第13話 資料作成

翌週から私は提案活動の打ち合わせに入るようになった。


打ち合わせは、営業側は柚羽と柚羽の上司が時々入って、システム開発側は私の上司と、同じグループの桧山さんと私が入っていた。


私の仕事は桧山さんに指示を受けて、提案書のコンテンツを作るだったけれど、やったことのない仕事に四苦八苦していた。


一方柚羽は桧山さんと対等に話をしていて、一人前に仕事をこなせているように見える。


最近家で飲んでだらだらしてる姿ばかり見てるせいかな。ちょっと私の中での柚羽像を修正する。


一方で私は依頼された作業は進めたものの、これでいいか自信がもてない。桧山さんを頼ろうとしても多忙で捕まらなくて、最後の選択肢の柚羽に声を掛けた。


「このスライドごちゃごちゃしすぎ。何言いたいのかわからなくない?」


「うーん……」


「このスライドって何を表現したいの? なんか混ぜすぎてない? 複数あるならスライド分けた方がいいよ」


「どんな風に?」


わからないことだらけすぎて、最早全面的に柚羽に頼るしかない。


しょうがないかと柚羽は、質問をしながらアドバイスをくれる。それに従って柚羽に見てもらいながら修正をして、何とか完成した頃には21時を過ぎていた。


柚羽の指摘前と指摘修正後を比べると、すっきりと纏まっているのが私にも分かった。


「ありがとう、柚羽。助かった。つきあって貰ってごめんね」


「週末のお昼ご飯で手を打つよ」


そんな話をしながら二人で会社を出て、駅までの道を歩く。


同じ家に住んでいても、朝は出勤時間が微妙に違うし、帰りもわざわざ合わせて帰ることはなかったので、一緒に帰るのは実は初めてだった。


「提案とかって、慣れな部分が大きいと思う」


「柚羽も初めはそうだったってこと?」


「うん。訳分からなかった。どうすればいいかが分かるようになったのって、3年くらいしてからかな」


「やってることは違っても、仕事に慣れて自分で行動できるようになるまでに時間が必要、っていうのは同じなのかもね」


「そうだね。でも、開発が羨ましい時はあるよ?」


「なんで?」


「開発は人が多いから、困っても相談できる人多いじゃない。営業は4人しかいないし、基本お客さんに対しては営業は一人だから」


そんなことを私が考えたことはなかった。だって、私はチームで開発するのが当然で、営業側がどうなっているかは知らない。でも、柚羽の言う通り一人で前に立つのは大変だろう。


「柚羽は頑張ってるよ」


「……ありがと。夕ご飯どうしようか?」


「駅前で何か食べてもいいけど、もう遅いし、お弁当でも買っていく?」


そうしようと柚羽の同意を得て、お弁当を買ってから家に帰りついた。





それ以降も定時後に提案の打ち合わせが入ることが多くて、柚羽と一緒に帰ることが増えた。


「社内のレビュー通すだけでも大変だね」


提案書作成は一段落したものの、提案書提出までには社内承認手続きが必要で、今はその対応に追われていた。


と言っても私は聞いているだけでいいと言われているので、参加しているだけだった。それでも上層部との顔合わせは緊張を伴うものだった。


柚羽はそういう人たちとも気軽に話をしているので、羨望はある。


「そう。もちろんプレゼンが一番大事なんだけどさ、社内への説明はそれはそれで大変なんだよね」


「普通に開発してる方が私はいいや」


「真依らしい」


「だって、見積をして利益を出せるかどうかくらいまではついて行けるけど、戦略とか、リスクの対策とか全くついていけないよ」


「誰だって初めはそうだよ。真依も手伝いを依頼されるってことは、今後こういうこともやっていって欲しいんじゃないの?」


それに私は大きく首を横に振った。


「わたしは真依と一緒に提案活動できるの楽しいよ。ほら、今まで仕事で絡むことなかったでしょ?」


「一緒に仕事できるのは嬉しいけど、開発してるだけじゃ駄目なんだなって先々を考えると鬱になる」


「真依真面目だからね」


「要領悪いだけだよ」


「そこが真依の良さだってわたしは思ってるけど」


「そうかな」


「そうだよ。真依が頑張っているのを見てると放っておけない気になるもん」


「嬉しいような、嬉しくないような」


同期だから対等でいたい、そんな思いが強くて複雑なところはある。


「それって大事だよ。一人じゃ何もできないのは当然だもん。営業ってソロだけど、やっぱり一人でできることなんて知れてるから」


「そうだね」


時々は柚羽の愚痴につき合おう。


そんな気に私はなっていた。

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