告白2
これは何かを思い出す……そう12歳の時の村長もこんな感じの目をしていたような。
ルーミオラはニコニコしている。
ウォーケックが暴走しないようにわき腹にフォークを軽く当てながら。
「リューちゃん、あーん」
「あ……あーん」
「どう?」
「うん、美味しい」
下手をすると味がしない状況ではあるけれど溢れ出る肉汁はそれを越えて上手く、獣臭さなんて一切ない旨味の塊である。
焼き加減も程よくいかに料理が上手なのかよくわかる。
「よかったぁ〜」
ほっと胸をなで下ろしたルフォンはリュードにフォークを渡すつもりはないようでまた一口大にハンバーグを切ると次を口に運んでくる。
「7歳……」
フォークを握り締め今にも血の涙でも流しそうになりながらささやくウォーケックの声はなぜなのかリュードによく聞こえる。
本当はあんまりささやくように言っているだけでささやいてなくて、ルフォンたちが無視しているだけかもしれない。
「最後にルフォンにあーんしてもらったのが7歳の時のことだ……!」
「えっと、ルフォン?」
「今日はリューちゃんの誕生日だからいいの!」
「俺の誕生日だってしてくれない……!」
力無くテーブルを叩きつけて嘆くウォーケックの脇腹はほんのり血がにじんでいる。
暴走を止めるためにもはや脅すだけでは足りずにマジで突き刺して止めているのである。
にこやかな顔してるだけにウォーケックとはまた違った怖さがある。
じわじわと赤いシミが服に広がり痛くないのかと思うけど興奮状態だからかウォーケックは泣きながらハンバーグを食べている。
食べさせてくれるわけではないけれどもそれでも娘が作ってくれた手料理なので残すわけにはいかない。
リュードはリュードでルフォンが口を挟むこともできないような絶妙なタイミングで次々と口にハンバーグを運んできて、結局食べ終えるまでモグモグと口を動かしているだけだった。
デザートはルフォン特製のパウンドケーキ。
これはリュードが以前にチャンピオンのお願いで砂糖などを頼んだのだけどうろ覚えの知識では甘い物の再現が上手くいかなかったところ、ルフォンに渡してみたらリュードのなんとなくの知識とルフォンの料理勘で作り上げてくれた。
無論多少の失敗はあったけどリュードがやっていたら材料はかなり無駄になっていたかもしれないことを考えると失敗なんてないようなものだった。
以来材料も渡しちゃっているけどルフォンは決して好き勝手に使うこともない。
今回のケーキはベリー系の果物もふんだんに使ってあっていつものものより贅沢なものになっている。
ただしパウンドケーキも俺はただただ口を動かして食べるだけだった。
一通り食べ終えると最後に紅茶を持ってきてくれる。
こちらは行商で手に入れたものである。
しかし渡した砂糖が入れてありほんのりと甘い。
「すごく美味しかったよ」
「えへへぇ〜」
嬉しそうに笑うルフォンの頭を撫でてやるのは習慣と言ってもいい。
ルフォンは撫でられて気持ちよく、リュードも実はルフォンの柔らかな髪と時折触れるふわふわとした耳が気持ちいい。
「また作って欲しかったら言ってね? 私リューちゃんのためならいつでも作るから」
リュードにしなだれるルフォンとの間に甘い空気が流れる。
ルフォンもいいお年頃なのだしリュードも正直そういうことを意識したりもする。
一つ言いたいのはご両親の目の前でこういうことはちょっと抑えてほしいかな、特にフォークを片手でひん曲げるような父親の前では。
どうにも魔族の男は娘に対して甘く、例え幼馴染でも寄り付く虫は許せないみたいだ。
あくまでも身の回りの大人の話に限定されはするけど。
でもルフォンやテユノのような娘がいたらと考えると分からないでもない。
「……そうだな。ぜひまたお願いするよ」
もう食べられないだろうな。
そうした思いは自分の胸の中にだけしまっておけばよい。
少しルフォンの家でのんびりとしたリュードは引き留めようとするルフォンをなだめて自分の家に帰る。
来たるべき時に備えて準備は必要なのだ。
でもその前に最優先にやらなきゃいけないことがある。
ルフォンの誕生日プレゼントの用意だ。
たまたま家にはメーリエッヒもヴェルデガーもいないようなのでさっさと自室に行って読みかけの本と石とかもらってきた失敗作のネックレスや工芸品なんかが入った箱を部屋にある小さいテーブルの上に置く。
今までは石を使っていたけど今度からは1つレベルを上げて魔物の牙を使ったネックレスにやってみようと思い、小さい魔物の牙を箱から取り出す。
日々鍛錬をしているリュードは魔力のコントロールだけならヴェルデガーにも負けないぐらい上手くなった。
「…………よし」
箱の中から一冊の本を取り出してテーブルの上に開く。
魔法というのは大雑把で雑でも使えるがちゃんと使おうと思うとしっかりとしたイメージが大事になる。
ただ火を出したいだけなら特にイメージしなくても火は出せる。
けれど燃え盛る火とか熱、魔法で作りたい形なんかイメージをしっかり持って魔法を使うことで威力が高まる。
「強化」
まずは魔法を使うための下準備。
左手に厚い皮の手袋をつけて牙を持ち、細工用の小さい刃が付いたナイフを魔法で強化して魔物の牙に当てる。
魔法で強化を施した刃が牙に食い込む。
皮の手袋していても力加減を間違えれば簡単にスパッと切ってしまいかねないので慎重に力を込める。
本を見ながら少しずつ牙を削っていく。
小さい牙だし複雑なことはできない。リュード自身も本を見てようやくまねしているぐらいなので難しいことをするつもりはない。
集中して作業を進めて牙の表面に模様が刻まれる。
「ふう……。
こんなところかな」
まだ完ぺきとはいかないけれど何回もやっていれば慣れてくるもんだ。
結構うまくできていると内心自画自賛する。
「ここからが本番だ。
集中集中……付与魔法・防御」
テーブルに置いた牙に手をかざして魔法を発動させる。半透明の魔力が牙を包み、フワリと宙に浮く。
ネックレスが魔力を吸収するように周りの魔力が無くなっていき、やがて全ての魔力が牙に吸収されるとカタンと音を立てて牙がテーブルに落ちる。
見た目上は何か変わったようには見えない。
魔法の効果を確かめるために箱の中からハンマーを取り出して牙をハンマーで叩きつける。
「よしっ!」
牙は粉々にはならずあと少しというところでハンマーが止まっている。
リュードが開いている本のタイトルは『付与魔術のススメ』というその名の通り付与魔法に関する基礎的なことが書いてあるヴェルデガーから借りてきた本。
付与魔術とは物に一定の効果を発揮する魔法を付与する意外と難しい魔法。
ヴェルデガーはこの付与魔法が苦手でこの本を買ったはいいものの放置していた。
ヴェルデガーの本を読んでいるリュードは本整理の途中でたまたま崩れた本の山の中から本を見つけて興味本位で読んでみたのが始まりだった。
リュードはこうした細かい作業というか細かい魔力コントロールが好きで付与魔法は面白く思える。
手先が器用とまでは言えないが黙々と作業しているのは意外と性に合っている。
牙にかけた付与魔法は守りの魔法で魔法の力で多少の攻撃なら牙に込めた魔法で防いでくれる優れ物。
まだまだ下手くその域から脱せてはいないけど効果は低くてもデタラメな魔力を持っているから無理矢理魔力を込め、使えるぐらいには持っていける。
リュードはこれをルフォンの誕生日プレゼントにしようと目論んでいる。
本を見つけた時から構想はあったけどなかなか着手出来ず込める魔法もまだ決まっておらず、あと10日もないうちに自分の技量がどこまで伸びるかも分からない。
実践あるのみと適当に石ころに付与してみたものの魔力の伝導性や保持力が低くて付与は出来ても効果も弱く持続時間も短い。
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