人と希望を伝えて転生したら竜人でした〜世界は救い終えたのでのんびりと旅をします〜

作戦会議

「ごめんなさい……」

「いや……いいんだ」

　どうしたって服というものは汚れることがある。

　涙と鼻水でぐちゃぐちゃになることだって時にはあるものだ。

　そうなれば仕方ない、新しい物を買えばいいのである。

「泣いたらなんだかスッキリした！」

　目は泣き腫らしているが吹っ切れたような表情をするラスト。

　屈託のない笑顔が眩しい。

「リュード」

「ああ」

「ルフォン」

「うん」

「私のこと……助けてくれない？」

「もちろんだよ！」

　大人の試練も1人しかついて行けないので手伝えずにルフォンはヤキモキしていた。

　何かラストのために出来るならルフォンだって手伝ってあげたいと思っていた。

　ニッコリと笑ってルフォンはラストのお願いを受け入れた。

　大人の試練でも中々大変なことに首を突っ込んだものだと思っていた。

　クゼナのことはそれ以上のこと。

　大人の試練よりももっと大変で、人の命がかかっている大事なことである。

　大変なことだけど、もうラストのことを放ってはおけない。

　それにリュードにとっては理由がないことでもない。

　ラストがクゼナを助けてプジャンをどうにかして、大人の試練を乗り越えたらモノランとの約束を果たす時がくる。

　雷の神様の神殿を建てるのである。

　雷の神様には加護をもらって以来お世話になりっぱなしである。

　クラーケンの討伐では雷属性大活躍。

　モノランとも和解ができたのも雷の神様の加護をもらっていたおかげである。

　ラストを助ければ雷の神様の神殿を建てることにも繋がる。

　リュードも雷の神様には何かの恩返しがしたいと考えていたので間接的にではあるけれど神殿を建てることはやってもらいたいと考えていた。

　ラストも助けて雷の神様にも感謝を返すことができる一石二鳥な素晴らしい行動なのである。

　それにだ。

　リュードはプジャンを許せなかった。

　神獣の子を思い出す。

　残された悲しみと殺されてしまったあの子のことを。

　命が失われ、冷たくなりつつある、重くて、血のべったりとした感触が今でも忘れられない。

　あんなことをしたプジャンには何かの報いを受けさせないとリュードも気がすまないのである。

　まずは状況整理である。

　ラストは今大人の試練の最中である。

　大人の試練は期限があっていつでも挑めるわけではない。

　特にラストは同行者を見つけるためにギリギリまで出発しなかったので時間の猶予が少ない。

　一刻も早く次の試練に向かわねばならないのだけれどここで問題が発生した。

　正確には問題を解決できる見込みが出た。

　リュードの推測ではあるがプジャンは卑怯な手を使ってラストを亡き者にしようとしたのだろう。

　元々メノランを殺すつもりだったのかはさておき、ペラフィランという強大で凶暴な魔物がいることを利用しようとした。

　多分ペラフィランを引きつけてラストを襲わせようとしたのだと思う。

　仮にペラフィランが怒りでどこかで暴れても山に入ってペラフィランを怒らせたのはラストということになる。

　ラストだけでなく自分の領内で被害が出ることも厭わないクズ野郎が考えそうな愚かな目論みである。

　結果としてラストは無事だった。

　逆にプジャンはモノランの恨みを買い、命を狙われることになった。

　自分で自分の首を絞める結果になったのである。

　けれどプジャンはラストの腹違いの姉であるクゼナの命を握っていた。

　クゼナが病気であることを利用して、権力の座についていたのである。

　クゼナを治す方法があるとモノランから聞かされたラストは必死の嘆願によって治し方と猶予をもらった。

　自分の権力の鍵であるクゼナを治すことをプジャンが許すはずもない。

　だけど治療薬を作り、クゼナを治療するのには少なからず時間がかかってしまう。

　そこでラストはまずクゼナを連れ出そうと考えたのだ。

「状況だけ見ると面倒だな。

　ただ希望は結構ありそうだ」

　プジャンが利用しようとしたモノランのおかげでかなり光明が見えてきた。

　やるべきことはたくさんある。

　出来るならラストの大人の試練を継続しつつ、クゼナの石化病の治療薬を作り、クゼナをプジャンから引き離しつつモノランにプジャンをどうにかしてもらう。

　大きな枠ではこんなところだけど細かくみるともっとやるべきことがある。

「まずは治療薬を作ることから始めないとな」

　クゼナの命を確保すること。

　これがまず優先である。

　石化病は全身が石になっていく奇病であり、大きな苦痛を伴い、あらゆることが出来なくなっていく。

　今は薬で進行を遅らせているらしいけれど薬をやめた時に石化病がどれほどの早さで進行できるかわからない。

　助け出したはいいけれど治療薬が出来る前に石化病が深刻なレベルまで進行してしまうと助けられなくなってしまう可能性もある。

　なので助け出すにしてもその前に治療薬を用意しておかなければいけない。

「薬草の方はどうですか？」

　リュードがヴィッツに尋ねる。

　ラストが治療薬の材料を探させていたことはわかっていた。

「リストにある中で一般的に売っているものは入手に問題はありませんでした。

　多少珍しいものでもほとんどの薬草は手に入りましたし残りのものももう少し大きな都市に行けば手に入ることでしょう。

　しかし……」

「イェミェンですか？」

「はい、そうです」

　かなり独特な毒草になるイェミェン。

　用途が毒薬作りの他にないものなので堂々と売っているものでもなく、また広く売られているものでもない。

　栽培なんかしているところはまずないし、買う方だって暗殺でもするのかと目をつけられることになる。

　ここはもうプジャンの領地。

　暗殺にも使われる毒草を探しているなんて大々的に聞いて回ることは出来ないのである。

　暗殺を目論んでいると目をつけられては動きにくくなるし、理由を説明することもできない。

　そもそも普通に聞いて回っても見つかるかどうか怪しいのである。

「ですが私のツテを使いまして１つ話を聞きました」

　治療薬を作ることも難しい。

　悩ましく思っているとヴィッツがリュードにウインクしてみせた。

「なんの話ですか？」

「噂なのですがこの大領地のどこかにイェミェンの群生地があるらしいのです」

「じい、それは本当！？」

「ええ、それもさらに面白いことに目ぼしい場所も教えていただきまして、それが領主様がこれから挑まれる大人の試練の近くなのでございます」

　全ての運がラストに向いてきている。

　そんな感じがしていた。

　ヴィッツは地図を取り出してテーブルに広げた。

　目的となる大人の試練はダンジョンで、クゼナがいる大領地の中心都市からは離れたところにある。

　ダンジョンは背の低めな山の麓にあり、ダンジョンの後ろは広く山なのである。

　この山のどこかにイェミェンがあるかもしれない。

「……イェミェンという毒草についてはどれぐらい知っていますか？」

「手に入れるのに調べましたので探すことぐらいなら出来ます」

「なら、次の目的地は決まったな」

　とりあえずイェミェンを見つけ出す。

　話はそれからである。