第十章 対抗戦 予選

第80話 チュートリアル:セルフプレジャー

「フハッハハハ!」


 早朝六時半、家近くの公園にて旧ブ○リーみたく高笑いする男が一人。


「フン! フン! フン!」


 遊具の一番高い棒を握り、懸垂する俺だ。


 朝日が昇るのが遅くなると感じる秋から冬の季節。ジャージ姿でトレーニング中だ。


『チュートリアル:懸垂しよう!』


『懸垂:243/300』


 俺の体重を十分に耐える棒には驚きだけど、懸垂は上半身を鍛えれるから良いチュートリアルだ。


『チュートリアルクリア』


『クリア報酬:力+』


「フン! フン!」


 ご機嫌な俺は片手で懸垂もできちゃう。もちろん反動を使わす肩まで上げる。うん、チュートリアルで走り込んでからの懸垂。イイ感じに疲労感がある。


「ふぅー! いい天気だ!」


 なんて、なんて晴れやかな気分なんだ。空気が汚い東京なのに、こんなに清々しいなんて!


「リア充最高おおおおおおおお!!!!」


 両手を挙げてガッツポーズ! 高々と勝利宣言! これが彼女を持つ高校男児の気分か! 一足先に味わった大吾が羨ましいぞ!


「♪~」


 口笛を吹きジョギングしながら帰路する。


 すれ違う人が「なんだコイツ」な表情をするのは、ニヤニヤが止まらない俺を見たからだろう。


 しゃーないやん! だってしゃーないやん!!(関西弁)


 瀬那とキスしたんだぞ! 観覧車のゴンドラが時計で言う三時の所辺りまでずっとちゅーしてたんだぞ!! いっぱいいっぱいちゅーしたんだぞ!!


「デュフフ(キモ顔)」


 始めは慣れずお互い手探りだったけど、ベロ……大人のちゅーの感覚を掴んだらもう止まらなかった。


 瀬那が!


 顎を上げてキスしてたけど、俺の腰に手を回して更に加速。押しつけられた瀬那のおぱぱーいが凄く柔らかくて俺も大興奮! 俺も瀬那の腰に手を回して抱き着いた。


 貪り合い、互いを求めあうようなちゅー。熱くなった俺たちの口まわりは気づけば赤ん坊かとツッコまれる程べたべた。

 一旦止めて口を拭こうかなぁーと息継ぎした矢先、手塚ゾーンと化した俺の唇めがけて瀬那の唇と言うボールが必然的に迫って来た。


 もうむちゃくちゃやで。


 筋肉しか取り柄ない俺が椅子に押し倒されて永遠唾液交換されたんだぞ。


 止まらないオルガでさえ止まる所を、突き進んだ女だからな。


 瞳の奥が♡になった瀬那を見て、俺は逆に冷静になったまである。


 いや、むしろ冷静になって今思うと、俺の彼女ヤバくね? あの時はムードがそうしたけど、タガが外れた様に求めてきた状態はイケナイのでは?


「……よくないよなぁ」


 普通にくちびるが触れ合う程度のライトキスはしてもいいだろう。まぁ恋人だし。

 舌を絡ませるフレンチキスをたまにするのもいいと思う。高校生だけどカップルだし。


 だけどそれ以上はイケナイ。大人の階段を上るのは十八歳になってからだと強く誓っている。


 ……なに? 童貞の発想で草?


 童貞ですがなにか?


 ボク童貞ですけどなにか?


 首絞めるよ?


 握力計潰したこの手で首絞めるよ?


 すべからく男は童貞だったんだよ!?


「健全が一番。それは瀬那だって……ハッ!!??」


 一体いつから――――瀬那が処女だと錯覚していた?


「藍染○右介ええええええええ!!!!」


 貪欲に貪るあのディープキス……! 甘美な息遣いに目のハート! そして――


「――はじめぇ、しゅきぃぃ♡♡」


 とキャラ崩壊な始末!!


 べちゃくちゃになるほど急に積極的になっていた事に説明が付く! 処女じゃない事の説明が!!


「ッッッ~~~!!!」


 ききき気分が悪い……ここれ以上はだダメだ……。


「……ぅ」


 別に俺は処女厨じゃない。現に経験豊富で性欲マックスなお姉さんに襲われたいし。


 でもそれとこれとは別。


 瀬那さん、清い身体のままでいて欲しい……! 百歩譲ってきゅうりとかでって事ならまだ大丈夫だと思う……。でも……。


「……ただいま」


「おかえっ! どうしたのそんなにやつれて!? 大丈夫かい☆」


「いや、大丈夫じゃない。俺は今、この上なく気分が悪い」


 家に着きリビングに入るとリャンリャンが朝食の用意をしていた。いつも朝飯を作ってくれるリャンリャンにはもちろん感謝してるけど、今の俺は心労が……。椅子に座って項垂れる。


「うーん、見る限り別に内功は問題ないネ☆」


 仙人の目で俺の気の流れとやらを見たらしい。暖かなお茶を出された俺は一口だけ飲み込み、抱えてもしかたないと思い聞いてみる事にした。


「なぁ、マジでキモイ事聞いていい?」


「お風呂でセルフプレジャーして排水溝詰まらせる以上にキモイこと?☆」


「!?!?」


「濃過ぎるのは元気な証拠だネ☆」


「後処理ありがとうございました!! もうしません!!」


 満面の笑みで淡々と言う家臣。とんだ飛び火をくらってしまった。


 もう風呂で瀬那を想像しながらしない事をかたく誓う。


「話戻すけどさ……すげーデリケートな問題なんだ」


「そウ☆ で☆」


 空気を吸い込み意を決した俺は思い切って聞いてみた。


「ほら、その、俺って童貞だからさ……瀬那って処女なのかなって……」


「処女だヨ☆」


「やっぱりキモイよなぁ。彼女のそういうデリケートぉ……」


 ……?


 ……?


「今お前……何て言った……?」


 すらりと言ったリャンリャンの言葉。俺は効き間違いの可能性を示唆した。


「処女だヨ☆」


「俺こんなにモヤモヤして燃え尽きたジョーみたいに白黒になってんのに、なんで言い切れるんだよ!? 泣くぞ!!」


 彼女のデリケートを知りたくて知りたくない思春期真っ盛りの男児になんて仕打ちだ! 淡い幻想を抱かせて突き落とすが如く悪魔的所業!! この仙人は血も涙もない機械人形だ!


 なんてことを思っていると、別におだてる事や怒る事も無く、普通に語り掛けてきた。


「瀬那ちゃんって大哥が思ってる以上に強くて才能あるヨ☆ だからスキルを介さない仙気を開花させようとしてるんだけど、諸々の要素の一つとして処女か非処女かで開花の速度が変わってくるんダ☆」


「……その関係上聞いたのか、瀬那に」


「是的(そう)☆」


「……そうか」


 リャンリャンとマンツーマンで頑張ってるのは知っていたが、まさか仙人が唸る程の才能をもっていたとは。さすが俺の彼女だ。


 スキル外の力……。俺も一つだけ持ってる。深海へと旅立っていった彼女の一滴。


『魔力』だ。


 俺はオーラも持っているが、これは完全にスキルあっての物。でも魔力は一切スキルの提唱に触れないらしい。


 まだまだスキルに関しては国連も究明してるし、スキル外の力はどうなることやら。


「どう? さっきより顔色がいいネ☆」


「……俺は瀬那が頑張ってる事に関心してるんだ。決して処女だから嬉しいなんてこれっぽっちもやっぱ嬉しいわ!! 俺嬉しい!!」


 ヤバい超嬉しい!! マジで嬉しい!! 腰振りへこへこずんだもんが俺に腰振ってても許すわ!!


「ただ一つだけ」


「?」


「瀬那ちゃんを泣かせたら大哥でも許さないからね」


「……任せてよ。俺、瀬那のこと大事だから」


 朝食を済ませてからシャワーを浴び、指定のジャージに着替えて家を出る。


「がんばってねー☆」


「あいよー」


 リャンリャンの応援を胸に抱いてマンションから出た。


 少しだけ肌寒い。


 でも心は暖かだ。


 少し駆け足で向かった待ち合わせ場所。ジャージ姿ですでに待っていた。


「あ、おはようもえ!」


「おはよう……!」


 今日から一週間、対抗戦の予選だ。

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