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第22話 一緒にいたくて

「真依がそういうこと考えてないだろうなって、わかってて言ったけど、真依の恋人の席は誰にも渡す気ないからね」

あっさり言う所が葵さんの格好良さで、独占欲を表に出されると嬉しさはある。

「葵さんって、女性ともおつきあいしたことあるんですよね？」

葵さんは性別に拘りがないと聞いたことがあったけれど、つき合ったことがあるかどうかまでは知らなかった。

「あるよ。ごめんね」

「責めてないです。ただ、その人とどうして上手く行かなくなったんですか？」

「どうやってつきあったかじゃなくて、別れたかが気になるんだ？」

「だって、そうならないように気をつけられるかもしれないじゃないですか」

葵さんは過去につき合った女性がいて、今私とつき合っているということは、以前の彼女とは当然ながら別れていることを意味する。

「普通に価値観が合わなかった、だよ」

「どういう所が、ですか？」

「小さいことが幾つか積み重なってだったけど、その中でも大きいのはお金に関してだったかな。ワタシは自分が買えるものならちょっと贅沢するくらいはいいかなって思ってる。でも、その時つきあってた恋人はストレスを買い物で発散しちゃうタイプで、よくリボとかキャッシングで買い物しちゃってた。何度か止めさせようとしたんだけど、気づけば新しい支払いが増えてて、価値観が違うなって別れた」

「好きって気持ちは残ってないんですか？」

「そういうことがあると、やっぱり醒めちゃうんだよね。悪いところは直すのにつき合ってあげるのが本当の恋人なんだろうけど、できなかったのはそこまで愛せてなかったんだろうね」

「私は大丈夫でしょうか？」

葵さんの相手に求める基準に入っているのかと心配になって声を上げると、心配しなくていいと返事が返ってくる。

「ワタシは真依といて、駄目だなって思ったことないよ。それに、減点方式で人を見るのも基本はしたくないんだ」

「良かったです」

「逆に、真依はワタシをどこまで受け入れられてる？　一回振られてるから、びくびくしてるんだけどワタシ」

「葵さんがですか！？」

葵さんはいつも自信に満ちあふれている存在に私は見えていた。

「だって真依は同性を恋人にはできないって言ってたよね？」

「はい。あの時は、どう返事をしたらいいかに悩んで、でも将来を考えるとそこで詰まるだろうなって思って、ああいう返事になりました」

「まあそうだよね。でも、それなのにつき合ってもいいって考え直してくれたのは何故？」

「……葵さんと会えないのは淋しかったです。偶然再会できた時は嬉しくて、このまま元の関係に戻れるんじゃないかなって甘く考えていました。でも、もう私には関わらないようにするって言われて、悩んで、あの飲み会の日にそんなのは嫌だって答が出ました。私は葵さんと一緒にいたい。葵さんの1番でいたいんだって気づいたんです」

これは嘘じゃない。今更感があったけど、私は自分の心に気づけた。

「そういう今日お持ち帰りをしたくなるようなことを言わないで欲しいなあ」

「じゃあ、今日は泊まりますか？」

「……泣かせるからね」

無謀なことをしているのは分かっていた。でも、葵さんは実は常識的で、私の気持ちを優先してくれている気がしていた。

つき合ってからキスをしたいとはよく口にしても、実際に触れてくることは初めの日以外なかった。

それは私が葵さんを恋人だと認識する時間を待っていてくれているからだと感じていた。

そんな葵さんとの関係に、最近ちょっともどかしさがあって、変化させたいという気持ちはある。

怖さもあるけれど私は葵さんに近づきたい。触れたい。

私の恋人だと感じたい。

だからこそ、私は自分の意思で葵さんを望んだ。

駅の改札を通って、別れることなく2人で同じ電車に乗った。もちろん私の家へ繋がる路線で、無口になった葵さんの隣にいるのがくすぐったい。

でも、隣り合わせで立っている隙間で、こっそり手は繋いでいる。

「そう言えば葵さん、もう会わないって言った時、どうして私にキスしたんですか？　柚羽のことも葵さんのことも理解できない私への嫌がらせ、なのかなって思ったんですけど……」

葵さんを見上げると、視線を逸らされる。

「言いたくないなら無理に言わなくていいですけど」

私の酷い態度に怒っていたのだったら、それはそれで仕方がなくて、取り消せない過去だろう。

「嫌がらせなわけないでしょ。会わないことを選んだのは自分なのに、真依が近くにいて我慢できなかっただけだから。真依に突き飛ばされて、何やってるんだろうって、すごく後悔した」

「びっくりしただけです」

「ごめんなさい。ファーストキスだったのにね」

「シチュエーションはともかく、葵さんで良かったなって今は思っています」

「真依、キスしていい？」

甘い声で囁かれて、家に帰ってからですと釘を刺す。嬉しいけれど、流石にまだ人目がある場所で、もう少し待ってくださいと小声で伝える。

応答の代わりに繋いだままの手がぎゅっと握られて、緊張は増した。