神様のお願い2
そう言えばダンジョンでものたまっていた。
ルフォンの可愛さやなんかとリュードに嫉妬していたと。
リュードに嫉妬していたのは顔の良さが原因のように言っていたけれど本当はサンセールはルフォンに一目惚れしていて嫉妬していたのである。
もちろんリュードとルフォンがただならぬ関係にあることは見ていて分かっている。
それでも諦めきれず告白しようとルフォンを待っていた。
泊まっている場所も知らなかったので冒険者になったのなら冒険者ギルドに来るだろうと連日花束を持って冒険者ギルドの隅で入ってくる人を見ていた。
恐ろしい執念である。
何はともあれ告白は告白。
妙な緊張感のある空気がギルドに漂う。
「ごめんなさい」
ルフォンが頭を下げて断る。
「やはり、その、リュードさんと?」
「うん、私はリューちゃんのものだから」
ニッコリと微笑んでとんでもないことを口にするルフォン。
なぜなのかエミナが顔を赤くしている。
「そ、そうですか……くっ、分かりました。
敗者は去るのみです」
誤解しないでほしいけどルフォンをもの扱いしたことは一度もないからな。
リュードの心の中での抗議が届いたのか知らないがサンセールはチラッとリュードを見て、むなしく花束を抱えたまま項垂れてギルドを後にした。
サンセールの人生における初恋は淡くもあっけない終わりを迎えたのであった。
「リューちゃん、ちゃんと断ってきたよ」
褒めて!と頭を差し出すルフォン。
サンセールがいなくなった今視線はリュードたちに向けられているが断ってくれたことは嬉しかったので頭を撫でてやる。
「ルフォン」
「何か、ダメだった?」
いつもより低いトーンで名前を呼ばれたことにルフォンが不安げにリュードを見上げる。
「ルフォンはものじゃないから、たとえ自分からでもそういった言い方はやめてほしいんだ」
真面目な目をして言うリュード。
「うん……ありがとう」
怒ってるわけじゃないけど怒られてる。
ルフォンは自分を対等に考えてくれるリュードの優しさが嬉しかった。
「あの〜、そろそろいいですか?」
ずっと蚊帳の外で待ちぼうけだったエミナ。
放っておかれながらリュード一行として視線を浴びていることに耐えられなくなった。
「はは、すまない」
「笑い事じゃないですよ……よく平然としていられますね!」
人前でルフォンを撫でることはよくあることだからもう人の視線とか気になりはしない。
「もう、人前なんて私だったら恥ずかしくて……」
私だったら。どうしてなのか自分が撫でられているところをフワッと想像してしまった。
カァッと顔が熱くなる。
「大丈夫か?」
「何でもないです!」
ブンブンと頭を振って妄想を吹き飛ばすエミナを心配してリュードが覗き込む。
ちょっと前から自分がおかしい。
実戦訓練の前にチームワークの練習だといって一緒にいた時には何も思わなかったのに実戦訓練を終えた頃ぐらいから変にリュードを意識してしまっている。
その上だ、今も頭を撫でる姿は理由もわからないけど竜人化したリュードの姿であった。
「はあっ……どうしちゃったんでしょう、私」
盛大にため息をつくエミナにはエミナの事情があるのだろうとリュードは深く追求することはしないで冒険者ギルドで地図を買った。
ギルドに売っていたのはこの国の地図と隣の国の地図までだった。
あまり遠いと需要もないのでしょうがない。
料金を払って地図を閲覧するという方法もあるのだけれどパッと地図を見て購入してよかったと思う。
安くない買い物だが閲覧だけでルートを決めるのは難しそうだとパッと見た地図で思った。
こうして必要なものや地図を買うことで丸一日を消費してしまった。
次の日、リュードはベッドの上に地図を広げてうなっていた。
思っていたよりも道が多く、情報が少ない。
広い道は広く書いてはあるのだが狭い道は同じように線が引いてあり、どのような道になっているのか分からない。
一応村や町も書いてあるのだが地図上では小さい村なのか大きい町なのか、これもまた不明である。
ルフォンとエミナの希望は出来るだけ野宿の少ないルート。
エミナは早く行けるルートも希望なのだがギルドに買い取ってもらった魔石がそこそこいい値段になっていた。
何もしていないからとエミナは当然魔石の買取金はいらないと言ったのだが3等分して無理矢理渡した。
口止め料なのだからエミナにも貰う権利はある。
そういうわけでお金に余裕が出来たので優先度は野宿少なめになった。
リュードは地図と睨めっこして考えた。
隣国まで行けばどうせまたさらに隣の国の地図を買わなきゃ行けないので現在の目標は隣の国の大きな都市になる。
出来るだけ町を通りつつ短いルートを検討して何時間も悩んだ。
地図上の長さでどれぐらいなら1日で行けるのかそのようなことも知らない。
この際観光名所でも途中であったなら楽だったのにと現実逃避しながら考えもした。
「よし!」
悩みに悩んだ末、リュードは2本のルートに絞った。
森を囲う山脈に近いルートと国の真ん中近辺を通っていくルートである。
ルフォンとエミナに聞いてみたところ、1ヶ所泊まれそうな所が多いという理由で国の真ん中近辺を通っていくルートに決定した。
こちらもまた結局1日がかりでの作業となった。
どうにか2日かけて旅の準備は整った。
宿に泊まるのも最後の日となるのだがすることもないのでフリーな日となった。
エミナはお金も入ったのでお土産を買いに行きたいということになり、ルフォンを誘った。
少しルフォンは迷ったようだがリュードが行ってこいと背中を押してやると女の子2人でお買い物に出かけることになった。
2人がいないということはリュードは1人になるということである。
昨日頭を使ったので休みたいところではあるけれどやることがあるのを思い出した。
リュードは1人神殿を訪れた。
非常に大きな神殿で真っ白な壁が神聖さを表しているようである。
ここで崇められている神様は何も一神だけではない。
神を信奉する宗教にもいろいろあって互いに反目しているものも少なくはない。
逆にまとめて信仰の対象だったり、仲が悪くなければ1つの神殿に集まっていることもある。
特に創造神など特定の分野での加護を持たないけれど信仰されている神様は他の神様と一緒であることも多い。
みんな一緒がいいじゃない、そんなケーフィスの声が聞こえてきそうである。
リュードが訪れた神殿も複数神が集まった大神殿となる。
「祈りの間は空いていますか?」
利用料を払い、神様に祈りを捧げたり懺悔をしたりをすることができるのが祈りの間。
空いていれば誰でも利用することができる。
祈りの間は利用されている間は誰も入ってはいけないので密談に使われることもあるとかないとか。
「はい、空いておりますよ」
「じゃあ利用お願いします」
神官にお金を払って個室に案内される。
小さめのやや縦長の部屋でこちらも真っ白な壁をしている。
横はリュードが両手を広げると届くぐらいである。
入って正面には小さな祭壇がある。
特定宗教の神殿なら神様の宗教的象徴が置いてあったりするものだが、複数神が奉られているので簡易的な祭壇しかない。
「さて、どうしたらいいのかな?」
村に宗教もないし前世でも特別に宗教に傾倒したこともない。
お祈りなんてこともしたことがない。
ではなぜリュードが神殿に来たのか。
それは子供の頃にあった夢なのか、お告げなのかのためである。
『寝てるところごめんね〜。
言い忘れてたけどもしどっか神殿があるところに行ったらお祈りを捧げてほしいんだ。
そしたら僕たちと話すことができるからさ。
ちょっとお願いしたいことがあってさ。
信者でも何でもない人に神託とか天啓を下ろすのは大変で……後は…………しんで……まっ………………』
すっかり忘れていたのだが神様のお告げをふと思い出した。
すごく面倒だけど思い出してしまった以上は無視するわけにいかない。
なのでわざわざ神殿に訪れて、お金まで払って祈りの間に来たのであった。
それっぽければいい。
両膝を床について座り、手を組んで目を閉じた。
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