第7話 デート?
振られた日、私は葵さんに迷惑を掛けまくって、寝つくまで添い寝までしてもらってしまった。
傍に温もりがあると安心ができた。
それからも葵さんは、気を遣ってくれるのか、よく休みの日に遊びに誘ってくれるようになった。
葵さんと2人で出かけるのは、初めは緊張していたけれど、徐々に自分が葵さんを独占できているようで嬉しさはあった。
「葵さん、ほとんど寝てたじゃないですか」
最近公開になった映画を見に行かないかと誘ってきたのは葵さんで、多少は興味があったので2人で休日の朝から観に行くことになった。
映画が始まって、ふと葵さんを横目で見ると、映画館のゆったりしたイスに背を預けて眠りに落ちていた。
「うん。よく寝たからすっきりしてる」
そう言いながら葵さんは両手を伸ばして伸びをする。葵さんが見たいと言ってきた映画なのに、見られなかったことに後悔はなさそうで晴れ晴れした顔をしている。
「また、昨日は飲み会だったんですね」
「だって、上司に誘われたから断れなくてね」
「帰りが遅いなら、うちに泊まればよかったのに」
葵さんは昨日の夜に1時間半掛けて家に戻って、今朝1時間半掛けてまた出て来ている。泊まっていれば後3時間は寝られた計算になる。
「泊まりすぎたら柚羽が怒るのよね。家主は真依なのにね」
最近葵さんは私のことを『真依』と呼ぶようになった。それを私も違和感なく受け入れられていて、葵さんにとって身近な存在になれていることが嬉しくもあった。
「どうして柚羽は葵さんが泊まるの嫌がってるんですか? 葵さん実はいびきがすごいとか?」
柚羽が今住んでいる部屋は元々両親の部屋だったので、シングルサイズのベッドが2つある。柚羽は片方しか使ってないので、葵さんが泊まりにくる時は、いつももう片方を使っているから問題はないはずだった。
「じゃあ、さっきの映画館で聞こえた?」
息づかいは聞こえただけだったことに気づき、すみません、と謝りを口にした。
「恥ずかしいんじゃない? いい年してお姉ちゃんと一緒に寝るのが」
「異性の兄弟でもないのに、私だったらお姉ちゃんがいたら一緒に寝られたら嬉しいです」
「じゃあ、次からは真依のベッドに泊めて貰おうかな」
「柚羽に嫌がられたらいいですよ。ちょっと狭いかもしれませんけど」
私の部屋のベッドはセミダブルのサイズなので、2人で寝られなくはないだろう。
「じゃあそうする」
「はい。でも、葵さんは家事が苦手だってお聞きしてますけど、通勤も大変なので、引っ越そうって考えたことないんですか?」
「そうなんだけど、タイミングを逃したなのかな。入社直後はまだ一人暮らしは早いなって思ってる内に、通勤に慣れちゃったんだよね。そこは柚羽の方が要領良かったけど、肝心の男を見る目はなかったみたい」
「葵さんは柚羽の前の彼氏に会ったことあるんですか?」
それに葵さんは首を横に振る。
「ワタシには紹介したがらないから、あの子」
「どうしてですか?」
「ワタシに盗られるとでも思っているのかもね」
思わず一歩退いてしまう。葵さんのしたことはないという言葉に安堵して、再び葵さんの隣に並んだ。
「ただ、ワタシは柚羽のコンプレックスの原因になってるかもって思うことはあるよ。ワタシはこんな性格だから好き勝手やってきたけど、柚羽は両親にお姉ちゃんと同じことをしておけば大丈夫だって常に言われて来たから」
葵さんは大手のSIerに就職しているくらいなので、恐らく大学も難関校出身だろう。姉妹揃って同じ業界は珍しいなと以前から思っていたけど、そういう両親の意向があって、柚羽がこの業界に入ったのだとすればおかしくはなかった。
「でも、営業になるって聞いた時は流石に反対したよ」
「どうしてですか?」
「SEなら会社が違ってもワタシが助けてあげられるでしょう? 営業って結局個人プレーだから、思い込むタイプの柚羽には似合わないんじゃないかなって思ったんだ」
「葵さんが家に顔を出すのは、柚羽が困ってないかを確認するためってことですね」
「真依にも会いたいからっていうのもあるよ?」
「それは有り難うございます」
お姉ちゃんってこんな風に妹のことを考えているんだと、少し柚羽が羨ましいと感じていた。
「お帰り、遅かったね」
帰って来た私に、リビングにいた柚羽から声が掛かる。
休みの日とは言え、もう21時を回っているので、早くはない時間だった。
「葵さんと映画行ってから、ちょっと買い物して、夜ご飯まで一緒に食べて来たから」
「またお姉ちゃんと出かけてたんだ。映画ならわたしがつき合ったのに」
「どうしても見たいじゃなかったけど、葵さんに行こうって誘われたから行っただよ。でも、葵さん、昨日飲み会だったって、ほとんど寝てた。葵さんから誘ったのにね」
「ふぅん。楽しかった?」
「楽しかったよ。今度は柚羽も一緒に行かない?」
でも、柚羽からの返事はなかった。
「嫌?」
「そうじゃないよ。タイミングが合えば行くよ」
「じゃあ、誘うね」
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