神様のお願い1
自由だ!と叫びたい気持ちだった。
ヴェルデガーの出した条件を見事にクリアして冒険者になった。
これで正真正銘自由に旅ができる。
多少の事件はあったものの何があったかはもう過去のものだしどうでも良い。
3人で上機嫌で宿に戻り、おばちゃんに卒業できたことを報告すると自分のことのように喜んでくれた。
夜にはお祝いだと言って豪華な料理を振る舞ってくれた。
「お2人はこれからどうするんですか?」
食事をしながら会話をしていると自然と今後の話へと話題が移った。
まだ次の目的地は決まっていない。
行ってみたい国、訪れてみたい場所などは色々ある。
「私はアレを返してあげたいかな……」
「あー、アレか。確かに早く行った方がいいな」
ルフォンの言うアレをすぐにリュードも理解する。
アレとはリュードたちが旅に出る前に出会った幽霊船のスケルトンたちに託された遺品たちのことである。
彼らが亡くなってから何年経っているのか分からないけれど白骨化して魔物になるのは決して短い時間ではない。
それでも若い人だったら親なんかが生きている可能性もあるので早く向かった方が良いだろう。
「じゃあヘランドか」
西の国になるので来た道を戻ることになるけどそれほど進んできたのでもないので構わない。
リュードは目をつぶって頭の中に地図を思い起こす。
森周辺の大体の国関係は頭に入っている。
ルートとしては3つ。
村のある森を突っ切って山脈を越えていくルート、南下して船に海路で向かうルート、それと森を囲むように存在する山脈に沿っていくようにして陸路を進んでいくルートがある。
現実的に考えて山脈を越えていくのはとてもじゃないが厳しすぎる。
ガチガチの登山になってしまうので距離的に短いように見えても1番過酷で時間がかかるルートになるかもしれない。
南下して海を越えていくルートは比較的安全だ。
お金の払い具合如何によっては快適な海の旅にも出来る。
ただ旅を始めたばかりでいきなり他に選択肢があるのに船旅とは不粋だし、クラーケンのせいでやられた人たちの遺品を持っていくのに海を渡るのはなんだか縁起が良くない。
最も旅っぽく現実的なルートは陸路でのんびりと旅することだろう。
今いる国は森の東にあるルーロニアでヘランドは森の西側。
グルリと回っていくことになるけれどそれもまた旅なので良い。
やはり徒歩でのんびりと旅をするのが1番だ。
「ヘランドだと……トキュネスを通っていくことになるな」
トキュネスとはエミナが来た国になる。
西のヘランドと北側にある国の間、北東ら辺にある小国がトキュネスである。
エミナの顔がパッと明るくなる。何を考えていたのか一目瞭然。
「そ、その、せっかく一度組んだパーティーですし、途中まで向かうところが一緒ということでしたら、そのままご一緒しませんか、か?」
勇気を振り絞ったエミナのお誘い。
リュードとしてはトキュネスの名前を出した時点でそうするつもり満々だった。
エミナが言わなきゃリュードが誘っていたくらいで二つ返事でオーケーなのだけどここは1人だけの判断で勝手に決めてはいけない。
「ルフォンはどうだ?」
ちゃんとルフォンにも意見を聞く。
「私は一緒に行けるなら嬉しいな」
分かりきっていた返事。
「エミナは逆に大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「俺の姿を見てあんなに泣いてたじゃないか」
ボッとエミナの顔が赤くなる。
「あ、あれはリュードさんがいきなり変なことを言ったからです!」
「いや、結構怖かったんじゃないかと思ってな」
「あの時はパニックだったから訳がわからなくなってああなってしまっただけで、あの姿、その……か、カッコよかった、ですよ……」
「エ、エミナちゃん?」
「い、いや、そうじゃなくて! ルフォンさんの危機に颯爽と駆けつけた姿とかちょっと王子様みたいで、ってこれじゃ何にもフォローになってないですよね。
ええと別に好きとかそんなんじゃなくて……ってこんな風に言うと逆に好きっぽく聞こえちゃったりしますよね!
だからといってリュードさんのことが嫌いなわけじゃなくてそれも友達としてと言いますか……」
「落ち着け、ほれ」
水を差し出してやるとエミナは一気に飲み干す。
それでも顔の火照りは取れなくて、これ以上なんて言ったらわからなくて、顔が上げられなくなってしまった。
「やっぱりダメって言うのはなし……かな?」
ーーーーー
宿は1週間ごとの前払い。途中で出て行っても料金は返ってこない。
卒業はしたのは宿の宿泊を更新してから4日後のこと。
つまりは後3日泊まっていられる。
話し合いの結果この3日で準備を整えて出発しようということになった。
エミナの期限は残り1日だったのでエミナの部屋は引き払い、リュードたちの部屋に一緒に泊まることになった。
ダンジョンで起きた事故のことは噂にもなっていなくてギルドの情報統制に驚いた。
3日ですることといえばまずは旅の準備、それに情報収集である。
情報収集は道の情報のことである。
陸路で向かうと決めはしたのだが目的地まで一本道ではない。
いろいろなルートの取り方があるし、何を優先するかによってもルートが変わる。
行き方にも様々ある。
単に商人に帯同させてもらうこともあれば商人の護衛として仕事がてら行くことや馬を買ったり借りたり、お金を払って馬車に乗り継いで行くことだって出来る。
もちろん徒歩もある。
自分で全部考えなければいけない。
その大変さを改めて思い知る。
持ち物なんかは冒険者学校でも習ったのでそれに従って購入すれば良く、ツミノブでは卒業生用に冒険者ギルドの息がかかった商会が特別に安く授業で教えたものを売っている。
なので3日ある内の初日はそうした物を買いに行った。
とりあえず旅をする上での荷物に心配はほとんどなくなった。
商会の次に冒険者ギルドに向かう。
依頼を受けるのではなく目的は情報収集。
すなわち地図を買いに来たのである。
冒険者ギルドは冒険者向けに地図を販売していてそれなりの品質で魔物なんかの情報も書き込んである。
他にも販売しているところはあって商業ギルドなら特産物なんかを書いてあったり国が発行している精巧なものは書店で高額で売っていたりといくつか種類がある。
どうルートを取るのか決めるのに地図を見る必要があるので冒険者ギルドの地図を買おうということになったのである。
「待っていたぞ!」
冒険者ギルドには依頼をしたり受けたりするための場でありながら同時に交流やパーティーの募集といったこともできるように酒場や食事ができる場所が併設されているところもある。
特に大きな冒険者ギルドではそうでツミノブのギルドは国の中でも規模が大きいので酒も飲める飲食店がギルドの中にある。
冒険者ギルドに入るとそんな飲食店の隅に座っていたサンセール一行に声をかけられた。
「んっ? 何だ、お前らか……」
「何だとは何だね?
まあいい、僕が用があるのは君ではなく、貴方だ!」
「……私?」
やたらと声のデカいサンセールの視線の先にはルフォンがいた。
「そうです。
……ルフォンさん! も、もしよかったら僕と一緒に冒険者をしませんか!」
サンセールが膝をついて、後ろ手に隠していたが大きさが故に隠し切れていなかった大きな花束をルフォンに差し出した。
昼間なのでギルドにいる人は少ないが、むしろ少ないから明らかに目立ちまくりのサンセールの行動にギルドの中の視線が集まる。
いや人が多くてもこれだけのことをやれば注目の的になる。
「僕はあなたに一目惚れしてしまいました!」
待ち伏せまでしていたサンセールの目的は何とルフォンへの告白だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます