秘密を打ち明けあって1

 コルトンはダンジョンから出るなり次の大人の試練を確認するために付近に繋いでいた馬に乗ってさっさと先に行ってしまった。


「プジャンお兄様は狡猾な方よ」


 戻るにしても次に行くにしても町までは遠く、その日のうちにはたどり着かない。

 ダンジョンから少し離れたところでリュードたちは野営を始めた。


 もうテントを張ったりとか野営作業にも慣れてきたラストはぶつくさと文句を言うこともなくなった。

 作業そのものの手際も良くなり、むしろ率先してやるようにすらなった。


 さっと夜の準備を終えて焚き火を囲んでいるとラストがおもむろに口を開いた。

 こういう時の焚き火には不思議な魔力があるとリュードは思う。


 何人かで話すこともなく黙って焚き火を見てると、誰かしらが口を開いて話し出すのだ。

 話をしようと思っていた思っていないに関わらず何故か誰かが何かを語り始める。


 誰かの目を気にすることなく、風に揺られる焚き火の炎を眺めてながらだからこそ話せることもあるのかもしれない。


「プジャンお兄様は3番目のお母様の子供です。

 4つある大領地の1つを持つ大領主の1人でもあります」


 この国は今や魔人族の国として認識されているけれど国の支配者層を見ると、元々は血人族が支配する国である。

 さらにこの国の歴史を遡っていくとこの国は血人族のものではなかった。


 血人族はこの地域に住んでいた一種族であり、いくつかの氏族に分かれてそれぞれ真人族の国の中で黙認された小領地を持っているにすぎなかった。

 真魔大戦が始まると魔人族への弾圧が始まり、血人族は真人族に追い詰められた。


 追われて逃げて、分かれていた血人族は共通の敵を持って1つになった。


 血人族は頭の良いものが多く、魔人族の中でも強い方に入る種族であった。

 一丸となった血人族は逃げるでもなく戦うことを選んだ。


 どっちにしろ魔人族側のところまで行くには遠すぎたのだ。

 真人族の国の中から1つターゲットにする国を選んで反撃に打って出ることにした。


 選んだ国は生存戦略の1つとして他国からお金をもらい、代わりに魔人族を収容するという刑務所のような役割を果たして財貨を得ていた。


 まず血人族は仲間を増やした。

 収容所を襲い、魔人族を解放し、着々と力を蓄えた。


 他の国に助けを求めるか、あるいは他の国が助けを送るか。

 国同士の付き合いとは厄介なもので迅速さが求められるのに互いに顔色を伺い、外交問題がなんて言っている間に血人族の戦力は膨れ上がっていった。


 個としての戦力は魔人族の方が強い。

 さらに噂を聞き、収容所の魔人族だけでなく周辺に隠れていた魔人族も集まってきて血人族をリーダーとする魔人族の軍は真人族の軍に数で劣りながらも強い団結を見せた。


 プライドを捨てて助けてほしいなどと他国に要請した時にはもう遅かった。

 国の首都を落とし、王の首を取った血人族が国を支配することになった。


 他の国も黙ってみているはずもなく軍を送ったのだが血人族を中心に必死に抵抗を続け、やがて戦争は終わった。

 真人族と魔人族は一定の和解をみることになり、互いに無用な戦いをすることは禁じられた。


 血人族たちは国を守り抜き、勝利したのである。


 血人族が中心であったので当然血人族が国の支配者となり、1番最初の王は血人族の中でも最も強く、戦争でも戦いやリーダーとして活躍した者がなった。

 王は国を5つに分けて王国の直轄地と4つの大領地とした。


 当時有力だった氏族の長それぞれを4つの大領地を治める4人の大領主とし、大きな権力を認めた。

 そして王はそれぞれ大領主が属する氏族から妻を娶り子を残した。


 今でも有力氏族から妻を娶る習慣は残っており、王には多くの妻と子供がいた。

 プジャンとやらはそのかつての大領主にもなった氏族出身の女性と王との子供であり、二つ前の大領主の息子であった。


 しかし、大領主は血筋だけでは継ぐことができない。


「プジャンお兄様は卑怯な手で大領主になったんです」


 ラストが悔しそうな顔をする。


 プジャンが今納めている大領地の前大領主もラストの兄だった。

 直接の兄妹ではなく腹違いの兄なのであるのだがラストにも好意的で領主としての手腕もある良い人だった。


 けれどプジャンは卑怯な手を使って前大領主を引きずりおろして自分がその座に収まった。

 嫌いで関わりたくもない相手である。


「そんな人だから何してくるか分からない」


 ラストの父親、つまりこの国の王様は兄弟姉妹で争うことを望んではない。

 バレれば逆鱗に触れることになるので大々的に襲ってくることは可能性が低いと思っている。


 事故に見せかけて何かをしてきたことはあってもプジャンが切り掛かってきたなんてないのである。

 それでも誰かを雇って何かしてくるぐらいのことはする。


 そんな予感めいた嫌な感じがラストにはしていた。


「でも俺たちにできることなんてないだろう。


 なるようにしかならないんだからそんな思い詰めた顔するなよ」


 いくら警戒しても事前に相手の動きを知ることはできない。

 起こった出来事に対処していくしかリュードたちに方法はないのである。


 やるならさっさと手を出して諦めてくれた方が楽になるぐらいにリュードは考えていた。


「そうだけど…………」


 プジャンが卑怯な手を考える人物であると知っているだけに不安は拭えない。


「話は変わるけどさ、1つ聞いていいか?」


「なに?」


 空気が重たくなったので話題を変えてみようと思う。

 プジャン云々はまだラストの領地にいるし心配しすぎてもしょうがない。


「ラストは先祖返りって言ってたよな?


 その、なんかそれが分かる特徴とかあるのか?」


 リュードは自分とルフォン以外の先祖返りを知らない。

 リュードもルフォンも先祖返りの影響で魔人化した姿の特徴が残ってしまっている。


 血人族のことはリュードも良く知らない。

 竜人族や人狼族のように魔人化した姿があるのかも知らないのである。


 もし魔人化した姿があって、先祖返りの影響があるならそうした特徴があるのかどうか気になったのである。

 血人族って言うし魔人化した姿が血が吸いやすくなるように犬歯がニョキッと伸びるとかだったら可愛いなとか思ったり、なんの特徴や兆候もなく先祖返りがあるのかとか本には載ってないので聞けるなら聞きたい。


「えっと、それは……」


 ラストがチラリとヴィッツを見る。


「領主様がよろしいのでしたらお教えしてもよろしいと思いますよ」


 先祖返りであることをリュードたちに打ち明けはしたけれど、一応他には隠している話。

 先祖返りかどうか判断できてしまうことを教えてもいいものかラストは迷った。


 ダメそうならヴィッツが止めたり咎めるはずだけどむしろ好きに話して良いとお墨付きをもらった。


「うん、血人族は魔人化しても全く別の姿になることはないんだ。

 でも魔人化はあって、私たち血人族は翼が生えてくるの」


「翼?」


「天使とかそんな綺麗なものじゃないだけどね。


 それで私なんだけど、先祖返りのせいなのか魔人化しなくても背中にちっさい翼があるんだ」


 秘密だから、そして少しだけ恥ずかしいから声をひそめてラストは秘密を打ち明けた。


「は、恥ずかしいから見せらんないけど、こう背中にちょこんってあるんだ」


 みるみると耳が赤くなるラスト。

 人に言ったことのない秘密を打ち明けることがこんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。


 血人族はつまりは吸血鬼的なものである。

 吸血鬼的な翼のイメージといったらコウモリ的な翼。


 そのコウモリ的な翼の小さいのが背中に生えている。

 想像してみると可愛いかもしれない。


「……リューちゃんのエッチ」


「えっ!?」


 想像したとしても背中だし、可愛らしいと思っただけ。

 ジトっとした目でルフォンが想像を膨らませていたリュードを見ていた。

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