相性よく、愛称がいい3

 無い肉片を拭うようにしているとサキュルラストが嬉しそうにリュードに駆け寄ってくる。

 上げた手を差し出してくるのでリュードも同じようにして、手を打ち鳴らす。


「やるじゃん、シュ……リュード!」


「おう、サキュルラストも……」


「ラスト! その、ラストって呼んでくれると嬉しいな……」


「ん、分かった。


 ラストも凄かったじゃないか。


 どうしてその力をここまで隠していたんだ?」


 もはやハイトロルの死体はないので状態を確認することもできないけれど一発でハイトロルは酷いことになった。


 それなのにラストは大きく消耗した様子もない。

 これまで使わなくても確かに余裕があったけれどもっと早く楽に進むことができるのだから使ってもいいように思えた。


「んと、誰に見られるか分からないからね、


 あの行政官だって真面目そうな顔をして誰の派閥に属しているか分からない。


 私は今のところ魔力があっても練習嫌いでまだまだ力を上手く扱えないか弱い少女だから」


 能ある鷹は爪を隠すという。

 ラストは先祖返りの魔力や身体能力だけでなくそれをちゃんと活かして扱えるだけの才能もあった。


 しかし兄姉に警戒されている今戦いの才能まで見せてしまうと牽制はより激しくなる。

 ラストは誰かの目がありそうなところでは出来る限り力を見せないようにしていた。


 今回はボス部屋に2人きりなので他の人の目は確実にない。

 神様の神託もあるしこんな風に助けてくれる人が敵なわけもないのでラストはもうリュードに信頼も置いていた。


 力を見せてもいい相手だとラストはリュードを認めた。

 ついでに力を見せておけばいざという時にどこまで出来るのかの基準にもなる。


「おっと、戦利品もドロップしているな」


「う……いらないからリュードにあげるよ」


「……じゃあ、もらっておくよ」


 戦利品として落ちていたのはハイトロルの肝だった。

 色々な薬の材料にもなるし高額で取引されることもある代物である。


「いや、しょうがないのかもしれないけど……」


 落ちている肝はそのまんま肝である。

 生の状態で落ちている。


 血がついているとかではなく綺麗な肝なのだけれど要するに肝ってことは魔物の内臓なのである。

 いらないのではないけど触りたくない。


 ラストは放った矢の回収に行って肝から逃げてしまった。


「うひぃ……」


 触ると肝は柔らかく、弾力があって、ぬちょっとしている。

 せっかくの綺麗な状態の肝である。


 雑に扱うわけにもいかず優しく持ち上げるために肝と接触する時間が自然と長くなり、その独特の感触にゾワゾワと鳥肌が立つ。

 マジックボックスの袋に肝を放り込んで、肝を掴んでいた手を空中に彷徨わせる。


 肝の感触が手に残っている。

 なんだか1番これが疲れる気がした。


「だいじょぶ?」


「うん……ナマモノのドロップは辛いな」


 自分で魔物を解体している時には何も思わないのに目の前にポンと肝だけ置かれると嫌な感じがするのはなぜなのか。

 特に臭うわけでもないのにリュードは肝を触った手を少しだけ体から離してボス部屋から出た。


「……もう討伐なされたのですか」


 入った時と全く同じ位置、同じ姿勢で待っていたコルトン。

 驚いたようなセリフだけど表情には変わりがない。


 ボス部屋の扉は1度完全に閉じた。

 開かないことは確認したし、自分の知らない裏技でボスを倒さずに出てくる方法なんてあるはずもない。


「へっへーん、私強いからね」


 ピッとラストがコルトンに向けてピースサインをする。

 実際のところ本当にラストが強いのだけれどそんな軽い態度を取るラストにコルトンはリュードが倒したものだろうと考えた。


 わざとそうしていることはリュードにも分かっている。

 だからあえて何も言わずにラストの誘導する印象づけを助けた。


「これで1つ目の大人の試練は成功となります。


 お次の場所はこちらに書かれています」


 コルトンは懐から2と書かれた黒い封筒を取り出してラストに渡した。

 ラストが中を開けると簡易的な地図と次の大人の試練の場所が書かれた紙が入っていた。


「次はプジャンお兄様のところね……」


 大人の試練の場所を確認してラストがため息をついた。

 このまま自分の治める大領地内で全てを終わらせることができれば楽だったのにそう甘くはない。


「とりあえずこんなところさっさと出ようか、ラスト。


 ……ラスト?」


「あっ、うん。


 早く出よっか」


 (リュードって呼んじゃったし、ラストって呼んでもらえた!)


 大人の試練を1つ乗り越えられて喜んでいる。

 ラストの態度がリュードにはそう見えていたのであった。

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