第81話 チュートリアル:闇が深い

 天気は晴れ。十一月後半ともあって寒さを感じる日々だけど、すこし暑いのは気のせいじゃない。


「……あの、歩きにくいんですけど」


「えへへー」


 腕を絡めて歩くのは別にいいけど、こうグイグイ抱き着いて来るのは正直……。


「あの、恥ずかしいんですけど」


「私は恥ずかしくないからいいの!」


 待ち合わせ場所からずっとこの状態で歩いてる。柔らかおっぱいを腕に感じて「おっほ!」と思ったけど、思いのほか歩きにくい。


 役得と思っても、こう……なんだろ、周りの視線が刺さると言うか。リア充になれたけど俺自身は陰キャ。陽キャな瀬那は周りに見せつけたいと言ってたけど、どっちかというと俺はひっそりとイチャイチャしたい派だ。


「みんなに見せつけなきゃ!」


「別にそこまで――」


「萌は私の彼氏なんだってわからせてるの。じゃなきゃ悪い泥棒猫が寄ってくるでしょ……」


「泥棒て――」


「ダメだよそんなの。これは萌を守るためでもあるんだよ? ねえ聞いてる? ちゃんと聞いてる? ねぇ」


「き、聞いてるうん!」


「問題ナーシ!」


 何だったんだ今の瀬那。まるで未来日記の我妻由乃かと思った。ちょっと闇が深くないか? 大丈夫なのかこれ……。


「にししー」


 なんか機嫌いいし大丈夫だろう! きっと大丈夫! 俺刺されたりしない!


 と思いながら登校。同じく歩いている周りの学生は俺たちを見て驚いている印象だ。特に女子。


 奇異的な視線を感じるが、ちゃんとカップルと認識されている。


 瀬那のおかげだな。


「おはよう」


「おはよう!」


 教室に入り朝のあいさつ。モブ男くんたちはしっかり返してくれた。そして自分の席に目をやると、隣でニヤニヤしてるアホがいた。


「おっはようお二人さん~」


 梶 大吾だ。


「おはよう……大吾」


「おはー」


 席に着くとようやく瀬那が解放してくれた。


 大吾が後ろ向きに座り、腰掛けに顎を乗せてガチキモニヤつきフェイスで俺を見る。

 正直嫌な予感しかしない。


「ヤッた? ――ふぐ!?」


 俺のストレートが大吾の顔面に突き刺さる。何故かコメディな感じで突き刺さり顔が中心にめり込んでいる。


「っく、いいパンチじゃねーか……。俺じゃなきゃ死んでたね!」


「爆死しろ」


「今の萌ちゃんにそれを言う資格は無い!」


 確かに!!


 まぁふざけるのはここまでにして……。


「瀬那から聞いたよ、アドバイスしてくれたんだろ? ありがとな」


「ありがとね大吾。みんなのおかげで今の私たちがあるし!」


 正直な気持ちだ。俺以外の面子で瀬那を後押ししたと聞いてびっくりしたけど、同時に感謝もしてる。


 俺たち二人から素直な気持ちを伝えられた大吾。その表情は穏やかで、気恥ずかしいからか頬を掻いている。


「はは、二人に対してドギマギしたしどうなるかなぁって思ったけど、丸く収まって良かったよ」


 こう続けて――


「焼肉な!」


 めっちゃ現金な奴で資本主義だった。


 すげーイイ感じで友情を露にしたシーンなのにこの男ときたら……。


「はぁ、わかったよ! 飲み放題付きでみんなに奢ってやる」


「当然だよなぁ! なあ月野!」


「おう」


「月野いつのまに……」


 ガタイがいいのに気配を消すのが上手いなぁ。そんな月野のおかげでもあるから当然メンバーに入ってる。


 ……よくよく考えると勢いで奢るって言っちゃったけどヤバくないか? ギャルズと大吾に月野、ついでに花田さんも加えて彼女の瀬那にも奢る。


 財布吹き飛ぶわ。


 ……バイトしよ。


「二人がくっついてよかった」


「ありがとね。あ! そう言えばお姉さんと進展あった? 私そっちが気になるー」


「ん? ああ、勝ち残ったら、対抗戦の本戦トーナメント見に来てくれる」


「よかったじゃんか! こりゃカッコ悪いの見せられないぞ~」


 そう言えば月野も恋してたな。相手は幼馴染のお姉さんで、名前は確か本村さんだったか。


 ビーチで会って以来だけど、月野の反応を見る限り仲良くやってるみたいだ。

 月野に応援されたんだ、俺も応援する。


「――でさぁ」


「――そうなのか」


 談笑を微笑みながら聞いていると、予鈴がなった。


 しばらくすると担任教諭の阿久津先生が入ってきた。クラス全員が指定のジャージだが、予選である今日は先生もジャージだ。


「えーこれから予選会場へバスで向かうが、予選のチーム戦の説明はタブレットにあるので改めて説明しません。めんどいから」


 そこは改めて説明してくれ。


「正直全員がいい成績を残せることが望ましいが、俺からは一つ。怪我が無いようにな」


 普段やる気なくお茶ら気な先生が真っ直ぐな視線を俺たち全員に向けられた。どうやら本当に思ってるらしい。たまに良い事言うから憎めないんだよな。


「あと俺のボーナスのために頑張れ」


 この一言がなければ。



 会場は学園からバスで二十分ほどの場所。東京ドームとほとんど変わらない広さと言うのは外観だけで、内部は体感で分かるほど本当に広い。どうやら国連の超技術がハリーポッターの魔法並に効果を発揮し、外観以上の広さになっている。らしい。


 タブレットにそう書いてある。ちなみにハリーポッターのくだりは俺の見解だ。これが大阪や世界の学園にもあると思うと驚きを隠せない。


 国連が秘匿してる技術は現代の技術を遥かに凌駕している。


 でも誰もそれを暴けないのはまた闇の深い事なのかもしれない。


「そろそろ時間だからバスに乗り込むぞー」


 今日行われるチーム戦は後輩組の一年、先輩組の三年生、俺ら二年生の順番で行われる。なぜこの順番なのかと疑問に思うが、どうやらこれも国連が絡んでるらしい。


 おおよそ二時間で一サイクル。俺らは必然的に昼からだ。


 会場内に放たれた仮想モンスターを倒し得点を競う。上位層のチームが明後日の水曜日に行われるバトルロワイアルへと進める。たったこれだけなのに二時間もいるかと思うけど、実際にはもっと時間が必要なのかもしれない。


「地形も変わるらしいし、とんでもねー技術だよなぁ」


 バスに揺られタブレットを見ながらそう言う大吾。


 会場の地形も変わるから地形に関する事前情報は一切役に立たない。


「おー! 見えた見えた!」


 隣の窓際でテンションの高い瀬那。釣られて窓の外を見ると、これまた校舎と同じく半透明な素材を使った先鋭的デザインのドーム型会場だった。まぁタブレットにどんな建物なのか載ってはいたが。


 バスが止まる。


「はいじゃあ降りる準備してさっさと降りろー」


 バスから降りた。


 思わず深呼吸する。空気の味は同じだった。


「……ふぅ。いよいよだなぁ」


 少し肌寒い空気を感じながら呟いた。

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