第3話 相談

翌日は一緒に家を出て、それぞれの勤務場所に向かう。今日は柚羽はどうするつもりかを聞けず仕舞いで別れたことに一人になってから気づく。


定時前になって、帰りに一緒にご飯でも食べないかと柚羽から誘いがあって、待ち合わせ場所だけを決める。


何となく柚羽は今晩も泊まるになりそうだと思っている。一人暮らしで場所も余っているので、柚羽が泊まることは嫌なわけじゃない。でも、帰れない理由の解決をできれば手伝ってあげたかった。


待ち合わせ場所に現れた柚羽は、私のスーツを着ているのに、私のスーツに見えなくて、柚羽の方が似合っているように見えた。


単に柚羽が手足が長くてスタイルがいいからだ、とは分かっていても悔しさはある。


可愛くないと柚羽は自分のことを言うけど、私から見れば細身のさっぱりした美人だった。


「泊めて貰ってるお礼で、今日は好きな物奢るから、何食べる?」


回るお寿司でいいと言うと、もっと高いものでもいいのにと柚羽がぼやく。


「一人暮らしが長いと、意外と行かない場所なんだもん」


友人と会えば飲みに行くことが多いので、普通にご飯を食べる場所は意外と行かなかったりするのだ。


「ならいいけど」


2人で回転寿司で食事を取ってから、当然のように2人で家に帰る。


「もうしばらくいてもいい?」


「いいけど、服はどうするの?」


今日は私のを貸したけど、流石に私は営業じゃないのでスーツのストックは乏しい。


「ちょっとだけ持って来たから、大丈夫」


待ち合わせ時間が少し遅かったのはそのせいか、と今更ながらに私は気づく。


何があったかはもうしばらく、柚羽が話そうと思う時までは待とう、と柚羽が泊まることを承諾した。





土曜日の午後、私も柚羽との生活には慣れて、2人でリビングで目的もなくテレビを見ていた。


「真依、ちょっと話があるんだけど」


両膝を揃えて座る柚羽から不意に声が掛かって、何かあるなと私も柚羽と向かい合うように座る。


「何?」


「えと……柚羽には泊めて貰って、そろそろ何があったかをちゃんと話すべきかなって思ってるんだ」


柚羽が居候を始めて10日が過ぎた。


単に泊めてもそろそろ有効期限切れだと柚羽も思っているのだろう。


「柚羽のプライベートだし、話せる範囲でいいよ」


「えと、多分わたしは真依に聞いてもらいたいんだと思う」


「じゃあ聞くよ」


柚羽の恋愛相談相手としては、私は頼りないだろう。でも、聞くだけならできることだった。


「前に彼氏と同棲するかもって話をしたでしょう?」


「春くらいだよね」


「そう。それで、部屋を探して同棲はしていたんだ」


「なんとなくそうかなって思ってた」


「で、そこを飛び出して来たのは、喧嘩をしたからなんだ」


「何か意見の相違があって?」


「……価値観の違い、に近いかな」


「そこが合わないと、夫婦でも離婚するからね。仲直りするのは難しそうなの?」


「生理的に無理。真依さ、彼氏が同棲もしてるのに、ソープ行くとか許せる?」


「ソープ……って、理解しきれてないけど、女性にその……気持ち良くしてもらうんだよね?」


そう。おかしくない? してほしいなら言えばいいのに」


言えばするんだ柚羽、と突っ込むのは流石にやめておく。


「それで喧嘩して飛び出したの?」


頷く柚羽の頬は怒りがまだ収まらないようで、膨れたままだ。


「連絡はしてるの?」


「一応してるけど平行線。向こうは俺は悪くないの一点張り。どう思う?」


「それ、恋人もいたことのない私に聞く?」


「ごめん、生々しかった?」


「男性がそういうところに行くのは仕方ないのかもしれないけど、同棲してる彼女がいるのに行くってちょっと許せないかな」


「だよね。レスならまだしもさ」


「柚羽がそれを怒るってことは、その人のことは嫌いにはなってないってことだよね?」


「好きだけど揺れてる。何か向こうは帰ってこなければそれはそれでいいみたいな態度だから余計に腹が立つんだよね」


「それって、直接会って話をしてる? お互い一方的な言葉だけじゃ上手く行かないことって多いよ」


「そうだね、一回ちゃんと話をしてみるよ。ありがとう、真依」


まだ元に戻る可能性はあるように私は思えていた。

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