不俱戴天1

 ヴェルデガーは大雑把な性格が多い竜人族に珍しく何事も細かいところまで作り込む性格である。

 メーリエッヒは実にこだわりが強く、こうと決めるととことんまで追求する。


 その2人の子リュードはというとそんな2人の性格を割と受け継いでいてしまっていた。


 浴室作りの魔法もそうであった。

 リュードもそこそこに凝り性で細かいところまで作り込みたい気質の持ち主であった。


 手先は器用で父親の影響で小さい頃から色々作ることを手伝ってきたりもした。

 今は旅する目標があるのでそうではないけれどどこかに留まることを決めたならリュードもヴェルデガーのように色々作りたいと思っている。


 浴槽ごと持ってきたことからも分かる。

 ヴェルデガーが知的好奇心から様々な物を作るのに対してリュードは少しでも楽になればいいなと思って物を作ったりしている。


 旅に出るにあたってリュードは必要な物を考えて準備をしてきた。


 浴槽を入れてきた袋は新しい開発ではないが魔法はリュードがヴェルデガーから習って作ったものである。

 必要なものだと考えたから習得して、浴槽ごと持ってきていた。


 マジックボックスの魔法は習得が難しく何回も失敗を繰り返したがその価値はあったと思っている。


 マジックボックスのかかった道具はヴェルデガーが作っていた。

 もっと欲しいと思ってもヴェルデガー他にもやることがあったり、魔力的な問題もあって量産は難しかった。


 このマジックボックスの魔法は性質的に付与魔法に近い感じでヴェルデガーが付与魔法を苦手としていることもそうした要因の1つであった。


 リュードは付与魔法が苦手ではない。

 ルフォンのプレゼントのためにやっていた時も意外と楽しかったぐらいである。


 魔力量は言うまでもない。

 マジックボックスの魔法はリュードにとって苦にならない魔法であったのだ。


 バンバン作れると言うものでもないけれど準備期間の間に旅で楽できるほどには作れるようになった。

 国宝クラスの内部容量がなくてもそれなりのサイズのマジックボックスのかかった袋を量産できる。


 こんなことをゼムトが知ったらショックでただのスケルトンになってしまうかもしれないぐらいのことである。


 だからリュードは実はマジックボックスの袋をゼムトが卒倒するぐらい持っていた。


 旅に出る上での問題や懸念はマジックボックスの袋で持っていくなんて力技で解決してきた。

 その中でも解決が難しく、旅について回る懸念が1つあった。


 食料問題である。

 リュードは問題解決の方法を考えた。


 マジックボックスは要するにただたくさん入るだけなので物の保存機能はない。

 袋の中でも外と同様に時間は経過する。


 傷みやすい生鮮食品を長時間持ち運ぶことは出来ないのである。

 そこでリュードが思いついたのはクーラーボックス。さらに発想を飛ばして冷蔵庫である。


 村には冷蔵庫はなかった。

 風呂があるぐらいなら思いついてもいいのにと思うがとにかくそう言ったものはなかった。


 子供の頃からそうしたものがない生活に慣れてしまうとリュード自身もなくても平気だし、冷蔵庫のことを思い出さなくなっていた。

 ここでさらにヴェルデガーの出番。


 まずはお風呂の時のように魔石に冷気を放つ魔法を刻んでもらった。

 それそのものもトライアンドエラーを繰り返してようやく上手くいったのだがそこからも大変だった。


 適当に箱に入れても冷気が漏れてしまって中の物がうまく冷えない。

 完全に密閉してしまうと今度は魔石周りの物がガチガチに凍り、あっという間に中が氷だらけになってしまった。


 冷気の強さや箱の作りを変えながら試行錯誤を重ねていった。

 結果隙間の空いた仕切りを作り、魔石を近づけすぎないようにする構造にした。


 そしてさらに問題が発生した。

 マジックボックス内に魔法が発生した魔石を入れると魔法同士が反発してしまうことがわかったのである。


 どうなるのかというと、マジックボックスの魔法が解けて中のものが出てきて袋が破けてしまうのである。

 そこからさらに実験が始まった。


 いく枚もの袋が犠牲になった。

 紆余曲折を経て完成した持ち運び式冷蔵庫が出来上がった。


 密閉性を高めて魔力を漏れないようにし、魔石は冷気だけでなく微弱な風も出るようにした。

 ヴェルデガーの努力によって冷やし具合を調節し、強冷と弱冷の冷凍ボックスが出来上がった。


 細かい試行錯誤をやったのはリュードだが魔石の用意など大きな作業はヴェルデガーがやった。

 完成に寄与した割合はヴェルデガーの方が大きいと言っても過言ではなかった。


 リュードのアイデアにそそのかされた、もとい興味を持ったから手伝ったのだし後悔はなかった。

 今現在村ではお風呂作りに続いてリュード発案の設置できる本物の冷蔵庫作りにヴェルデガーが追われているとかいないとか。


 最終的な形は木製の箱に外側に金属の板を貼り付けて密閉するのが良いということになった。

 魔石に毎日魔力を込めなきゃいけなかったり、大きなサイズではダメなので容量が限られるなどの問題はある。


 それでも保存が効くだけ便利なので不満はない。

 ルフォンが美味しい料理を作ってくれるので努力の甲斐はあった。


 今後もこうして食材が増えればいい。

 生鮮食品に日持ちの限界はあるがこの世界にも前の世界のような食材があることも分かったので色々食べてみたい気持ちにもなった。


 イマリカラツトはその国の中でも場所によって豚肉料理が変わっていた。

 それがまた美味しく、面白くて、少しフラフラと立ち寄りながら旅を続け、名残惜しくも隣の国に入った。


 イマリカラツトの1つ西の国、カシタコウである。


 領土は広く、リュードたちがいた村のある森の半分もカシタコウが主権を主張できる。

 実質的には支配は及んでいないが一応領土ということになっている。


 ちなみに村は東のルーロニア領土になる。


「エミナは国に帰ったらどうするんだ?」


 歩きながらの会話。

 カシタコウは広く抜けるのに時間がかかるといってもカシタコウの隣はもうトキュネスである。


 トキュネスはエミナの故郷で、そこで別れることになっている。

 それなりに長く旅をしてきたがエミナとの旅にも終わりが見えてきてしまった。


 聞かずとも冒険者の身分を得たから冒険者をやる

 ここは分かっている。


 リュードが気になるのはその周りのこと。

 今はリュードたちと行動を共にしているエミナだが国に戻ってお別れとなれば1人になる。


 エミナは魔法使いとしての能力は高く将来性もある。

 このまま順当にいけばゴールドクラスにも上がれる才能があるとリュードは思う。


 人としてはどうか。

 悪い子ではない。

 性格もいいし協調性もある。


 けれどちょっと抜けたところがあって人付き合いが得意なタイプではない。

 これが心配なのだ。


 冒険者は1人でやることが難しい仕事だ。

 必ずしも仲間が必要とされるものでもないが複数人でのパーティー前提の依頼だってある。


 旅する上で2人でも中々厳しいと思うのに1人では困難も多い。


 特にエミナは魔法使いである。

 前衛で戦ってくれる人がいてくれて初めて力を存分に発揮できる。


 リュードのように両方できるなら問題もないけどエミナは魔法一本だ。


 今後の展望を一体どう考えているのかリュードは気になった。


「えっと、まだあんまり考えてなくて。

 私がいたところは田舎だったので人が多い町とかで活動することになるんでしょうけど冒険者の友達もいないので探さなきゃいけないですね……」


 正直なところ、やはりかという感想。

 着いたら、はいお別れとはちょっといかなそうだ。


 急ぐ旅じゃないのでエミナの仲間探しぐらい手伝ってもいいかもしれない。

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