秘密を打ち明けあって2

確かに想像はしたけど。

 でも言われてみれば背中に翼が生えた想像をするということは一瞬でも上半身が裸の想像をしたということになる。


 エッチと言われたらエッチなのかもしれない?


「それはそれはキュートな翼でございますぞ」


「じ、じい!」


「ほっほ、小さい頃なんて『ほら見て! ほら!』と小さい翼を動かして私に見せてくださったものです」


「いつの話してるの!」


 重たかった空気が明るくなる。

 ラストは恥ずかしそうだけどほっこりエピソードでいいじゃないか。


 ルフォンも想像したのかクスクスと笑い、エッチ疑惑は消えてしまったようだし。


「そ、そういえばリュードはなんの魔人族なの?」


 話題を変えようとラストが切り出す。

 前々から気になっていた。


 角が生えた魔人族は存在する。

 しかしリュードのような角の生え方をした魔人族は聞いたことがなかった。


 魔人族と言っても幅広く色々な人が存在するのでラストも全てを把握しているわけではない。

 いつか聞こうと思っていた質問を勢いでぶつけてみた。


「私も気になっておりました」


「そういえば言ってなかったな」


 人生経験がラストよりもはるかに豊富なヴィッツでさえもリュードの種族が分からないでいた。

 常に角があるので獣人族の1種族かと思ったけど当てはまるような種族もない。


 それに身体能力は高くても魔力は強くないことが多い獣人族にしては魔力も強い。


 種族が分からないからと言って信用ならないことはなく、むしろ性格や人となりからは信頼しても良さそうな人物だと思っている。

 正体が分かればより信頼が置くことができる。


「俺たちはそんなにひた隠しにするほどのことじゃないけど吹聴して回るつもりもないからな。


 言っていいか、ルフォン?」


「もっちろん。


 私はむしろ知ってもらいたいかな」


 きっと獣人族だと思われている。

 だから獣人族ではないことを知ってもらいたい気持ちがルフォンにはあった。


「そっか、俺の種族は竜人族だ。


 そしてルフォンが」


「人狼族だよ」


「竜人族と人狼族……?


 でも…………」


「これだろ?」


 リュードが頭の角を軽く触る。

 リュードの頭には立派な角がある。


 意外と滑らかな表面をした角は撫でると気持ちがいい。


 一応ラストもヴィッツも竜人族や人狼族という種族のことは知っていた。

 角やケモミミがあるイメージがなくてラストは困惑した。


「そうだな……そっちが秘密を明かしてくれたし、俺たちも秘密を教えるよ」


 ちょっとだけもったいぶってみる。

 話の流れとリュードの能力からヴィッツはその秘密がなんなのかすでに予想していた。


 けれどラストはまだ秘密がなんなのか分からず、秘密の教え合いってなんだかすごい友達みたいだ、なんて考えていた。


 ラストはドキドキした表情でリュードの言葉を待つ。


 リュードが体を前屈み倒すとラストも体をリュードに近づけて言葉を聞き漏らすまいとする。


「俺たちも先祖返りだ」


 少しだけ声のボリュームを下げて、秘密っぽくラストに教えてやる。


「えええー!」


 打てば響くリアクション。

 ありがたい限りだ。


 でも同年代、同時代、同じ場所に別々の種族の3人の先祖返りが集まっている。

 あっさりとラストには教えてしまったけれど実はとてもすごいことなのではないかと今更思えてきた。


 体を変化させる魔人化のできる種族の先祖返りはその魔人化の特徴の一部が体に出てしまう。

 リュードが以前から考えていた仮説がより現実味を帯びてきた。


「だから俺は角が、ルフォンはケモミミや尻尾があるんだよ」


「は、はぇー……なんだかスゴいね」


 ビックリしすぎて言葉を失うラスト。


「先祖返りのお二人とは、またすごい方をお味方にしましたな」


「ふふ、ラストちゃん変な顔ー」


「だ、だって2人も先祖返りってそんなことある!?」


「ふふん、あるだなーこれが」


「そーだけどさ!」


 ラストは運がいい。

 見舞われた境遇だけ見ると不幸なのであるがこれまでそれを上手く乗り越えてきた。


 これまてまどんな時でも明るく努力を重ねてきた。

 兄姉の嫌がらせにもめげずに立ち向かって、ダメになりそうな時はどこからか救いの手が差し伸べられる。


 それだけでなく乗り越えた暁にはラストはちゃんと利益も手に入れてきた。

 死にそうな目にあった時もそれをなんとか乗り越えて、結果として大領主になったのである。


 できれば大きな幸運はもういいので、幸せが小さくとも穏やかな人生がラストに訪れればいいのにとルフォンと笑い合うラストを見てヴィッツは思っていた。

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