最後の力比べ2

 戦いはやや長めの展開となった。


 ルーミオラは大きな斧を振り回して近づかせまいとし、メーリエッヒは無理をしないで回避を中心に隙をうかがう。


 無尽蔵にも思えるルーミオラの体力に任せて斧を振り回し続けていたが多少消耗していたのかよく状況が見えていたのはメーリエッヒの方であった。


 斧を振り回しながらも斧に振り回されることなく戦い続けていたルーミオラだがほんのわずかに地面への注意が散漫となっていた。

 自分で作った地面の窪みに足を取られて大きくバランスを崩した。


 それは巧みな計算に基づく行動だった。

 窪みを見て思いついたのか、あるいは窪みすら狙ったものだったのか。


 様子見するように剣を出したりしびれを切らしたように攻めてみたりとルーミオラを誘導して窪みに足を取らせた。


 その隙をメーリエッヒが見逃すはずもなく、一瞬で距離を詰めて斧を巧みにさばくとピタリと喉元に剣を突きつけた。


 これでメーリエッヒが決勝に上がることが決定した。


 一方でルフォンのいる山もリュードの予想通り、他の奴にとってはダークホース的にルフォンが決勝まで勝ち上がった。


 そしてこれも予想通り。


 メーリエッヒvsルフォンの構図となり、毎年のように優勝していくメーリエッヒよりも、絶世の美少女かつ子供部門からのダークホース的勝ち上がりを見せたルフォンに応援が集中し、あたかもメーリエッヒがこの試合におけるヒール役であるかのようになった。


 幼馴染と自分の母親、しかもヒールっぽく母親が扱われる戦い見るのは複雑な気分である。


 みんなの応援に応えることなくルフォンはジッとメーリエッヒを見据え、メーリエッヒもまたそれをひょうひょうとした表情でうけている。


「始め!」


 これまでと同じ、いや少しフライング気味に飛び出したルフォンは一気に距離を詰めようとしたがメーリエッヒもまっすぐ突っ込んでくるルフォンに剣を合わせて突き出し簡単には距離を詰めさせないようにする。


 しかしルフォンは止まらない。


 一瞬剣が刺さったのではないかと思った。

 それほどの速さで当たればタダじゃ済まなそうな一撃をギリギリ頬がかすめるようにかわして懐に飛び込んでナイフを腹に刺そうと伸ばした右手をメーリエッヒが掴む。


 遠くからだからよく見えているが近くなら相当な速さのはずなのにメーリエッヒはよく見えている。


 掴んだ手を引き寄せてさらに体を近づけルフォンの腹に膝を入れる。


 ルフォンの顔が痛みに歪むがメーリエッヒの攻撃はまだ終わらない。パッと手を離したメーリエッヒは蹴りを繰り出す。

 痛みで反応が遅れたルフォンはメーリエッヒの膝に続く蹴りに対応出来ず地面を転がるように弾き飛ばされる。


「容赦ねえな……」


 すぐさま追いかけて振り下ろされる剣をルフォンはわざとさらに転がることで回避する。


 普段メーリエッヒはルフォンを実の娘のように可愛がっているから手加減の1つでもするのかなと甘く考えていた。


 手ごころ一切なしの戦いにリュードも背中が冷たくなる思いだ。


 しかも少し戦い方の意地も悪い。本当にあれでは悪である。


 それ以上の追撃はなく土だらけで起き上がったルフォンとメーリエッヒが再び睨み合う形になる。


 これまでの相手に通じてきた速さがメーリエッヒには通じない。


 それでもルフォンには他のやり方はない。


 覚悟を決めたように地面を蹴ったルフォンだが遠くから見ているリュードにはわかった。


 2発腹に手加減なしの蹴りを入れられて、ルフォンのスピードは明らかに落ちている。


 今度は掴まれたりしないように一撃で狙うのではなく細かく攻撃を繰り出し、メーリエッヒは回避に徹しているのだけれど時が経つほど回避が最小限に洗練されていく。


 声は当然聞こえないがメーリエッヒの口元がわずかに動いた。

 何を言ったのかルフォンの速さが少しだけ上がるもルフォンを捉えるには至らない。


 観客の悲鳴にも似た声が聞こえた。


 ひょうひょうとした表情だった母さんの顔から感情が消えてルフォンが目の前にいたはずの母さんを見失った。


 後ろに回り込まれたととっさに判断できたのは良かったのだが振り向いた時には母さんは剣を斜めに振り上げ始めていた。


 モロにクリーンヒットされたルフォンは宙を舞い、地面に叩きつけられても起き上がろうと体を動かすもダメージは深刻で起き上がれない。


 起き上がってもメーリエッヒの勝利を示す赤札も4つ上がっていた。


 そのままパタリとルフォンは気絶して力比べの優勝はまたメーリエッヒとなった。


 振り返ってみればワンサイドゲームでも決勝まで勝ち抜いて臆せずメーリエッヒに挑んでいったルフォンは大健闘したと言っていいとリュードは思う。


 リュードもルフォンに負けてはいられないと決意を新たにした。


 ーーーーー


 次の日、ルフォンは医療班によって無事全快と聞いて安心したところで第1回戦が始まった。


 初戦の相手はくじ運よろしく特に強くもない相手でサクッと倒させてもらった。


 リュードにとって危なげない相手でも子供部門から大人部門で1勝を挙げること自体凄くてみんなの歓声も盛大だった。

 正直15歳の地獄の鍛錬を乗り越えた時点であまり差はないのではないかと思ったりもする。


 くじ引きシステムな以上誰といつ当たるかはわからない。


 いきなり村長と当たることも、師匠であるウォーケックとだって可能性はある。


 もちろん村長もウォーケックも1回戦は突破した。


 欲張りなことだとは自分でも思うのだけれども村長とウォーケック、そのどちらも打ち倒してこそリュードは村から旅立つ事ができる、そんな風に勝手に思っている。


 神様に与えてもらった高い初期ステータスに依存して生きるだけではダメで力比べという己の実力(大なり小なり身体能力の高さは影響してるけど)でちゃんと強くなったと証明しなきゃいけない。


「シューナリュード・イデアム!」


 2回戦目の第1試合で早速俺の名前がクジが引かれたようで大きく名前が呼ばれた。


 先んじて力比べの会場に入ると大きな声援。


「ウォーケック・ディガン!」


 おおっ!っと観客から歓声が上がる。


 思わずニヤッとしてしまうほどの幸運で次の対戦相手はウォーケックに決まった。


 リュードとウォーケックが師弟関係なのは周知の事実なため周りも師弟対決の行く末に大きな期待を寄せているのか一層視線が熱く感じられる。


 先に呼ばれたリュードは白、後に呼ばれたウォーケックは赤。


 決められた位置について互いに視線を交わすとリュードと同様にウォーケックもニヤリと口の端を歪める。


 ウォーケックは双剣を構える。

 ナイフにも近い短めの剣を二振り。利き腕に持つ剣の方がやや長い。


 言葉などどちらも発しはしない。

 発しなくても伝わる思いがあるのだ。


「始め!」


 ほとんど同時に飛び出してど真ん中でリュードとウォーケックは剣を交える。


 双剣を生かしたスピード感あふれる斬撃は一瞬の油断も出来ず受け流しや回避も楽ではない。

 人狼族の剣は柔剣、竜人族の剣は剛剣なんて誰かが言っていた。


 人狼族はしなやかで柔軟、パワーよりもスピード重視、戦い方も受け流しや回避を主体としていることが多い。


 竜人族は魔人化の状態の堅牢さは言わずもがな人の姿でも頑丈でパワーを重視、剣を合わせるようなしっかりと受け、パワーで押していく戦い方が多い。


 ウォーケックはその点でいけば人狼族らしい戦い方と言える。


 リュードはウォーケックが師匠なだけにやや人狼族よりな戦い方ではあるものの持っている剣は竜人族の大振りな剣であって完全な速さ寄りかといえばそうでもない。


 そもそも技量も経験値も速さもウォーケックが上なのだから全く同じじゃ勝てるはずもない。


 一方俺のアドバンテージは竜人族のパワーと目である。


 これもまた種族の違いがあって、人狼族は夜目が非常によく利き、竜人族は動体視力が良いのだ。


 リュードは当然目も非常によくウォーケックよりも正確に相手の剣筋を捉えることができる。


「やるじゃないか」


 短いが激しい剣のやり取り。未だ剣をかすらせることなく均衡が保たれている。


 体力の消耗は心配だけどこのままでいい。


 徐々に速くなっていく打ち合いの中でウォーケックの攻撃を受けるリュードはまだ軽いと言える攻撃を身体能力と動体視力で捌く。

 ウォーケックもリュードのやや重い攻撃を衝撃をしっかりと逃して受けている。


 まだまだ若く体力も作りこんできた。

 長くなればなるほど体力の消耗が大きいのはウォーケックになる。


 実際ウォーケックは村長との戦いではそのパワーを最終的に捌ききれず押し切られてしまうような負け方をしていることもあった。


 決してウォーケックも非力とは言わないしリュードも村長ほどのパワーはないから同じようにはいかないけどあながち的外れな方策でもない。

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