愚かなる目論み4
そのまま接近してくるかと思われたルフォンは急ブレーキをかけてすぐに飛び退いた。
ペラフィランの電撃はルフォンまで届かず驚きに目を見開く。
怒りに身を任せているように見えてルフォンはちゃんと冷静さも持ち合わせていた。
「こちらですよ」
すぐ近くで声がしてペラフィランはヴィッツに接近されていることにようやく気づいた。
先に動き出したルフォンに呆気に取られていたヴィッツだったがすぐに正気を取り戻して動き出していた。
ルフォンは機を伺うヴィッツのことを分かっていた。
ヴィッツもヴィッツでペラフィランの意識から完全に忘れられていたのでルフォンの視界に入るようにしながら回り込んでいた。
短いアイコンタクトを交わしたルフォンはそのまま攻撃したい気持ちを抑えて隙を作るように動いた。
ルフォンが引いたことに驚いたペラフィランは無防備にヴィッツに足を切り付けられた。
見た目よりも固い。
ペラフィランからすれば取るにたらないぐらいの浅い傷しか付けられず、反撃される前にヴィッツは距離を取る。
「殺してやる!」
それでも痛みは伴うし、翻弄するようなルフォンやヴィッツの動きにイライラが募る。
ペラフィランの怒りが強くなり、全身の毛が逆立つ。
何としても、絶対に殺してやると強い意志を持ってルフォンたちを睨みつける。
「ルフォン!」
ペラフィランが飛び上がり前足を振り下ろしながらルフォンに襲いかかる。
あの巨大にしてとんでもない速さ。
距離なんて関係なく一瞬で詰め寄ってきたペラフィランの攻撃を間一髪かわしたルフォン。
怒りを込めた眼差し同士がぶつかり、ルフォンは本能的にヤバいと思った。
ルフォンの方を向いたペラフィランは口を開けて雷を放った。
そうして防げるものでもなかったがルフォンはナイフをクロスして雷を防御しようとした。
多少の威力は減じれたのかもしれない。
けれどナイフを電撃が伝わり、全身を駆け抜ける痛みと共にルフォンは吹き飛ばされた。
魔人化が解けて地面を転がっていったルフォンはグッタリと動かない。
逃げることを忘れたラストが我慢できずルフォンに駆け出す。
ほんの数秒の出来事。
ヴィッツがフォローに入る隙もない。
「おい」
このままではラストも巻き添えを食う。
頭をフル回転させて次の一手を考えるヴィッツも背筋が凍るほど低くてドスの効いた声が聞こえてきた。
闇に溶け込むように黒いためにヴィッツにも一瞬その存在が分からなかった。
「何してんだ?」
ペラフィランの頭が衝撃に弾かれて後ろに転がる。
何なのか分からなかったヴィッツだが頭の角を見てそれがリュードなのだと理解した。
自分で雷属性の魔法を食らったのは初めてだった。
強い衝撃と全身に痺れがあり、動くことができなかった。
しかしリュードは雷の神様から加護も受けていた。
使うだけでなく受けることに関しても加護は働き、大きくダメージを受けずに済んでいた。
ようやく体の痺れが取れて起き上がるとルフォンが電撃にやられるところであった。
何かを考えて動いたと言うよりも体が勝手に動いた。
あれぐらいで死ぬルフォンではない。
まずペラフィランの注意をルフォンから逸らしてルフォンから遠ざけなきゃいけない。
剣を抜くことも忘れてリュードは魔人化して全身に魔力をたぎらせてペラフィランを殴りつけた。
お返しとばかりに右手に込めた魔力は雷属性の魔力に変えながら殴ってやった。
雷属性を扱えるなら効果は薄いかもしれないけど意外と自分でやられると雷属性の魔法の効果に驚いた。
「ラスト、ルフォンは大丈夫か?」
「う、うん、息はあるよ!」
「俺の荷物にポーションがあるから飲ませてやってくれ!」
「分かった!」
死んでいなけりゃどうにかなる。
ひとまず安心だけどこの目の前の化け物をどうにかしなきゃいけない。
「貴様いったい何者だ!」
ゆっくりと立ち上がったペラフィラン。
ダメージがないことはなさそうだが見た目からどれほどのダメージがあったのか押しはかることができない。
ペラフィラン自身も他から雷属性の魔法を食らったのは初めてだった。
こんなことになるのかと全身の痺れを持って自分が使っている魔法のことを改めて思い知った。
それよりも大切なことにペラフィランは気づいた。
「なぜ貴様あのお方の加護を受けている!」
リュードの攻撃を受けて分かった。
ずっと感じていた謎の違和感の正体に。
「あのお方って誰だよ」
「ゼウラス様だ」
「ゼウラス……?」
「雷を司る偉大な神様だ!」
雷の神様そんな名前だったのか。
声しか聞いたこともなかったし全く知らなかった。
感謝はしていたけど雷の神様の神殿とかもないし名前を調べようと思いながらも忘れてしまっていた。
神様の名前も知らず、声しか知らないなんてレアケースもすぎるな。
「確かに雷の神様の加護は持っているがそれがどうした!」
実際加護があると言われても目に見えるものでもないので本当にあるのかどうか分からない。
雷属性の魔法を使いやすくはなったけれど自分で使っていて慣れてきたのだと思えばそうも思えてしまう。
加護の効果かどうかはハッキリと言えないのである。
「なぜ雷の神様の加護を受けながらこんなことをした!」
「だから俺たちは何もしていない!
こんなこと、の内容もわからなければいきなり襲いかかってきたのはお前の方だろ!」
相手に押されず、なおかつ対等に意見をしっかり伝えるためにリュードは声にも魔力を乗せる。
「先に手を出したのは貴様らの方だ!
まだ力の弱い子を殺しておいて何をほざいている!」
「なんだと?
俺たちは何も殺してなんかいないぞ!」
なんとなくだけど話の内容が見えてきた気がした。
「…………本当に殺していないのか」
「本当に殺していない。
俺たちは今日山を登ってきたばかりだ」
「神の加護に誓って本当に何も知らないのだな?」
「は? 加護に誓うってのがなんなのか知らないけど誓っても全く構わない」
神の加護に誓う。
このことの意味をリュードは知らない。
おそらく知っている人の方が少ない。
神の加護に誓うとは単に神様に誓うのとは違って約束を破れば加護を失っても構わないと約束することである。
口に出して加護に誓うと言っただけでもその約束は有効で加護を受けるほど神を信奉して、神に寵愛されている人にとってはとんでもなく重たい約束である。
「知らないのだな?」
「だから知らないって!」
しつこいぐらいに聞いてくるペラフィランにリュードもイラつく。
加護に誓っているがリュードはその加護を失った気配がしない。
つまりリュードがウソをついていないことがペラフィランには分かった。
ペラフィランから感じられる圧力が一気に無くなり、ペラフィランが項垂れた。
「……その者の背中を見てみろ」
ペラフィランは刺客たちの方に視線を向けた。
「そう言えば変な袋を背負っていると思ったところ……」
なんだか刺客が持つにしてはおかしい物だと確認しようとしたところだった。
リュードの背中がゾワリとした。
ペラフィランの言葉から中に何が入っているのか分かってしまったのである。
魔人化を解いたリュードが刺客の死体に近づく。
剣で袋の紐を切って刺客から外して手に取る。
手にずっしりとかかる重み。
袋の口を開けて中身を優しく外に出す。
「あぁ……」
泣きそうな声がペラフィランから漏れる。
分かっていてもそうであってほしくなかった。
ペラフィランをかなり小さくしたような魔物の死体が中から出てきた。
黒いために分かりにくいが血にまみれていて、全身がひどく切り付けられていた。
魔物相手でもこれはひどいとリュードは吐き気がする思いがしている。
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