第23話 恋人との夜の過ごし方
電車を降りてから葵さんと2人で私の家への道を辿るのは、2度目だった。
私が失恋をした日、葵さんに手を引かれて家に帰ったことを思い出す。
あの時と手を繋いでいるのは一緒でも、私と葵さんの関係は大きく変わった。
「葵さん、私が告白しようとした日、どうして駅で待っていてくれたんですか?」
「どうしてだと思う?」
「私が心配だから、くらいしか思いつきません」
「あの時ワタシはもう真依のこと好きだったんだ。でも、真依に好きな相手がいるなら、前には進められないなって思ってた。ただね、真依がもし失恋したのなら慰めてあげたかったの。一人で泣かせたくはなかった。駄目だったらワタシにもチャンスがあるかもしれないって邪な思いもあったけどね」
「じゃあ、もし私の告白が上手く行っていたら、告白はしなかったってことですか?」
「そう。ワタシは意外と臆病だからね」
葵さんは強いけれど、時々迷いや弱気なところがあることは気づいていた。
多分葵さんの中にも私と同じように好きだという思いと、女性同士だという迷いがある。
「私には素敵な女性に見えていますよ」
「真依にはそう見せようと頑張ってるの」
挑発をしてしまったようで、家に入るなり葵さんに抱き締められて唇を奪われる。
「もう……葵さん」
「真依が可愛すぎて、外にいる間我慢するのに必死だったの」
私は葵さんの腕の中にまだ留まったままで、目を瞑ると再び葵さんからのキスが落ちる。
「怖くない?」
「一人で悩むよりも、葵さんの温もりを感じている方が安心できそうかなって」
可愛いと葵さんに抱き締められて、葵さんに身を任せる。女性らしい柔らかな葵さんの体に嫌悪は感じなかった。
むしろ気持ちが良くて、無謀かもしれないけれど勢いに任せてみようと決めていた。
私と交代でシャワーを浴びに向かった葵さんは、見慣れた部屋着姿で戻ってくる。
「これ、柚羽が持って行かなかったんだ」
葵さんは背が高いこともあって袖や丈が足りないからと、私や柚羽より服のサイズが1サイズ大きい。以前よく泊まりに来ていた頃に残したままになっていた部屋着が運良く見つかった。
「バスルーム前のクローゼットの方に入れていたので、気づかなかったみたいです」
「なら丁度よかった?」
ベッドに腰を掛けていた私の隣に葵さんも腰を下ろす。お風呂上がりの匂いがして、恋人のお泊まり感が一気に増して緊張する。
「真依、ワタシね。真依のことは一目惚れなんだ。絶対に合いそうだって直感した。もちろん、それから真依のことを知って、もっともっと好きになったけどね」
「そういうの、今言うのずるくないですか?」
「だって、今真依を口説かなくて、いつ口説くの?」
この人が好きだ。触れたい。
葵さんが腰に手を回してきて私を引き寄せる。そのままキスをされて、唇の感覚を感じ取る。
「私、初めてなんですけど……」
触れたいけれど、経験がないからどうしてもいいかも分からず、葵さんに助けを求める。
「知ってる。ワタシがリードするから心配しないで」
その言葉に葵さんに身を任せようと目を瞑った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だから」
力を抜けと言われても、力の抜き方がわからなくて、困った顔のまま葵さんを見上げる。
「じゃあ、真依の緊張が解れるまでこうしていよう?」
ベッドで向かい合うように寝転がって、葵さんの胸の中に私は収まる。葵さんは私の顔にキスを落としながら、腰に手を回して、部屋着の隙間から素肌に触れてくる。
「すみません」
「真依が謝ることじゃないでしょう? 真依はこうしてるのは嫌じゃない?」
「嫌じゃないです。葵さんを私が独占してもいいんですね」
「もちろん。真依が独占していいよ」
その言葉が嬉しくて、葵さんと視線を合わせる。
葵さんの顔が近づいてきて、そのままキスをする。少しだけど、そのタイミングが分かってきた。
位置を変えながら葵さんの唇は、何度も私に触れる。その度に全身が蕩けさせられて、葵さんのことしか考えられなくなる。
「真依の全部を見せて」
葵さんの甘い声に、抗う術なんて当然ない。むしろ心が跳ねている。
27年生きてきて、私は私の意思でしか体を動かしたことがない。それが葵さんに触れられたことで、葵さんの望むままに拓かされて行く。
肌に吸い付かれると初めはくすぐったさに笑いそうになるけれど、すぐに愛されることに嬉しさを感じるようになる。
「真依もちょっとは期待してくれてるってことなんだ」
下腹部から更に下着の中に葵さんの手が潜り込んで、その場所が潤っていることを知られる。
「葵さんがいっぱい触るからじゃないですか」
「感じてくれているのは嬉しいよ」
「そういうこと言わないでください……」
顔を手で覆おうとした私の手を葵さんは阻止して、顔を寄せてくる。
「触れていい? 無理はさせないから」
「葵さんがしたいなら……」
「したい。2人でもっと気持ち良くなろう?」
触れて欲しいなんて言えなくて、でも葵さんはそれを分かってくれていた。
葵さんの望みに応えるので精一杯だったけれど、葵さんは私を丁寧に扱ってくれて、体が満たされるのを感じていた。
それは多分性欲じゃない。ちょっとはあるかもしれないけれど、葵さんに触れられた、愛してもらったという満足感からな気がしていた。
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