愚かなる目論み2
「噂のペラフィラン……だっけ。
2人は見たことがあるのか?」
最初は急だった坂道も少し緩やかになった。
リュードは山に棲むという化け物ペラフィランのことが気になった。
よほどのことがなければ強い魔物というのは絶対討伐対象になる。
生かしておけば後々危険であることが目に見えているから何としてでも討伐しようとするはず。
例え交換条件を出して一時的に引いたとしても、また戦力を整えて魔物を倒そうとするのが常であるので強い方の賢種の魔物は滅多にお目にかかることができない。
おそらく名声や国からの褒賞目当てに挑みに行った冒険者だって数え切れないはずである。
どのような魔物であるのかリュードは知りたくなったのだ。
「私は話に聞いたことがあるだけで見たことないよ」
「私もです。
見たものは皆死ぬとまで言われておりますから。
最初にペラフィランと戦ったのもかなり前ですので直接見たことがある人はもうおりません」
「そっか……」
一体どれほど前に戦ったのかは知らないが今ではペラフィランの名前しか伝わっていないのかと残念がるリュード。
「ですが噂はありますよ」
「噂?」
「はい。
ペラフィランは今では姿を見せないのですが話の端々にその姿が想像できるものが残っています。
あるお話では黒い影のような存在。
またあるお話では……確か大きなイタチ、のような姿をしているとか。
子供の教訓話や夜ふかしているとペラフィランが来るなんてところでも話されることがあるのですが大抵黒い生き物なのは間違いないです」
「黒い大きなイタチ……?」
意外と可愛いのでは?
「あとは鋭い爪を持つとか雷を操るとかそんな話もありますがどれもおとぎ話のような、噂の域は出ません。
時間が経って一般的な魔物にも当てはまるような特徴しか伝えられなくなってしまったのでしょう」
黒くてデカくてイタチみたいな魔物。
絶対そんなんじゃないはずだけどリュードの中ではややファンシーなペラフィラン像がイメージされていた。
イメージ通りなら厄介だ。
攻撃することも非常に困難な相手になる。可愛すぎて。
「黒くて可愛いのなら、ここにいるよ?」
リュードの頭の中を悟ったようにルフォンがスススとリュードに近づく。
体を傾けるように頭を差し出すルフォンの顔は見えないけど首筋まで赤くなっているのが見える。
ルフォンはリュードが可愛いものが好きなのを知っている。
魔物相手であっても、アレ可愛いな、なんて言うこともあった。
そんな風にルフォンは魔物を見たことはないのだけれどリュードはそんな風に魔物を見ている。
これも前世の影響、転生したことが関わっている。
生まれた時から魔物は敵で恐ろしい存在であるとこの世界の人は認識を持っている。
脅威になりうるし倒すことが必要になるのでどんな姿であれあまり良い印象で見ることがない。
リュードは前の記憶があるので魔物相手であってもどこか動物的な感覚でも魔物を見ていた。
そもそも世界が違っていても生き物のフォルムはそんなに大きく変わらず、向こうの世界での動物チックな見た目をした魔物も非常に多かった。
イタチと聞いてリュードは地球でのイタチをふわりとイメージした。
割とデカい生き物が好きだったリュードはデカいイタチは可愛いのではないかと思っているのだ。
リュードがそんな、この世界では変な思考を持っていることはルフォンは承知している。
真面目な顔して何を考えているのかお見通しである。
魔物になんか嫉妬しない。
でも最近めっきりと頭を撫でてもらう機会が減って気がしていたと考えていた。
以前はもっと気軽に撫でてくれていたけどルフォンもなんだか少し照れ臭く思えてきて、前ほど積極的にいけなくなってしまった。
嫉妬じゃないけど黒くて可愛いのならここにいる。
思いつきに身を任せて頭を差し出してみたはいいものの、なんだかとても恥ずかしかった。
「……確かにそうだな」
流石に可愛くても魔物では撫でられない。
チャンスがあれば試してみたい気もするけどケガのリスクを負ってまで試す気はない。
それに身近にこんな風に撫でて欲しがる可愛い子がいるのだ、十分ではないか。
リュードはルフォンの気持ちを察して頭を撫でる。
そういえば最近こんな風にはしていなかったなと思う。
歩幅を合わせて歩きながらケモミミを巻き込むようにゆっくりと撫でる。
髪の部分とケモミミの部分では手触りが違う。
どちらも撫でていて心地が良く、2つの感触があって飽きがこない。
「…………」
「私が撫でて差し上げましょうか」
「なんでよ!」
「昔はよくそうしておりましたではありませんか」
「ちっちゃい頃の話でしょ!」
「そうでございますが、今お撫でしてもおかしくはありません。
なんならリュード様にお頼み申してはいかがですか?」
「な、何言ってるのよ!」
そんなリュードとルフォンの様子をじっと見つめるラスト。
その視線の感情がなんなのかはラスト自身にはわかっていないがヴィッツには分かった。
ヴィッツから見ればリュードはだいぶ小慣れているように見える。
言えばさらりと撫でてくれるのではないかなんてことも思う。
仲睦まじい2人を見ているとヴィッツも愛しい人に会いたい感情が湧いてくるような気分だった。
「ここに焚き火の跡があるな。
もういい時間だしここにするか」
変わり映えのしない景色だが日だけはどうしても移動する。
そろそろ野宿するための場所を考えなきゃいけないところだった。
ただずっと緩やかに坂になっていて、そこで寝るにはあまりふさわしくなく、どこかいいところでもないかと探していた。
まず目に入ったのは黒く焼けた地面だった。
過去に誰かが焚き火をした跡。
他の人も同じようにそうしてきたのではっきりと跡が残っていた。
そこだけ狭いけど平らになっていて、みんなおそらくこの場所で一夜を過ごしてきたのだろう。
少しばかり早い時間ではあるがこの先に平らな場所があるとは限らない。
無理をして進むよりも確実なところで判断を下すことも旅には必要である。
「山の上だからか少し冷えるね」
昼間は暖かいし動いているのでそれほどでもなかったが夜になって気温が下がり動かなくなると寒さを感じ始めた。
ラストが膝を寄せて焚き火に手をかざす。
「リューちゃん大丈夫?」
「まだこれぐらいなら平気だよ」
リュードは寒さに弱い。
竜人族全体が寒さに強くない種族なのである。
もちろんそのことも知っているルフォンはピタリとリュードにくっつく。
昔は寒い時にルフォンは良くリュードにくっついていた。
人狼族は体温が高めで寒さに強い。
逆に暑さに弱いのだけど魔人化した姿の影響が普段の姿にも多少表れているのだ。
ルフォンはリュードに近づきたい。
リュードは寒いので温かいルフォンがそばにいるとありがたい。
ウィンウィンなのである。
見ているとまた冷やされそうなのでラストはリュードたちの方を見ないで焚き火を見つめていた。
「危ない!」
ヴィッツがラストの前に手を伸ばした。
その指の間にはナイフ。
暗くなってきたどこからかラストに向けてナイフが飛んできた。
それをヴィッツがいち早く察してキャッチしていたのだ。
敵襲。
各々が武器を取り、焚き火を背にするように周りを警戒する。
「敵は3人、散らばっております」
血人族も人狼族と同じく闇に強い一族。
リュードは暗くなった周りの様子があまり分かっていないがリュード以外の3人には周りの様子が見えていた。
敵の気配は感じるが黒い格好をしている敵の姿は闇に溶け込んでいてリュードの目には映らない。
「来ます、気をつけてください!」
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