のところに泊まっていくかい?」
「お気遣いどうもありがとうございます。
泊まるところならもうありますので今回は遠慮しておきます」
泊まらせるつもりもない提案。
ラストも泊まるつもりなんてなく、断ってもプジャンは不快にすら思わない。
泊まると言った方がプジャンにとっては驚きで不快に感じるだろう。
宿泊の提案も礼儀みたいなもの。
泊まれば何をされるか分かったものでないので泊まったことなど一度もなかった。
「そうかい、残念だ。
またあの人のところに立ち寄るのかな?
会ったらよろしく伝えておいてくれ」
「分かりました。
それでは失礼します」
玄関先で少し言葉を交わす程度。
これがラストとプジャンの仲である。
さっさとこんなところ出て行きたい。
「いかにも、な奴だったな」
プジャンの屋敷の門を出てリュードがポツリとつぶやく。
事前に聞いていた話の影響もあるのだけど、実際に会ってみても詐欺師みたいな雰囲気をまとった、リュードがあまり好きではないタイプの人間だった。
非常に信用できない感じの強い男で仮にラストのことがなくても友達にはなれそうになかった。
「それで次にどこに?」
宿は決まっていないが宿を探しに行くのではないことは分かっている。
どこへ行くかも大体分かっている。
泊まっているところが決まっているというのは単に角の立たない断り方をしただけ。
プジャンのところに泊まるのは嫌ですなんてのはマナーとして口に出せない。
「……ずっと話に出ていました、クゼナのところです」
「クゼナはプジャンの屋敷に幽閉されているわけでもないんだな?」
「流石に年頃の若い女性を自分の屋敷にとどめおくことはプジャン兄さんでも出来ませんでした。
今でも隙あらば手元に置こうとは狙っているようですが」
「なるほどな」
「一応クゼナの屋敷に泊まらせてもらおうとは考えてるよ」
「俺たちも泊まっていいのか?」
「もちろん、といいたいけど一応屋敷の主人はクゼナだから聞いてからだね」
プジャンの屋敷の程近く、そんなに歩かなくてもいい距離にクゼナの屋敷はあった。
直接同じ屋根の下には置くことができなかったが何かあれば飛んで来れるぐらいの距離には置いておくことが出来た。
クゼナはプジャンの病気の進行を遅らせる薬が必要になるし、プジャンはクゼナを監視下に置いておきたい。
結果としてそれなりに近い距離にクゼナも留まることになった。
監禁したり雑に扱っているわけではない。
他から何か非難されるようなことはプジャンはせず、クゼナがいる屋敷もプジャンが用意したものだけど古い感じはしているが綺麗にされていた。
近づくラストに気づいて、門の前に立っている若い兵が中に入っていく。
声をかけられるほど近づいた時には門は開いていて、若い兵は嬉しそうな顔をしてラストを出迎えてくれた。
非常にウェルカムな雰囲気。
プジャンの屋敷の時は全然違う。
「お久しぶりです、お嬢様!」
「久しぶりね、ケイド」
声をかけるまでもなく、かなり遠目からの顔パス。
プジャンの時はリュードとラストの関係を怪しまれて問いただされた。
こちらはラストと一緒なだけで信頼があるのか何も聞かれることなく深いお辞儀で通してくれる。
警備の良さを考えるとそれぞれ一長一短な対応であるが気分の良さは比べるまでもない。
「お嬢様、いえ、もうご領主様ですね。
ご立派になられて……」
「やめてよー。
前にあったのだってそんなに前じゃないからそんなに変わってないよ」
照れ臭そうにメイドの言葉に笑うラスト。
非常に柔らかい表情をしていて使用人も顔見知りで信頼していることが分かる。
中の勝手も知っているようで案内されることもなく何人かの使用人に声をかけながら屋敷の中を進んでいく。
「クゼナ、いる?」
開いているドアの横を軽くノックしながらラストが中を覗き込む。
「いるよ、どーぞ」
「入るねー」
パッとラストの顔が明るくなり、中に入っていく。
部屋の中には大きなベッドが置いてあり、そこに1人の女性がいた。
クゼナよりも長い白髪の女性。
優しそうな目を入ってくるラストに向けている。
「あっ、他の方もいらしたのですか……」
年の頃はラストよりも上ぐらいに見えるクゼナはリュードたちを見るとパッと頬を手で隠した。
入ってすぐのことだったけれどリュードは見てしまった。
クゼナの頬の一部が石化してしまっていたことを。
クゼナは石化した頬を他の人に見られたくなくて手で隠した。
ずっと頬に手を当てたままである体勢は不自然であるが誰もそれに触れることはない。
「シューナリュードです」
「ルフォンです。
よろしくお願いします」
ルフォンも空気を読めない子ではないのでリュードに続いてさらりと自己紹介する。
「私はサキュルクゼナです。
ラストの友達ならどうぞクゼナとお呼びください」
「分かりました。
では俺のこともリュードと呼んでください」
「ありがとうございます」
今のところ頬以外に石化しているところは見えない。
元気そうにも見えているが生来色白でリュードたちには分かりにくいがやや顔色もよくない。
「じい」
「はい、領主様」
ヴィッツが部屋の外に出てドアを閉める。
誰かが入ってこないように、誰かが盗み聞きしない限り
か見張る。
「どうしたの、ラスト?」
「あのね、話があるの」
部屋に来るとニコニコとしてこんなことがあった、あんなことがあったとお話ししてくれるラスト。
いつもはそんななのに今日はやたらと真剣な目で見つめてくるからクゼナもドキドキとしてしまう。――
ラストはゆっくりと何があったのかをクゼナに話した。
クゼナはラストが命を狙われた話を聞いてひどく憤っていた。
そして石化病の治療薬の話を聞いて目を丸くした。
とっくに諦めていた治療薬のことを聞いてクゼナの瞳が揺れた。
そのためにクゼナを別の場所にこっそりと移したいことなどの今後の計画についても話した。
「どう、クゼナ?」
すごいでしょとラストがクゼナに笑顔を向ける。
対してクゼナの表情は暗い。
「うん、すごいよ。
でも……ごめんね」
「え……どうして?」
「それはね……」
唇を噛んで悔しそうな表情を浮かべるクゼナは自分にかかっていた布団をめくった。
履いていたズボンの裾を捲って理由を示した。
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