15の春1

 時は流れてリュードも15歳の年になった。


身長も大きく伸びて体格もがっしりとした。顔の幼さもだいぶ抜けて少し大人びてきた。


 相変わらず剣に魔法にと鍛錬の日々が続いているけど森に入って狩りをしたり狩りで獲った獲物の解体をこなしたりもするようになった。

 お風呂はほとんどの家に行き渡り、今では交換や修理ぐらいしかなくヴェルデガーが細々と続けているぐらいである。


 12歳の力比べ以来リュードを馬鹿にする奴はいなくなり、ついでにテユノはなんだかリュードに対して丸くなった。


 口うるさい幼馴染みみたいな感じになったのだ。


 いやまあこの小さい村だから年が近いというだけでみんな幼馴染みのようなものではあるのだけど。


 村やリュードに何か変わったことはないのだがルフォンは少し変わった。


 性格が変わったのではなく12歳の時の力比べの時からルフォンは真面目に鍛錬を始め、才能が開花したのかすごく強くなった。


 確かに12歳の時の力比べの後はなんだかよそよそしい時期もあった。


 何かに吹っ切れたのかいきなり顔を腫らしていた時は驚いた。

 ルーミオラに稽古をつけてもらったと言っていて容赦のないものだと呆然とした。


 13歳の時はテユノに一歩及ばずに負けて泣いていた。


 14の時には決勝でに鬼気迫る勢いでテユノから勝利をもぎ取ってそのまま優勝したぐらいなのだ。


 何がルフォンをそうさせたのかリュードは知らないけど大会前は珍しくルフォンがピリつくぐらい真剣に取り組んでいた。


 日常的な態度は変わらず引っ付いてくるところも変わらないけどかなりの美少女に成長しているルフォンに引っ付かれるとリュードがドギマギしてしまう。


 リュードはフテノ以上の奴は同年代にいなかったせいで14まで三年連続子供部門チャンピオンを維持し続けている。


 それでも他の奴は腐らずいつかリュードを倒す!といって訓練し、力比べでも本気でかかってきてくれるから魔族というのは良い奴らだと思う。


 これが真人族ならリュードの足を引っ張りにくるような暗い戦いが繰り広げられていたかもしれない。


「どうしたぁ! もうへたったのか!」


 15歳になったリュードは現在一人暮らしをしている。


 一人暮らしと聞くと1人立ちでもして家でもこさえたとか村を出たのかと思うかもしれないけどそうじゃない。


 村の南側に10軒ほど立っている広い建物の内1つ、キッチンと布団とあとはただ広いスペースの家を与えられて住んでいる。


 これはどちらかというと人狼族の習慣で人狼族はある程度の年齢になった若者を大人たちで生きていけるように鍛え上げるらしく、人狼族と竜人族が共生しているこの村にもその習慣が根付いている。


 本来の人狼族のやり方とはだいぶ変化しているけれど目的は変わらない。


 15歳になると親元を少し離れ一人で暮らし、そこに村の大人たちが来ては指導だったり訓練だったりを繰り返す。


 朝起きてから夜寝るまで大人たちは途切れることなく来るのであっという間に体力は限界を迎えるがそんなこと御構い無く、しかも治療魔法が使える人が近くに待機していて怪我したり立てなくなったりすると回復させれてシゴキは続く。


 リュードも初日で簡単に少しだけあった自信が打ち砕かれるほどキツイ。


 この習慣が15歳とそれ以下の差を生み出している。

 本格的な大人への第一歩。


 人狼族、竜人族関係なく大人たちが来ては様々な形で鍛錬が始まるのだが、これがまた1人ずつ来るとも1人ずつやるとも限らないために複数相手のことも多い。


 いつの間にか相手が増えてることもザラで、なるほどこれを越えれば否が応でも強くなる。


 この世界においては前の世界と同じような4つの季節に分かれていて四節といい、真人族はそれぞれかつての英雄の名前をつけて呼んでいるけどリュードは春夏秋冬で勝手に呼んでいる。


 それぞれの節は100日で一節で400日で四節、これで一年となる。


 このシゴキ習慣は春節まるっと、つまりは100日も続く、まさしく地獄の習慣となっている。


 タチが悪いのは体や戦闘についての鍛錬だけでなく日常生活の鍛錬も兼ねていることにある。


 一人暮らしでキッチンがある。


 もちろんご飯を作ってくれる人はおらず差し入れされる少なめの食材で自分でなんとかしなきゃいけない。


 極限の疲労感に苛まれながらご飯を作るのは楽なことじゃない。

 でもご飯も食べなきゃ次の日体ももたない。


 食料の配分も見なきゃいけない。


 合理的なのか甘えを許さないのかわからないけどやらなきゃ死んじゃうのである。


 ルフォンやテユノも例に漏れず10軒のどれかで同じように鍛え上げられているはずである。


 2人は最近競い合うように強くなっている。


 リュードも負けるわけにはいかないと頑張っている。


 最初の10日ほどは大量のオヤジたちに囲まれてボッコボコにされて食事もままならず生でかじって飢えをしのいでいた。


 それでも必死に食らいついていると最初ほどオヤジたちもワッと来なくなったし段々と対多数の動きに慣れてきた。


 体力も技術も無理矢理付いてきてオヤジたちの攻撃も当たらなくなってきた。


 しかし防御や回避をするだけではオヤジたちの数は減らないどころか増える一方でキツくなってくることが分かったので反撃もしなきゃいけない。


 反撃も必要なのは分かっている。


 実際に反撃が形になり始めたのはもはや回復してくれるからとなりふり構わなくなって5日、およそ25日ほど経ってようやく攻撃もオヤジたちに決まり始めた。


 これがまたマズイことに、オヤジたちは反撃されると喜ぶことも分かった。


 別にドMとか自虐趣味があるわけじゃない。


 反撃される方が楽しくていいという理由なのだ。


 無抵抗の者よりも抵抗してくるぐらいのやつ、さらにいえば反撃までしてくるならオヤジたちもそちらの方が良い。

 リュードの反骨精神の噂が広まって少し減っていた人が戻るどころかリュードのところにくるオヤジが増えた。


 やれば慣れてくるもので多少料理をする気力も残せるようになり、初日から数えて50日も経てば料理も多少はこなれてくる。


 実は食材も足りなくなるのは少ないということだけでなく消費する期限が差し迫っている食材も多く差し入れられることにも原因があった。


 そこでリュードは魔法で凍りつかせて食材の延命を思い付いた。


 自分の持てる能力で何とかしているのだから卑怯とは言わせない。


 おかげで食材には余裕があるとまでは言えなくても困ることはなかった。


 同時にここに来て連日来るオヤジどもにも疲れが見え始め複数人相手にしてもリュードが押し負けない、それどころかリュードの方が優位に立ち回れるなんてことも若干出来始めていた。


 オヤジたちも連携なんて取っていないから立ち回りやオヤジたちの相性次第では上手く相手できた。


「今日から毎日竜化してやってもらう。シューナリュード、お前も常に竜化していてもらうぞ」


 このままならいけるかもしれないなんて思うリュードを見透かしたかのように55日目に新たな段階へとステップアップさせられることになった。


 人の姿をしていて人の姿で暮らしているのなら真人族と魔人族、ひいては竜人族と何が違うのか。


 今人の姿をしているのは便利だからという理由に過ぎない。


 実際の違いはといえばこの竜化こそが真人族と竜人族を分ける違いであり、ある種竜人族にとってのアイデンティティとも言える。


 人によっては竜化している姿こそ真の姿であって常に竜化しているべきだと主張する者もいる。


 広くいえば魔人の姿ということもある。


 では竜化とは何か。


「これからこの訓練はもっと激しさを増す。覚悟はいいか?」


「もちろんです」

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