第24話 充足
満たされた思いで体を離して、熱が少し冷めると葵さんに触れたくなる。
横寝で隣の葵さんの体に抱きつくと、葵さんも向かい合う形に向きを変えてくれて、背中に腕を回して緩く抱き返してくれる。
お互い裸のままだけど、そんなことはもう気にならなかった。葵さんにほとんど任せっきりだったけれど、初めて人と肌を合わせることを私は知った。
「どんな気分?」
葵さんの笑顔はいつでも魅力的だけど、蕩けそうな優しさに満ちた笑顔は、誰もが一目で恋に落ちそうな極上のものだった。
それが今私だけに向けられていることが嬉しくて仕方がない。
誰かの特別になるって、心が満たされる気がした。
「世の中にこんな幸せなことがあるんですね」
葵さんからもう離れたくなかった。ずっと触れていたい。
「さっき格好つけて同棲はできないって言っちゃったけど、我慢できなくなりそう」
「泊まるのはいいんじゃないですか?」
「帰れなくなるやつだけど、いい?」
「私も葵さんと一緒に過ごしたいです」
「ワタシも真依を離したくなくなっちゃった」
葵さんからのキスが重なって、これでいいのかな、と手探りで応える。
「キスはちょっと慣れた?」
「はい。でもまだレベル1ですからね」
「レベル100のキスは、真依を本気で落とす時にワタシが使うから、真依は覚えなくていいよ」
「もう落ちてますよ? 私」
「そうだけど、使うポイントが違うかな。真依がもうちょっと慣れてからね」
まだまだ葵さんは隠し持っているものがありそうで、でも今はこれが精一杯だなと追求を諦める。
どういうことかの予測はついてるけど、そんな葵さんに私は耐えられる気がしない。
しては欲しいけど。
翌日は休日で、どこかに出かけようかという話はしたけれど、やっぱり2人の時間を過ごしたいになって家で過ごした。
昨晩は寝ついた時間が遅かったので、ベッドを出たのは既に昼に近い時間だった。
朝からベッドでいちゃいちゃしすぎたのはある。
簡単に朝ご飯兼昼ご飯を作って2人で食べて、昼からはリビングで時間を過ごす。
一緒に時間を過ごすでも、柚羽と過ごすのと、葵さんと過ごすのはやっぱり違った。
柚羽と葵さんというよりは、友人と恋人の違いなのかもしれない。
「真依って甘え方は知らないけれど、甘えたい方だよね?」
「なんで分かるんですか?」
葵さんの隣に座って、ちょっとの距離を縮めようかどうかを迷っていると、葵さんがくすくす笑っている。
おいでと片手を拡げてくれたところに、私は体を寄せる。
「真依の彼女だからかな」
言葉にされて、確かに彼女だけれど、私をリードしてくれる葵さんは格好良すぎて、その言葉にある可憐なイメージはそぐわない。でも、それすらも私が勝手にイメージを作ったものだと気づく。
葵さんを振った時、私は愛し合うということがどういうものか分かっていなかった。それなのに、自分の中の常識で答を出して、葵さんを傷つけた。
今思うと、失礼な選択だった。
「葵さん」
見下ろして来た存在に、大好きです、と想いを言葉に乗せる。
「真依が可愛すぎるんだけど」
昨日から何度もその言葉は葵さんに貰った。
可愛くないと否定したいけれど、葵さんからの言葉は嬉しい。
葵さんから目でキスに誘われて、目を閉じると唇が重なる。
朝からもう何度もキスをしているので、数を数えることさえ忘れてしまった。でも、飽きることなんかなくて、もっとして欲しいと唇を離した瞬間に感じる。
「ここでする?」
何をかなんてもう聞かなくても分かっていたけれど、クッションがあるとはいえフローリングは固そうだと、ベッドに行きましょうと返す。
「すっかり誘い方が上手くなっちゃったな」
「誘ってません」
誘ったのは葵さんだと反論しようとしたところで、私にも一緒に立ち上がることを促してくる。
「真依は触れ合うの嫌じゃない?」
「滅茶苦茶恥ずかしいです」
「恥ずかしさを我慢してくれているってことは、ワタシに触れることを望んでくれているってことだよね?」
「だって、葵さんは触れているだけで気持ちいいです」
「じゃあ、もっと気持ち良くしてあげる」
揃ってベッドに腰掛けて、顔を近づけ合ってキスを重ねた。キスをされるのも、それに応えるのも、昨日からずっと一緒にいる中で慣れては来ている。
「葵さん、こういうのって普通なんですか?」
「こういうのって何を指している?」
「その、何回もしちゃうの、とか……」
「そういうのを気にするの真依らしいよね」
葵さんに笑われて、だって……と恥ずかしさが増す。
「真依が好きで、もっとしたいって思うからワタシは誘ってるだけだよ。まあ女性同士の方が際限がないって言われたりするけどね」
「どうしてですか?」
こんなこと質問してもいいのかと思いながらも、葵さんには私が完全にビギナーだってことは昨晩知り尽くされたのでいいか、と尋ねる。
「男女と女性同士の愛し合い方の違いかな。男性主体だと、ぶっちゃけ男性が何回したいかで左右されるけど、女性だと触れればできちゃったりするしね。生々しかった?」
「その生々しいことをいっぱいしましたから」
「最高に気持ち良いから、そこにすぐ戻りたいくなっちゃうんだよね。真依とは体の相性も良さそうだしね」
「葵さんは男性とするのと、女性とするのどっちが好きなんですか?」
「もちろん真依でしょ」
微妙に答を外されて、誤魔化されたようでちょっと納得がいかない。
「そういう質問じゃありませんって顔してるね。だって、体だけ気持ち良くなるセックスはできなくはないけど、それって一時的に性欲を満たすだけだってワタシは思ってる。好きで好きでどうしようもないから求め合うってセックスに敵うわけなくない?」
「そうですね」
「だから、ワタシにとって真依以外は全部一緒」
葵さんの言葉が嬉しすぎて、表情を緩めた隙に葵さんに唇を奪われた。
「真依がしたいことがあるなら遠慮なく言って? 真依がエロいことに目覚めたっていうなら、どこまでもつき合うよ?」
「目覚めてませんけど、葵さんに触れたいです」
笑いながら私は葵さんにベッドの上に倒される。
「好きなだけ触れていいよ」
被さった口元に葵さんの手が伸びてきて、それを軽く食む。
キーボードを叩くのに邪魔になるから爪はあまり長くできないと以前聞いたことはあったけど、ケアはされている。舌先で指の腹を舐めると、目の前の葵さんの顔が弛む。
「真依の舌遣いエロい」
「葵さんが、指を持って来たんじゃないですか」
でも、抗議は葵さんの唇に塞がれる。口内に入って来た葵さんの唇に舌を絡め取られると、それに応えるのに必死だった。
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