神様のお願い3

「おお、やっと来てくれたね」


 久々に聞いた軽い話し方に目を開けると祈りの間でなかった。

 周りは祈った時の体勢のまま、日本家屋風の部屋なっている。


 そして目の前には座布団を枕に横になっているあの時の神様、ケーフィスがいた。


「君の感覚だと久しぶりというのかな?


 確かに待ち遠しくて僕も長いこと待ったような感じがするね」


 まあそこに座ってと言ってケーフィスが指を鳴らすと上から座布団とちゃぶ台が降ってきた。

 上を見上げてみてもそこにあるのは木の天井。どこかでみたような光景である。


 とりあえずケーフィスの正面の座布団に座る。


「君のために用意したんだ、ささっ、どうぞ」


 ちゃぶ台の上には湯呑みに入ったお茶と木の器に入ったお茶請け。

 ケーフィスがちゃぶ台の上に身を乗り出して木の器の中の物をリュードの前に置いた。


「これって……」


 茶色くて丸い小さいそれはまんじゅうであった。


「そう! 君が来てからあちらの世界と繋がっている時間が思っていたよりも長くてね、いろいろ教えてもらったのさ。


 これは君が好きだって聞いたから僕の信者に神託を出して作らせたのさ!」


 この神様とんでもないことをする。


「結構試行錯誤したみたいだけど上手く出来たんじゃないかな?」


 せっかくケーフィス(の信者)が作ってくれたので食べてみる。


「ん! 美味い!」


 正直あまり期待していなかった。


 手に持った感じは相当クオリティは高い。

 思い切って丸々口に入れて一口で食べる。


 中にはちゃんとあんこが入っている。

 甘さは控えめで何個でも食べられそうな味わい。


 前の世界でのお気に入りのお店のものとは少し味は違っているがお店クオリティの美味しさがある。

 リュードの言葉を受けて鼻高々のケーフィスをよそにお茶をすするとこちらも普通に緑茶で美味しい。


「君たちの世界と同じとはいかないけど似たようなものとか同じようなものはあるからね。

 頑張れば再現できないこともないのさ」


 あずきこそ分からないけど他の材料は確かに存在している。

 紅茶も存在しているのだから緑茶も作れる。


 日本風の文化がなかったとしても食べ物やなんかピンポイントで見ると近いものが存在しているのかもしれない。


「今日はわざわざありがとね。

 これまでずっと君のこと見てきたよ。


 その……謝らなくちゃいけないと思ってね」


 ニコニコと笑うのをやめて、真面目な顔になるケーフィス。


「君の希望はあくまでも普通。

 ちょっと顔が良かったり望めば努力できる環境を希望したけれどね。


 それでさ、君が望んでいたのは人…………真人族だったんでしょ?


 こっちの手違い、というか、僕が単に人とだけ書いたからペルフェが人とつく種族なら何でもいいって解釈しちゃって……」


 気まずそうにするケーフィスは目が泳ぎまくって視線が定まっていない。

 怒られている子供みたいだ。


 てっきりこの大きな魔力を受け入れるのに真人族ではダメだったのだろうとか昔は理由を考えていたりした。

 最初は人じゃないじゃんなんて思ったものだけれど真人族との戦争中ならともかくとして平和な今の時代では竜人族も真人族と大きく変わることはない。


 竜人化した姿もあるのだけれど今では竜人族の切り札ぐらいの感覚であってリュードもそう思っている。


 環境もちょっと同年代の友達が少なかった以外に満足しているし、殴り合いで解決するぐらいの性格も今となっては悪くない。


 しかし戦争の影響もあって竜人族は真人族にとって畏怖の対象でもあるのであまり正体を明かすわけにいかないというのはちょっとだけ大変だし、エミナの反応を見ると竜人化した姿も初見ではかなり驚かれてしまうものでもある。


 今も角があって変に注目を浴びているのにこれ以上目立つのは避けたいので竜人族をバラすことはあんまりしたくはない。


 まあでもリュードは今や竜人族だし、竜人族が好き。


 竜人化した姿もひっそりとカッコいいななんて思っていたりもした。


「つきましてはご迷惑をおかけしましたことに対して寛大なお心でお許しいただければと思いまして……

 こちらの方に呼ばせていただきました」


「まあいいよ。怒ってないし、竜人族は悪くない。


 どうせ他の種族になるならもっと特殊能力でも持った種族が良かったなんて考えたこともありはするけど」


 冗談めかして返す。

 怒っていないことが分かったのかケーフィスの顔が明るくなる。


「2つの姿になれるのも特殊能力だし古代に遡るとある意味では特別な魔法だったんだけどね」


 確かに変身能力と捉えると竜人化も特殊能力だと納得する。

 これもある種の魔法だったのかと驚く。


「他にも特殊な能力を持つ種族もいるにはいるけど一長一短だし強すぎる能力を持つ種族なんて存在しないよ。

 じゃないと世界のバランスが崩れちゃうからね」


「そりゃそうか」


「その点だと竜人族は他の種族と比べても強い種族だよ」


 身体能力も高く魔法を扱うのも得意、しかも竜人化という特殊能力もある。

 身長も高く美形が多く、寿命も長い。


 考えれば考えるほど恵まれた種族である。


 望みもしたけど周りが強くなることが大好き環境だったので自然と強くもなれた。


「謝ってもくれたし可愛い幼馴染もいるし良い人生だよ。


 後1つ聞きたいけど、戻ったら100年経ってた、なんてことないよね?」


「いやいや、怒ってなくて良かった!


 それは大丈夫だから心配しないで。

 100年経っちゃったのはまあこっちでいろいろあってね。

 あはは〜」


 面倒になったのか笑って誤魔化すケーフィス。


「このことについてミスが発覚して色んなところからすっごい怒られてね。

 ちゃんと謝ってこいってケブスにも言われたんだ」


 ケーフィスは遠い目をしてお茶を飲む。


「じゃ、じゃあ本題……本題っていうとまた怒られるけど、君にお願いしたいことがあってね」


 謝罪するのは本題ではなかったと本音がポロリ。

 話が堂々巡りするのも面倒なので聞かなかったことにしてやる。


「お願いってなんだ?」


「お願いっていうのは、僕の神物を探し出して欲しいんだ」


「神物?」


「そう、神物だよ。神の力がこもった道具のことをそう言うんだ。

 神様は神物を介して中世界、君たちの世界に影響だったり自分の信者や信徒に魔力を与えたり、奇跡を起こしたりなんてことをするんだ。


 僕の神物は500年前の戦争の時に奪われてしまって長いこと紛失状態だったんだ。

 そのせいでいろいろ問題が発生しているんだ。


 特に僕の信徒である聖者も影響を受けていて、ちょっと看過できなくてね」


「……話は分かったけど500年もの間無くなってたものをどうやって見つけろって言うんだ?」


 神物がどんなものなのか、どこにあるのか全く分からない。

 世界は広いのに探して回れと言うのか。


「もち、そこは心配なし! ケブスに調べてもらったから。

 北の方にあるグルーウィンという国にあるダンジョンの中にあるみたい。


 というのもそのダンジョンが出来たのは僕の神物が影響しているみたいなんだ」


 物探しと言っていたのに雲行きが怪しくなってきた。

 ダンジョンなんて場所どう考えても戦闘を避けられるところではないじゃないか。


「本来なら何の関係もない君にこんなお願いをしちゃいけないんだけど聖者の1人が死んじゃいそうで、ちょっと事情もあってね」


「ふぅ、ここで人の命を持ち出すのは卑怯だぞ」


「ごめんね、でもウソじゃないし、余裕がないんだ。

 後10年ぐらいしか持たなそうだから旅の途中でどうにか寄ってもらえないかなと思ってね」


 10年もあるなら十分な期限があるじゃないか。

 神様感覚では10年は差し迫った期限で時間の感覚の違いを感じる。

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