託された思い1

 地図上では村がある位置は1面森になっていて東西南北のうち南に遥か下っていくと海にぶち当たりそれ以外の方角それぞれ別の国と接する無国籍地帯である。


 接しているとは言っても村は東寄りに存在していて西の国とは大きな山脈を隔てているし、北の国とは森の真ん中を通る大河に合流するそこそこ大きな支流をいくつも渡らなきゃいけない。


 つまり西と北は行くには現実的でなく、残るのはといえば東の国となる。


 実際村で行なっている行商は東の国に出向いて行なっている。

 ごくごく稀にあちらから来ることもあるけれどほとんどは村から赴いて物の売り買いをしている。


 なぜこちらが行くのかについては森が危険で護衛などの手間を考えると商人側が来ることが厳しいのだからであり、その分足元を見られることもある。

 こちらからいけば立場が逆になるとはいかなくても足元を見られることは少ないし、対等に交渉出来るからこちらとしてもありがたいのだ。


 まあそんな行商事情はどうでもよく、村がある森は基本人が立ち入らない未開の地に近い土地であるのだが、リュードとルフォンはそんな森を西に渡って国と森とを隔てる山脈に来ていた。


 そうはいってもこの山脈を越えても西の国には着かない。西側は3つ山脈が走っていて、今来ているのは一番手前の低い山脈である。

 一番低い山脈でも越えようと思ったらかなり大変そうな険しさと高さがある。


 そして正確にはリュードとルフォン他にも来ている人は数人いて鍛冶屋の息子で竜人族のラッツや村長打倒候補の1人の人狼族のケルクなど6人ほどで移動している。


 事の起こりはといえば数日前、村を出ることに許可はいらないと言われてルフォンとも和解した後、何をお願いするか2人で考えていたところ武器が必要ではないかという結論に達した。


 もちろんリュードもルフォンも武器は持っている。


 力比べで使った刃潰しされた武器とは別に鍛治をやっているラッツの父親が作った武器を村人なら誰しもが所持している。

 狩りが解禁される時に大体の人は作ってもらえるのだ。


 ただそれらの武器は本気の一振りかと聞かれればそうではない。


 量産品なんて言えば殺されてしまうけれど実際村人に行き渡るようにそこそこの品質で作っているのが現状である。


 やはり本気で打った一本は品質が違う。


 まあラッツの父親は頑固な昔気質タイプなので気に入らなきゃ本気の剣を打ってくれない。


 そこで村長へのお願いの形をとって本気の武器を造ってもらおうと考えたわけで意外なことにラッツの父親は二つ返事で引き受けてくれたのだ。


 元より力比べで優勝していたリュードやルフォンには注目してしたらしく次に武器を作るならこいつらだと予感があったと笑って言っていた。


 ただし条件なのかお願いなのか、が1つあった。


 武器を作るための材料が足りないというのである。

 なので材料を取りに行かなければならない。


 リュードとルフォンに取りに行く手伝いをしてほしいというのが武器を作る条件だった。


 自分の武器のためだし快く引き受けたのだけど足りない材料というのが黒重鉄という金属で、今いる西側にある山脈から取れるものである。


 竜人族、というかこの村の武器製作は少し特殊で真人族があまり使わない黒重鉄を使う。


 普通の鉄と似たような性質を持つのだけど見た目も名前の通り真っ黒な金属。


 鉄よりも硬いらしく力で振り回す扱いが多い竜人族にはピッタリな金属なのだけど真人族も使わない理由として鉄よりもはるかに重い金属で同じサイズで剣を作っても重さは大きく異なってくる。


 前の人生で模造刀を持ったことがあるけれどそれですら手にずっしりと重さが感じられた。

 剣ならもっと重く、黒重鉄ならさらに重くなる。


 真人族では取り回しに苦労する人の方が多いだろう。


 量産品にも普通の鉄にわずかに黒重鉄を混ぜたものが使われているのだけど力の強い竜人族なら黒重鉄多めの重たい剣でも問題はあまり生じない。


 ラッツの親父の本気の剣とは黒重鉄多めの剣を作ろうということである。


 現在は黒重鉄の備蓄はさほど多くはなく黒重鉄を掘り出してくることが必要になったのである。


 当然素人2人だけでとはいかず鉱床の有る場所を知っているものや戦力兼掘り出し係としてリュードとルフォンの他に4人が一緒について来てくれていた。


 道中は魔物も少なく夜の襲撃もなかったから比較的楽に進み、遠くに見えていた山も次第に近づいてきて、歩いている地面もやや傾斜してきていた。


 いつのまにか木々も消えてところどころ緑が見えるのみになっていき、やがてそり立つ崖とそこにポッカリと空いた洞窟の入り口に着いた。


「まあ今のところそんなに困難もないな」


「そうだね。このまま何事もなく終わればいいね」


 日も傾いてきていたし入り口前で一夜を過ごし洞窟に足を踏み入れた。


 前中後に各2名ずつリュードとルフォンは中衛、前衛には案内のラッツがいて魔力を込めると光る魔導ランプをそれぞれ前中後で1つずつ、計3つを持って進む。


 洞窟ははるか昔に見つけられたもので黒重鉄が取れるとたまたま分かった。

 最初に入った部分が自然の洞窟となっていて中が採掘のために掘られたり整えられた部分となっている。


 頻繁に来るところではないから魔物が住み着いているかもしれず警戒しながら進んでいく。


 人が2人通れるぐらいの洞窟では大きな剣を振り回すわけにもいかずリュードは槍を持っている。


 長い槍も振り回せはしないのだけどどうにか槍も練習していたことがあるので突き主体でもそれなりに戦える。


 ルフォンみたいにナイフをうまく扱えればよかったけどあまり練習したことがないから慣れないナイフと練習したこともある槍なら槍を使おうとなった。


 観光地でもない洞窟は狭く足元もよくない。

 しかしあまり余裕という余裕が無いとはいえ触れ合わない程度には離れられるはずなのに時折腕が触れ合うほど近づいて歩くルフォン。


 ぴたりとくっつくのではなく時々触れる程度だから狭いからしょうがないと言われればそれまでだし、リュードがすごい意識しているみたいになるから何も言い出せない。

 触れる部分を意識しないようにしながらどこまでも闇が続いて見える洞窟の先を警戒する。


 ゴツゴツとした天然の岩肌からだんだんと整備された人工的な滑らかさを持つ壁が入り混じりいくつか道分かれもし始める。


 ラッツと離れてしまえばこの暗い洞窟で簡単に迷子になってしまうだろう。


 最初は余裕を見せていたルフォンもランプの明かりだけの密室空間に不安を覚え始めたのか、わざとらしく腕を当てたりすることをやめてそっとリュードの服の裾を掴んでいる。


 変化に乏しく真っ暗で時間も分からない中、何回か分岐を曲がり、広い空間にたどり着いた。


「ここが採掘場所だ」


 入ってきたところから逆側の端までギリギリランプの光が届くぐらいの広さ。

 壁に近づいてみるとところどころ黒く、そこが黒重鉄が混じっているところらしい。


 リュードは収納魔法であるマジックボックスの魔法がかけられたカバンからツルハシを取り出すと黒くなっているところに目掛けてツルハシを振り下ろす。


 しっかりと振り下ろさないと先がずれて上手く砕けずツルハシでの採掘作業は難しかった。


 ここまで魔物に遭遇はしていないけどいないとも限らないので交代で採掘と見張りをし、時々休憩を挟んだりしてとにかく黒重鉄の鉱石を集めた。


 重たい黒重鉄を含んでいるからか鉱石も重い。

 収納魔法がなかったら持って帰るのも一苦労だったろう。


 これも製作者であるリュードの父であるヴェルデガーに感謝しなければいけない。

 ヴェルデガーの知識欲は様々な利益を村にもたらしていたのである。


「なあ、鉱山ってこんなジメジメしてるもんなのか?」


 何度目かの休憩の時、人狼族の男の1人がラッツにそんなことを聞いた。

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