不俱戴天2

「エミナはどんな人が仲間がいい?」


「どんな人ですか……私は…………」


 口に出そうと考えてハッと気づく。

 今言おうとしている人の像は明らかにリュードとルフォンの2人のことである。


 顔が熱くなる。

 どんな人がいいかを考えれば考えるほど2人のことが思い浮かぶ。


 リュードは真面目に聞いているから先のことを考えなきゃいけない。

 なのにもう少し2人と一緒にいたいという考えばかりが頭を駆け巡る。


「ま、まだどんな人がいいとか言える立場ではないので!」


 リュードはエミナよりも少し前を歩いている。

 エミナの顔が赤くなっていることにリュードは気づいていない。


 リュードとルフォン。

 この2人よりも強くて素敵な人がいるだろうか。

 そんな人そうそういないに違いない。


 ようやく家に帰れる。

 喜ばしいことなのに何故か先のことを考えると胸がギュッと締め付けられる。


 この感情が何なのか、どうしたらいいのか分からずエミナはただ強く杖を握りしめた。


「エミナにだって相手を選ぶ権利ぐらいあるさ。

 そう自分を卑下することも……」


「リューちゃん!」


「どうした、ルフォン?」


 すこし緊張感を帯びたルフォンの声。


「誰かが戦ってる音がする」


「どこでだ?」


「この先……あんまり状況は良くなさそう」


「行ってみようか」


 こういう時にやたらめったら首を突っ込むのは良くないことだがリュードもルフォンもなにかと放っておけない性分。

 困っている人がいるなら助けようと思ってしまう。


 エミナもなんだかんだ影響されてきて文句もなく2人について行く。


「あそこ!」


 すぐにルフォンが言っていたものが見えてきた。

 道の先で1台の馬車とそれを守る人、馬車に襲いかかるように囲んでいる人が見える。


 大体襲いかかっている方が悪者である。


 決めつけはダメなので離れたところから1度様子をうかがう。

 両方悪人なんてことだってあり得ないことじゃない。


 幸いどちら側もリュードたちには気づいていない。


 もう1人既にやられている。

 状況を見るに襲いかかっている方の人のようだ。


「くっ……お前ら目的はなんだ!」


「俺たちの目的は中にいる女だ。分かってるだろ?」


「誰の命令でこんなことをする」


「そんなこと言うわけないだろ?


 大人しく女を渡せばお前の命までは取らないでおいてやるぞ?」


「ふざけるな! お嬢様は私の命も同然だ。


 死んでも貴様らに渡すものか!」


「そうか、じゃあ死ねばいい」


 状況は周りを囲んでいる方が圧倒的有利。

 囲んでいる方は倒れている男を除いても8人。

 囲まれている方は馬車の出入り口を守るのに1人、その反対側に1人の計2人。


 中に1人はいるのだろうが戦えるのは外にいる2人だけなのだろう。

 8対2とは相当手練れでも厳しい戦いである。


 会話の内容も良いところが聞き取れた。

 それぞれの狙いが分かった。


「さて、どっちの手助けする?」


 聞くまでもない質問。答えはわかっているけど一応聞いてみる。


「襲われてる方」


「馬車の方です」


 2人の声が重なる。

 言い方は違っても助ける方は同じ。


「だよな」


 改めて戦うために状況を確認する。

 馬車の前には木が倒れて行く手を阻んでいる。


 馬車の両サイドを守るように男たちが1人ずつ剣を構えていて、それを囲むようにドア側に5人、反対側に3人。

 リュードたちは馬車から見て後方。


 リュードたちから見て左に5人、右に3人となる。


 まず倒すならリーダーから。

 おそらく馬車の男と話していたのがリーダー。


 リーダーから倒したいけれど前に出るタイプで部下の4人の前にいる。

 4人を掻い潜ってリーダーを先に討つのは現実的でない。


 それなら人数の少ない方から集中して片付けるのが良い。

 3人の方から素早く倒して合流できれば人数的には同等になる。


「ルフォンとエミナで右側の3人をやるんだ。

 1人ずつ倒せればあとは守ってるやつが戦うだろ。


 俺は先に左の方に加勢するから倒したらこっち来てくれよ」


「分かった」


「分かりました」


「俺とルフォンで左右に分かれて接近するぞ。


 エミナの魔法を合図に攻撃を始めるぞ」


 リュードとルフォンが分かれて、リュードは5人側に、ルフォンは3人側に回る。

 幸か不幸か道は森の中を通っているので目立たなければ敵に気づかれることはない。


 相手もこうして森に隠れて馬車を襲撃したのだろうがそこからさらに襲撃してくる者がいるとは思わず警戒していない。


 配置についたのでエミナに合図を送る。

 ルフォンからも合図を受け取り、エミナが魔法発動のために集中を高める。


「ファイヤーランス!」


 エミナが魔法を発動する。

 炎の槍がエミナの上に発生して敵に向かって真っ直ぐに飛んでいく。


「な、なんだ!」


 視界の端に赤いものが見えた男たちがエミナの方を見るがもう遅い。

 炎の槍の1本が3人のうちの1人の脇腹に刺さる。


 当たりどころ悪く深く刺さってしまったので男は声も上げることができずに息絶えた。

 同時に背後からルフォンが飛び出してきて男の背中にナイフを突き立てる。


 正確に、無慈悲に、急所を狙ったナイフは深々と狙い通りに刺さった。

 残りの1人も混乱から脱していない。


 イケると判断したルフォンはナイフを引き抜いてそのまま残りの1人に向かう。


 状況を把握してきれていないが敵襲に違いない。

 なんとか体を反応させた男はルフォンのナイフを剣で防いだがやはり把握不足だ。


 ルフォンの2本目のナイフがすぐさま襲いかかり、反応しきれずに腕を深く切り付けられる。


「あとは頼んだよ」


 馬車の反対側を守っていたのは若い青年。

 リュードたちとそう変わらない年頃に見えた。


 利き腕を傷つけられたら満足に戦えない。

 若そうだけど怪我した相手なら大丈夫だろうとルフォンは馬車の上に飛び乗った。


「なんだテメェ!」


 エミナの魔法が敵に刺さった時、リュードも飛び出していた。

 1番手前にいた男を切り付ける。


 手加減も躊躇いもなく切り捨てる。


 迷えばそれだけ危険度が増す。

 自分が傷つくだけでなく周りの大切な人が迷ったせいで傷つけられるかもしれない。


 ウォーケックが日頃からリュードに言っていた言葉。

 命の取り合いで一瞬の迷いは最もいけないことだと良く言われた。


 だから倒すと決めたら剣を最後まで振り切る。


 剣を返し大きくもう1歩前に出てもう1人切り上げる。

 馬車向こうの状況は分からないけれどこちらは5対1の状況からリュードの参戦で3対2なった。


 数的不利は大きく圧縮された。

 向こうもルフォンとエミナが入れば3対3のイーブン。


 奇襲は成功しているし、よほどの手練れでもいない限り負けはない。


「俺はシューナリュードだ、助太刀する!」


 簡潔に馬車を守る男に用件を伝える。

 驚いた表情をしている男もすぐ状況を飲み込み、リュードにうなずき返した。


「邪魔すんな!」


 リーダーの男がリュードに切り掛かる。

 判断が早い。


 リュードがリーダーの剣を防ぐがリーダーは攻撃の手を緩めずリュードに反撃の隙を与えない。


 男はリュードの方に加勢すべきか迷った。

 まだ目の前には2人敵がいる。


 動くのが早いのは敵の方だった。

 2人も殺してくれた相手だ、早めに片付けた方がいいと1人は男を牽制してもう1人がリュードの方に向かおうとした。


「ま、待て!」


 いくらなんでも2人相手にするのは厳しかろう。

 男が声を出すが敵が止まるわけもない。


「ダメだよ」


 一体どこから降ってきたのか。

 空から舞い降りてきたルフォンがナイフを振るとリュードのところに向かおうとしていた男の首が落ちる。


 先に戦いを終わらせたルフォンが馬車の上から降ってきた。

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