和解3
「リューちゃん……」
気づけばルフォンがリュードの隣にいて手を握っていた。
「私はどこも行かないよ? だから心配しないで大丈夫だよ」
「ルフォン……」
「聞かせてほしいな、リューちゃんの気持ち」
「俺は、ルフォンに付いてきてもらえれば嬉しい」
「うん」
「ルフォンのことが好きだ」
「うん……今言うのはズルイよ」
「ふふっ」
「あっ、私のことからかったでしょ!」
「いいや、本当の気持ちさ」
「……もう知らない」
顔を真っ赤にして背けはしても手は握ったまま。
ルフォンに握られた手から温かさが入り込んでくるようで、ルフォンに気持ちを伝えるたびに胸の奥の不安が消えていくようで、ルフォンの笑顔を見るたびに心が軽くなるようで。
「ありがとう」
「リューちゃんも私を守るとか考えすぎないで私に頼ってほしいな」
「そうだな……」
“自分を許せる時がきっと来る”
そんな言葉をふと思い出した。
前世からの意識があって1人でも生きていけるようにと努力をしてきてルフォンや両親にすらどこか壁を作っていたのかもしれない。
「ルフォン…………」
「リューちゃ……へうぅ……!」
「ありがとう」
手を握ったままだからリュードが立てばルフォンも一緒に立ち上がることになる。
握られた手を外してルフォンの体に手を回して抱きしめる。
ルフォンはリュードのいきなりの行動に頭がついていかなくて直立姿勢のまま硬直している。
ほどなくして体から力が抜け落ちるが倒れるわけにもいかないので必死に足に力を込めて耐える。
時間にしたら数秒もないほどギュッと抱きしめて、離れる。
そうすると力が抜けてリュードを支えにしていたルフォンは支えを失ってストンと椅子に座る。
リュードの手はちょうど肩に添えられたようになる。
「改めて言うよ、俺と一緒に旅に行ってくれるか?」
「ははは、はい!」
うん、ここ最近ないほど心が軽い。
「そのまま座っててくれるか」
「はい」
背筋をピンと立ったままルフォンはリュードの顔を見れずに視線を泳がせている。
リュードはルフォンの後ろに回るとポケットから部屋に戻った時に取ってきた箱を取り出して中のものを取り出す。
「ひょわぁ……」
今度は後ろから抱きしめられると思ったのか奇妙な声を上げるルフォン。
けれどそうではなくリュードの手はすぐに首裏に戻ってくる。
「はい、終わり」
「これって……」
ルフォンが視線を下げると青い石が目に入る。
そっと手に取ってみるとそれは首の方ににチェーンがつながっている。ネックレスだ。
リュードの持ってきた箱の中身はネックレス。
本来ルフォンの誕生日にあげるつもりだったものだ。
会話の流れで一時期疎遠になったのであげられないまま部屋に置いたままだったのだが旅に出るなら必要になるかもしれないと思って持ってきていた。
魔人化しても切れないように長めで丈夫なチェーンの先に小指の爪ほどの大きさの青い石が付いている。
魔力に親和性が高くてなおかつ美しいブルームーンと呼ばれる宝石にも見える石。
去年の力比べ優勝賞品としてこっそり希望してしたブルームーンを加工してもらったものでリュードがいくつか付与魔法をかけてある、売ろうと思えば結構な値段になること間違いなしの一品。
「ルフォンの誕生日に渡すつもりだったんだけど……機会を逃しちゃってね」
「嬉しい……ちゃんと用意しててくれたんだ」
「しかもただのネックレスじゃないんだ。
俺が付与魔法でいくつか効果を付けてある。
解毒、防御、追跡の3つ」
宝石ではないが青く透けて見えるようなブルームーンをルフォンは指でつまんで光に晒して覗き込む。
説明を聞いているのか怪しいものだけど大きく期待されても困るのでそんなのがあるんだぐらいがちょうどいいだろうな。
解毒は体内に入った毒を浄化してくれる。
毒の完全無効化も上達すればできるはずだけどリュードの技量はそこまで達してしていないので毒の浄化が精々で浄化にも数分かかってしまう。
竜人族なら毒はほとんど効かないけど人狼族には効いてしまうために付けた。
高い毒抵抗力を持つ人狼族が持てば毒の浄化も早いはずだ。
防御は文字通りの防御効果がある。
最初に練習していたもので持ち主の魔力を得て全身に弱いながら防御の魔法を展開してくれる。
これも上達すれば守りも強くなるけど付与魔法とやら、意外と難しいのだ。
その上リュードの防御付与では打撃系に少し効果があるだけで斬撃にはほぼ効果がなかった。
ほんとに気持ち軽減してくれる程度のものなのだ。
今の時代では先生もおらず、付与魔法できるだけすごいようなので短い期間でやったにしてはできた方だと思うことにした。
そして追跡。
元々の目的はちょっと抜けたところのあるルフォンがネックレスを失くしてもいいようにと思ってのことだけど旅に出るなら案外使うこともあるかもしれない。
すごく複雑で面倒な付与で練習も相当してやっと付与することができた追跡は魔力の登録と起動語を設定しておくと起動語で物の位置を教えてくれるという付与魔法である。
具体的には起動語を言うとネックレスに込められた魔法が反応して何となくそっちに体が引っ張られる感覚があるので探せる。
弱点は手近にないと反応しないことと引っ張られる感覚も大体すぎるということ。
何かダウジングにでも使うような魔力を通しやすい石でもぶら下げたヒモに魔力を通して起動語を言えばヒモが引っ張られるのでそっちを使った方が分かりやすい。
反応する距離は魔力に応じるらしくて家中なら少しでも反応したけど村の逆に置いて試した時にはそこそこ魔力が必要だった。
ルフォンの魔力コントロールなら家中ぐらいが限界だろう。
リュードなら相当離れても大体の方向は察知出来る。
あんまり強いとは言えない、逆に強くないからこそ3つの効果を1つのネックレスに付与することができた。
起動語は『蒼い月』
そのまんまだが覚えやすいのが大事。
リュードの魔力は登録させてあるしルフォンとあと1人ぐらいが限界だけど仲間でも出来たら登録することがあるかもしれない。
「リューちゃん」
「んっ?」
「大好き!」
眩しいほどの笑顔。
これからの旅が辛いものになるとしてもルフォンだけは守り抜く。
「ああ、俺も好きだよ」
素直にそう言えて、やっとリュードはシューナリュードになれた気がした。
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