相性よく、愛称がいい2
これまでも手は出してこなかったけどここからは正真正銘に2人きりになる。
「行ける?」
「いつでも大丈夫だ」
「…………」
「そっちこそ大丈夫か?」
「あっ、うん」
真っ直ぐに扉を見据えるリュード。
その横顔を思わずボーっと見つめてしまった。
意識しないようにと思うほどに意識してしまう。
大領主になってしまったから同年代の女の子の友達がいないサキュルラストはこんな時にどうしたらいいか分からない。
旅の最中では相談する相手もいない。
旅をしてなかったとしても相談できる相手はレストぐらいなのだけど今は当然いないし、ヴィッツにはこんなこと相談できない。
1人で答えの出ない思いを抱えていた。
(これは単なる憧れ……)
何度も心の中で繰り返す。
ルフォンというパートナーと仲良くしていることに対して、自分もそのようなパートナーが欲しくて憧れているだけ。
それに加えて助けてくれていることに感謝している気持ちが混ざってきっとこんな気持ちになっている。
そんな風に言い聞かせる。
別にそうした行為に憧れがあるだけでリュードじゃなくてもいい。
そう思うとチクリとする胸の痛みは無視をした。
リュードたちが入るとボス部屋の扉が1人でに閉まる。
中には2体のトロルと真ん中に皮膚の赤黒い一回り大きなトロルがいた。
「ハイトロルか……」
トロルの進化種であるハイトロル。
再生力かパワーのどちらか一方に寄って強化されたトロル。
再生力の方じゃなければなとリュードはハイトロルを見ながら思った。
まず周りから片付けるのは定石。
「はあっ!」
トロルの頭が吹き飛んで、トロルに向かっていたリュードは驚いた。
サキュルラストの矢が当たった瞬間に魔力が爆発してトロルの頭を吹き飛ばした。
あれも魔法の1つ。
矢に魔力を込めて放ち、魔力を爆発させる。
これまでは深く刺さってもあんな威力はなかった。
聞きたいことはあるけれど今は戦いの最中。
疑問はさておきリュードはもう1体のトロルに向かった。
リュードですら頭が爆発したトロルに驚いたのだ、トロルたちの方もリュードよりも驚いていた。
仲間が死んだと思っているのか、どうしていきなり仲間の頭が吹き飛んだのかを考えているのか、トロルの頭の中を覗く術はない。
ただ目の前のトロルは頭がなくなってゆっくりと倒れていくトロルを呆然と見つめている。
リュードが剣を振りかぶっても動きもせず隙だらけであった。
トロルの肉質としては固くて切りにくい。
なのでいつもよりも力を込めてしっかりと振り切ってトロルの首を刎ねた。
切り飛ばされたトロルの濁ったような純粋な目は死んだ後も何が起きたのか分からないように虚空を見つめていた。
トロルの死体2つが出来て、あっという間にダンジョンに還っていく。
魔法の粒子となってトロルの死体は消えてしまい、残るはハイトロルだけとなった。
相当順調なスタート。
配下のトロル2体を失ってようやくハイトロルは我に帰った。
ハイトロルにとってはいきなりの襲撃。
怒りの咆哮をあげる。
問題はこのハイトロルの進化がどちらかである。
まずは様子見から。
ハイトロルが近くにいるリュードの方に向かう。
トロルにありがちなただの木材のような棍棒ではなくハイトロルにふさわしい大きさの斧をリュードに向かって振り下ろす。
ダンジョン産の魔物に厄介なことは自然の魔物が持たない武器を持っていることがある可能性もあることである。
ただし経験を積んでいく自然の魔物と違ってダンジョン産の魔物は定期的に狩られるので練度は非常に低い。
後ろに下がるリュードではない。
斜めに一歩踏み出して斧をギリギリでかわすとハイトロルの胴体を切り付ける。
「ハズレか……」
切り付けたそばからハイトロルの傷口が治っていく。
再生が早く普通のトロルとは比べ物にならない。
このハイトロルは再生力特化のハイトロルであった。
振り下ろされた斧がそんなに早くない時点でうっすらそんな気はしていた。
面倒な方だなとリュードは一度ハイトロルから距離を取る。
パワー特化なら当たらなければどうということもないのに再生力特化はただただ面倒。
タンクを重視した編成ならパワー特化も厄介な相手だろうけど基本的に受け流すか回避するのが普通のリュードにとっては普通のトロルと変わりがないのだ。
再生力特化はそうはいかない。
理想的なのは首を切り落としてしまうこと。
だけどハイトロルはトロルよりもさらに一回り大きい。
トロルでもちょっと首が高い位置にあって狙いにくいのでバランスを崩したりしっかり狙えるようにしてから倒していた。
一回り大きいハイトロルになると首を狙うのは少し厳しくなる。
頭を潰してもいいけどそれはさらに遠いし鈍器でもないとできない。
さらに再生力が高いので半端な攻撃をしてしまうとそのまま反撃してくる可能性もある。
パワー特化でなくとも魔物であるハイトロルの力は侮れない。
トロルとパワーは同じでもトロルのパワーも普通に食らえば大ダメージになる。
それに武器も持っているし半端な攻撃のために反撃をもらえば危険だろう。
「シューナリュード、一瞬でいいからそいつの動きを止めて!」
ただし厄介なのはリュードが剣でハイトロルを倒そうと思った時である。
足を切り付けて膝をつかせるとか一手間必要になる。
けれど今はリュードは1人ではない。
先ほどトロルの頭を吹き飛ばしたあの攻撃ならばとリュードも思った。
サキュルラストの高い威力を誇る矢による魔法攻撃がある。
矢を番えて弓を構えたサキュルラストは魔力を高めて矢に込める。
トロルと同じように一撃で頭を吹き飛ばすつもりだ。
デカいといっても狙おうとすると頭は思いの外小さく感じられる。
動き回るしリュードに誤射することもできない。
サキュルラストに気が向いていない今がチャンス。
リュードはサキュルラストの声を受けて自分の位置を確認する。
今はリュードとハイトロルが対面し、サキュルラストがリュードの後ろから狙っている形になる。
つまりリュードはハイトロルとサキュルラストの間にいる。
ハイトロルをサキュルラストの方に行かせない為の位置どりをしていたけれどこのままではサキュルラストの邪魔になる。
サキュルラストの邪魔にならないように、かつサキュルラストに意識が向かないように時折ハイトロルを切り付けながらリュードは位置を変える。
リュードとハイトロルが戦い、サキュルラストが斜めからハイトロルを狙えるように位置どりをした。
「いくぞ!」
リュードはサキュルラストに合図を出した。
振り下ろされた斧をかわしてハイトロルの腕に剣を突き刺す。
「おりゃあ!」
剣を通してハイトロルの体に電撃を流す。
使えば使うほど雷属性の魔法は安定して使いやすくなっていく。
クラーケンのように弱点じゃなくても生物相手なら大体電撃は通じる。
ハイトロルの体がビクビクと元気で跳ねて、わずかに焦げ臭いニオイがする。
痺れて焼けるそばから再生が始まり死ぬまでには至らない。
しかし痺れと再生のためにハイトロルの動きが完全に止まった。
「ナイス!」
サキュルラストが矢から手を離す。
矢は真っ直ぐにハイトロルの頭に向かって飛んでいき、ブスリと頭に深く突き刺さる。
次の瞬間魔力が弾けて矢が大きく爆発する。
サキュルラストの魔力込められた矢ごと消滅する威力で爆発してハイトロルの頭を吹き飛ばす。
「うえぇ……」
剣でハイトロルがうごかないように押さえていたリュードは爆発したハイトロルの頭の破片や血を浴びてしまった。
すぐにハイトロルの死体は魔力の粒子となって消えていったのだけれど頬に感じた肉片のベチャッとした感触までは消えてくれなかった。
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