クゼナ2
「ウソ……!」
クゼナの左足を見てラストが驚愕して手で口を覆う。
足首から上が灰色の石になってしまっている。
軽く捲っただけなのでどこまで石化しているのかは分からないけれど膝も曲げないところを見るともしかしたら足首だけでは済まない可能性がある。
思いもよらない病気の進行。
「もう、歩くことも難しいんだ。
無理をすると足が折れて取れちゃうから」
あまり見せたくなかった石化した足。
心配もかけたくないし醜くて嫌だった。
「痛く……ないの?」
「うん、最初は痛かったりしたけど今もう痛みとか何も感じないよ」
「…………大丈夫、大丈夫だから!
私が治すから。
治せるから!」
悲しそうな顔をするクゼナの手をラストが強く握る。
まだ手遅れではない。
体の一部に病気が進行しているだけならまだ治すことはできる。
衝撃と不安で震えるラストの手。
とっくに諦めていたクゼナよりもラストの方が大きく動揺していた。
「ただ考えていた作戦は変更だな」
治療薬を作り、クゼナを連れ出してから治療するつもりだった。
それからモノランをプジャンの元に向かわせることを予定していたのだけれどクゼナを逃すことが難しくなった。
むしろ早く治療を始めなきゃいけなくすらなった。
「リュード、すぐにダンジョンの方に行こう。
早く治療薬を作らなきゃ……」
「待て、声が大きい。
誰か聞いてたらどうする」
「うっ……」
「薬を作っても問題はある。
冷静になって考えろ」
「うぅ……」
リュードに怒られてしょぼんとなるラスト。
語気を強めてはないがまだラストも若いのですぐに行動にしてしまいがちだ。
何かするにもまず一度立ち止まることも必要である。
「進行を抑える薬を貰っていると聞いていたけどどうして?」
もし薬で進行を抑えきれなくなっているのなら危険な状態と言える。
そうならこっそりとよりもリスクは承知で素早く動く必要がある。
「……ちょっと逆らっちゃって、一時薬の量を減らされたんだ」
現在クゼナの屋敷にいる使用人は昔からクゼナの周辺にいる人だけを選んで少数だけ周りに置いている。
プジャンは監視の強化のためにもっと使用人を雇い入れるようにクゼナに言い続けていて、隙あれば誰かをねじ込もうとしている。
少し前にプジャンが薬を渡すついでにクゼナの様子を確認しにきた。
普段は人を使わせて薬を持って行かせるのだけど何の気まぐれだったのかいきなりプジャンが来た。
細心の注意を払ってプジャンを迎えたのだけれど、あるメイドが些細なミスを犯してしまった。
めざとくそれを見つけたプジャンは激しくメイドを叱責してクビにするようにクゼナに詰め寄った。
けれどクゼナはそれを拒絶した。
クビにするようなミスでもない。
それどころか普段ならめくじらを立てるミスでもなかった。
クゼナはメイドをクビにすることを拒否した。
当然の話。
それでも責任は誰かが取らなきゃいけない。
プジャンは逆らったクゼナに渡す薬の量を減らして帰っていった。
足りない薬をどうにかやりくりしていたけれどやはり足りないものは足りない。
石化病の進行は進んでしまい、足が大きく石化してしまった。
「アイツ……」
ラストが怒りの表情を浮かべる。
そんなくだらないことで薬の量を勝手に減らすなんて許されることではない。
クゼナに死なれたらプジャンも困るのですぐに薬の量は戻されたが進行を遅らせる薬なので一度石化してしまったらもう治りはしない。
「だから今は大丈夫なんだけど、足はこんなんになっちゃったんだ」
「そんな顔しないで。
私が絶対に治したげるから!」
リュードは考える。
イェミェンが見つかれば治療薬の材料が揃う目処はたつ。
けれどそれ以降のことはまだまだ不透明だ。
まずは実際に治療薬を作る人。
聞いていたリュードには分かるが治療薬の製法は案外難しいものであった。
設備も必要で、作り方を間違えるとただの毒薬になってしまう可能性もある。
それなりの設備とそれなりに腕の良い薬剤師が必要になる。
次に治療する人。
針での治療が出来る人が必要になる。
針治療が出来る人もあまり多くはないので今から探してみてもそうそう見つかるものでもない。
「…………んっ?」
「リュード?
どうかしたの?」
思わず声が出た。
リュードには薬学の知識があり村ではポーションを自分で作るぐらいのこともしていた。
製法も理解しているし作れない物ではないと思っている。
設備は流石に持ってもいないけれど、設備さえあれば作れる。
さらに針治療の知識もある。
久しくやっていないので少し不安はあるけど出来ないこともない。
「リューちゃん?」
「……俺じゃないか?」
「何が?」
3人の女性たちが不思議そうな顔でリュードを見る。
治療薬を作れて針治療も出来る。
求めていた人材こそまさしく自分ではないか。
リュードは考えていたことを説明する。
自分で自分のことをなんでも出来るように言うのはちょっと恥ずかしいけど自分ならクゼナの治療をすることができる。
用意するものはあるけど探すべきものはかなり減らせる。
お金を出したり、バレるリスクを負って人を探すことはなくなった。
「えええっ!」
驚くラスト。
単に知識があるだけでなく、治療薬も作れて針治療も出来るだなんて驚く以外にリアクションもない。
「リューちゃん、ポーションも自分で作るもんね。
……そういえばあの怪しいおじいさん針治療してたけど習ってたんだ」
ルフォンはリュードについて回っていたけど四六時中一緒にいたわけでもない。
基本は一緒にいたけどどうしても一緒にいられない時もあった。
村にいた針治療するおじいさんはルフォンにとっては結構怪しめの人な印象だった。
リュードは針治療を教えてもらったり付き合いがあったので分かるけれどとにかく人付き合いが下手くそな人だった。
針治療が出来るほど手先は器用でも人との付き合いは不器用なおじいさんだったのである。
「リュード、早くダンジョンに行こう!」
「そうだな、イェミェンが手に入るかどうかか一番の鍵だからな。
ただ、計画はちゃんと考えて修正しておこう」
メイドをクビにすることを拒むぐらいならこの屋敷にスパイがいる可能性は低い。
ヴィッツにも中に入ってもらい、当事者でもあるクゼナを含めて今後の計画を改めて考える。
第一優先はクゼナの治療である。
薬で進行を抑えているとはいってもジワジワと石化病は全身を蝕み、確実に進行はしている。
広がり始めてしまうと進行が早いのもこの病気の特徴でもある。
もう足一本ほとんど石化してしまっているのでなるべく早く治療を開始することが望ましい。
「ではあとはイェミェンの入手と調薬のための設備が必要ですな」
ヴィッツも内心驚きながらも極めて冷静に状況を見ていた。
「……話は分かったけどどうして2人は私を助けようとしてくれるの?
ラストは分かるんだけどさ」
クゼナが当然の疑問を口にする。
リュードとルフォンはクゼナとは面識もなく接点もない。
助ける理由なんかない。
リュードが治療薬も作れるし針治療も出来るなんて都合が良すぎるし、怪しくすら思えてくる。
「俺たちはラストの友達だからな」
そんなクゼナの心のうちに生まれた疑念にあっけらかんとして答えるリュード。
友達だから助ける。
当然なのだけど当然ではない理論。
「友達?
ふぅん?」
「わ、私にだって友達ぐらいいるし!」
「泣きながら助けてって言われたら助けないわけにはいかないからな」
「泣きながら?
ふーーーーん?」
みるみるラストの顔が赤くなっていく。
「な、泣いては……いたけど」
「……ふふっ、いい友達ができたんだね」
クゼナは自分の醜い疑念の心を反省した。
リュードたちがラストを利用するためにクゼナの病気を利用しようとしているのではないかと疑った。
しかしリュードたちは純粋に友人としてラストを助けようとしてくれている。
利用しようとしているとしても、治療はしようとしてくれている。
「へへへっ、クゼナちゃんとも友達になろうよ!」
いい友達と褒められてルフォンが笑顔になる。
ルフォンの良い人レーダーにクゼナも引っかかったみたいだ。
ルフォンはあまり相手の強さというものに興味がなく、自分にとって良い人か悪い人かについて敏感で、そちらの方が大事なのである。
クゼナはルフォンにとっても良い人で友達になってもいいと考えた。
「わ、私も?」
「うん、友達なら助けても不思議じゃないでしょ?」
真正面切って友達になろうなんて言われたことなんて子供の時でもなかった。
いきなりのルフォンの提案にクゼナが動揺する。
「え、えっと、じゃあ……よろしくお願いします」
こんな風に人と友達になったことはない。
口で言うだけのことなのにすごく照れくさくて頬が熱くなる。
「よろしくね!」
損得とかそんなことルフォンには関係ない。
友達になりたければ友達になり、友達が困っていれば助けるのだ。
「ルフォン……ありがとう」
「お礼は全部終わった後で!」
「それじゃあ友達を助けるとしますか」
塞ぎ込んでいたクゼナが明るくなった。
使用人たちもどこか希望を失って暗くなっていたクゼナを心配していたが再び笑顔を見せるようになってラストに感謝をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます